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14.遭遇そして翻弄
しおりを挟む春のうららかな陽光が、花が咲き乱れる王宮の庭を包み込む。そんな中、散策用の芝生の上を年の離れた2人の男女が仲睦まじく歩いていた。
「んも、くっつき過ぎだってば」
長い黒髪を下ろし、白いブラウスに焦茶のロングワンピースとショートブーツを身に付けた美少女は、右肩を抱かれ、左手は恋人のように指を絡められている。瑠璃は、このゴツゴツした手から逃れようとするが、体格差も相まって、びくともしない。
「デートは恋人同士がこうやって手を繋ぐもんだろ?」
カルセドは、無造作に整えられた茶髪に、白いYシャツに黒のズボンと革靴を履いていた。とてもシンプルな服装ながら、整えられた美形の顔と引き締められた筋肉がより一層際立つ。
「それはそうだけど…こんなにくっつかなくても…」
瑠璃は、この大人の色気を放つカルセドに対して、あまりの恥ずかしさに目を合わせることが出来ない。
「じゃあ」
「へあっ?!」
「お前は側妃だ。側妃とはつまり、王の愛人だ。お前もそれ程、俺を嫌ってないということだ」
「それは…そう言わないと…追い出されるかもしれないし…」
「まぁ、お前が否定しても、俺が認めてしまえば良いだけだが、どっちにしろ、俺はお前を手離さない。何があっても、な」
「なっ…」
グ~~~ギュルギュル
「とりあえず、朝飯食おうか…お前、ここに来てから何も食べてないだろ」
カルセドは口を手で覆いながら、必死に笑いを堪える。みるみるうちに、瑠璃の顔が真っ赤に染まる。
「な、何よ!元はと言えばあんたのせいなんだから!あまりにいろんなことが起き過ぎて、とてもごはんどころじゃなかったわ」
瑠璃はカルセドが密着しているのを良いことに、ありったけの力でカルセドの胸板をポコスカ叩く。
「それは、本当に悪いことをしたと思ってる。済まない。だが、食べ過ぎて腹壊すなよ」
カルセドにとっては痛くも痒くもないが、そんな瑠璃を愛おしく、つい頭をポンポンする。
「余計なお世話なんだから!」
「もうすぐ、庭を抜ける。下町はすぐだ。まずは、俺行きつけの食堂へ「陛…下?」
突如として、後ろから女性の声が掛かった。
振り返ると、見るからに高級な生地のドレスを身に付けた婦人のようだった。痩せて線が細めの、儚げ美女というのがふさわしい。
「お久しぶりです、陛下」
「…王妃、久しぶり…だな。具合はもう良いのか」
「はい、お陰様で。陛下こそお元気そうで何よりです。どこかにお出掛けですか?」
「あぁ、下町で朝食を取ろうと思ってな」
「朝食ですか、それは良いですね!私もちょうど…」
どうやら、2人は顔見知りのようだ。儚げ美女は、カルセドを恋人のようにうっとり見つめ、カルセドはそんな彼女に対して少し戸惑っているように見える。よく分からないが、2人はただならぬ関係であることは見て分かる。
今はとにかく2人の会話の邪魔にならないようにと瑠璃はカルセドから身を離そうともがく。だが、当のカルセドは瑠璃から一向に離れようとしなかった。瑠璃はついに諦め、2人の会話を黙って聞いていた。
「ところで…」
会話に一区切りついて、その美女が瑠璃の方を見やる。カルセドの時とは違い、その瞳は爛々としていた。
それは、初めて見るものを査定しているかのような目つきだった。
瑠璃は焦る。
どうしよう、なんて答えよう…
もしかしたらカルセドの恋仲の人とか、別の愛人かもしれないし…
「あぁ、側妃のルリだ」
カルセドは瑠璃の気を知らないのか、淡々と答える。
「えっ、ちょ」
「?!側…妃…」
「そしてルリ、ネアは王妃だ」
「えっっ!!!王妃?!じゃ、カルセドの奥さんってこと?!は、はじめまして、王妃様!私は瑠璃と言います」
瑠璃は慌てて目の前の王妃に挨拶をする。
王妃と側妃なんて修羅場の火種でしかない。
いや、私は本当の側妃ではない。
あくまで仮なのだから…
「?!!…そうですのね…はじめまして、ルリさん。そんなに緊張しなくても良いのよ」
一瞬、困惑を見せた王妃ネア、はすぐに凛とした姿勢に戻る。
「あ、ありがとうございます…」
「王妃、ルリとは今後仲良く「あの、陛下!私がお子を授かれないために、側妃まで設けなさったのですね…本当に、お詫びのしようもございません。それに、私のことは王妃ではなくネアとお呼び下さって良いのですよ?」
おっとりとした印象のネアはカルセドに間髪入れさせないほどの早口だった。
「今まで役職で呼び合ってたからな…まぁ呼び名は…考えてみるよ。それより、子のことは安心しろ。お前は気にせず、自分を「もう、治りました!!今夜からでも構いません。私にチャンスを頂けないでしょうか」
「っ?!王妃、今何と…」
「ですから、もう一度私にチャンスを下さいませ。お願い致します」
「だがしかし…」
言葉に詰まるカルセドをよそにネアは続ける。
「陛下がお子のことで大層長く悩んでおられたのは私のせいなのです。なのに私は…どうすることも…出来ずに……なので責任を取らせて頂きたいのです。取れなければ私の気が済みません。どうか!どうか私にチャンスをお与え下さい」
頭を下げて必死に懇願するネアに、答えを躊躇うカルセドだったが、
「良かったじゃん、子作り…やり直しが出来て…」
「お、おい、ルリ…」
今度は、瑠璃の唐突の言葉に困惑する。
瑠璃は、身体が固まったままのカルセドから抜け出すと、
「跡継ぎでたくさん悩んでたってアナさんから聞いたわ。王妃様が頭を下げてまでやり直したいってお願いしてるし、後は2人でゆっくり話した方が良いと思うの。まぁ、王妃様がもう大丈夫なら、側妃の私はお役御免よね。私、先に帰るね」
「いや、ルリ、これは…」
「私はこれで失礼致します、国王陛下、王妃殿下」
瑠璃は今までの馴れ馴れしい態度を改め、国王カルセドと王妃ネアに対して、気品を備えた令嬢のように丁寧で美しいお辞儀をした。この場を後にした瑠璃は、後ろからカルセドの呼ぶ声が聞こえた気がしたが、決して振り向くことはなかった。
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