召喚鬼 異世界冒険噺

悠遊

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第一章

戦闘其の三  決着。そして──

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 やった──


 目の前で立ち昇る光の柱が、それを実感させる。
 これまでの失敗や辛い出来事も、無駄では無かった。と──。

 やがて光の柱は虚空に消え、その中から現れたのは、一体の巨人。
 
「…………………………へ?」
 巨人の背中を見上げ、本の中でしか見たことの無いその“正体”に思わず間の抜けた声が洩れた。

 現れた者は、岩石の巨人にして、一部地方では“守護者”としても祀られている存在《ウォールゴーレム》。でなければ召喚出来ないとされている《対象者》だ。

 ここにいる大型の《魔鬼ディアボルス》よりも巨体で岩のような表面。頭部にある目と思しき二箇所が一瞬光ると──、


 オオオオオオオオオオオオォォォォォォーーーーーー!!!!!!


 地鳴りの如き雄叫びが大地と虚空を揺らし、両腕を大きく掲げて地面を一打。その衝撃にアベルの身体が一瞬浮き「わわっ!」と、バランスを崩してその場で転んだ。
 対決していたはずの紅と《魔鬼ディアボルス》も、巨人の雄叫びと地震に手を止め、揃って目を丸くしながら見上げている。
「はぁぁ……これはまた面妖な…かの陰陽師でも、ここまでの式神がいたかしらねぇ」
 と、感嘆を吐いてしまう。
「っ! 《ウォールゴーレム》!! あの《魔鬼ディアボルス》をやっつけてッ!!」
 主命を受け、再度雄叫びを上げると地響きを起こしながら重く前進する。
 明確な敵意を感じた《魔鬼ディアボルス》もまた負けじと咆哮を上げて飛び掛かり、両手を組んで振り上げた。

 ガルォォォオオオオオオッッ!!!

 上半身を弓形ゆみなりに引き、全体重を拳に込めて《ウォールゴーレム》の頭頂部に振り下ろす。
 見た目通り鈍重な《ウォールゴーレム》は相手の俊敏さに敵わず直撃を受けた。表面が砕き弾ける音がアベルの耳にも届く。
「っ!!」
 やはり敵わないのか。そんな事を一瞬悟ってしまった。
 しかし──ゴーレムは何事も無かったように動き出し、今度は素早く《魔鬼ディアボルス》の胴体を両手で鷲掴むと、天高く放り投げた。
 ───一旦は遠去かり、やがてすぐに舞い降りてくる敵の悲鳴。


 ゴォオオオオオオォォォォォォーーーッッッ!!!!!!


 巨腕を片方だけ引き、拳を握り、大きく振り上げる──その拳、まさに迫り来る岩石の如く。受け身が取れないでいた《魔鬼ディアボルス》に見事直撃し、今度は天の彼方まで吹き飛ばした。
 あっという間に夜空へ消えていった《魔鬼ディアボルス》。残っていった悲鳴は虚空に残響するが、それも瞬く間に失せていく。
 村に静寂が訪れ、役目を終えたとばかりに《ウォールゴーレム》も粒子となって退去する。
 

 危機は去った──。


 アベルはそれを実感し、座り込んだまま放心状態で夜空を見上げる。
 
 ──────星が、眩しい。

「や、やった……」
 ぽそりと、それだけが口から溢れた。
「すごいじゃない、お見事! 天晴れ!」
 と拍手で賞賛を送りながら寄ってくる彼女にアベルは振り向き、ぎこちない笑顔と緩いガッツポーズを決める。
「ふふ、あの時の脆弱さはどこにいったのやら…でも、最後の締めが甘いわねぇ」
 と、彼の服を両肩を掴んで持ち上げて無理矢理立たせ、両頬を摘んで強引に上へ吊り上げる。
「イヒャぃ、イヒャイ!! はヒャひぇぇ!!」
「勝者ならもっと誇らしくしなさい。ほれほれぇ♪」
「んぐ、ぐぐぅぅぅっ!?」
 頬を上下に動かされ余計に痛みが増す。地団駄を踏み、強引に彼女の手から解放すると「イッタイって言ってるだろッ!!」と目くじらを立てる──が、何の効果も無く、紅は懲りて無い様子で笑みを浮かべているうえに疲労のせいもあって、これ以上付き合うのは無理だと観念して項垂れた。
「どう? 少しは自信付いたかしら?」
「………少しは、ね」
「──…まだまだ子供ねぇ」
「は?」
「あべるはまだまだ尻の青い青瓢箪あおびょうたん小僧って言ったのよ」
「そんなに長く言ってないだろ! てか“アオビョウタン”って何!? 結構前から思ってたけど、ワケの分からない言葉使うなよな!」
「あらぁ? 私に指図する気かしらぁ?」
 今度は怖い笑みを浮かべて再び彼の頬を摘もうとした時だ。

「アベルッ!!」

 セレーナだ。二人は声のする方を向くと、彼女の後に続く形で村人達も続いてやって来ている。彼を呼ぶ声、心配する声、賛美する声──様々だ。
「母さん! みんな大丈夫!?」と、アベルも彼等、彼女等の元へ駆け寄り、無事と安堵の喜びを分かち合う。

 ──そんな様子を、紅は離れた場所から見つめていた。

「………」
 紅が振り返り、その場を去ろうとした時だ。
「待て《魔鬼ディアボルス》!!」
 討伐隊の隊長がまだ動ける隊員を引き連れて取り囲んだ。
 しかし、いずれも疲弊している者ばかりで、包囲されたところで紅には何の支障も無い。
「このまま逃すと思っているのか?」
「……呆れるわね。そんな強がりだけで私をどうにか出来るとでも?」
 そんな彼女の態度を見た村人達が騒めいた。
「何だって!? あの女《魔鬼ディアボルス》だったのか!?」
「見たことねぇ変な服を着てたし、どっか怪しいと思ってたんだ!」
「まさか…! 今のもきっとアイツの仕業よっ!!」
「じゃあやっぱアイツのせいで…!」
「許せねぇ──さっさと死んじまえってんだ!!」
 酒場で一緒だった者達からの不信感を皮切りに、負の連鎖は始まった。彼らに乗じて他の者達もこぞって紅へ罵声を浴びせかけていく始末へと変わる。
 怨嗟も罵られも涼しい顔で澄ます彼女ではあるが、アベルにとっては聞くに堪えない状況だ。
「ま、待ってよみんな!! コウは──!!」
「アベル!!」
 と、レミーラは息子の腕を強く引き寄せ、彼女を弁解しようとする口を塞いでしまった。
 まさか唯一の理解者と思っていた者からこのような仕打ちを受けようとは思わず、ショックのあまりアベルは驚愕の形相を浮かべたまま大人しくなってしまう。
 レミーラと紅の視線が重なる。ほんの一瞬だけだが、紅は目を細め、それに対してレミーラは小さく頷き返した。
「──ふふ…」
「?」
「あーはっはっはっ!! そんな満身創痍な状態でこの“灼炎姫しゃくえんき”お紅をどうにかしようなど笑止千万!!」
 と、
「──ッッ!?」
「さぁさぁ! 私を倒したければ、その足でっ!!」
 指で招き、声高に挑発。そしてその場から大きく跳躍──村から遥か離れた林の中に潜り、彼女の笑い声だけが夜空に残響する。
 あまりにも手際良い退き様に一瞬誰一人として動けず上を見上げたままになっていた。
「──!? 動ける者は追うぞ!! 負傷者は【ミストラル】へ帰還せよ、急げッ!!」 
 隊長の指示に討伐隊が動き、残された村人も──、
「……全く…なんて夜だ」
「得体の知れない他所者は今度から気をつけなきゃな…」
「アベル、次は注意しろよ。レミーラもよく言い聞かせてやれ」
 などと、悪態を吐きながら次々に去って行く──やがて此処に残ったのは、アベルとレミーラのみ。
 漸くレミーラの手が離れ、アベルは母親の腕に掴みかかった。
「どうして何も言い返さなかったんだよ!! コウは襲ってきた奴等と何も関係してないじゃないか!!」
「……アベル、話しがあるから帰るわよ」
「ッ、母さ──!」
 母の目を直視。初めて見る眼差しに追求が詰まり、代わって疑問が脳裏を駆け巡っていく。
「帰るわよ」
 静かに諭され、彼は頷くしかなかった。
 その後はお互いに目も合わせず、口も交わさず、ただ黙って家の玄関を潜る。
「椅子に座って待ってて」
 と、レミーラは徐ろに家中の窓を確認し始めた。
 何か理由があるのだろう。そんな予測はしていたが、
(聞かれちゃマズい事なのかな……)
 と、椅子に座りながら憶測を続ける。
「………いないわね」
 暫くして確かめ終えるとレミーラもアベルと向かい合わせに座る。
 彼女の手には革の背負い鞄が一つ。中に何か入っているようで膨らみもあった。それをアベルの前に置き「中を見なさい」と告げる。
 意図が分からずにいたが、鞄の留め具を外して中を覗く──小瓶が五本、一冊の本、保存食の乾パン、等々。ばかりだ。
「これって……」
「先ずはアベル、さっきはごめんなさい。あんなこと言われて黙ってられなかったのは痛い程分かっていたわ。けどあそこで言い争いになっていたら、きっと貴方まで危害が及んでしまうと思って」
「……」
「気のせいかもしれないけど、コウさんと一瞬目が合った時『ごめんなさい』って言われたような気がしたの。それで、ああ言って去った…その時の様子は知らないけど、本当は村を救ってくれた恩人のはずなのに、申し訳なく思うわ」
 その通りだ。彼女は、結果的に村を“護って”くれたのである。
 なのに──…。アベルの脳裏に再びあの光景がぎった。
「コウなら………そうだね『ただの成り行き』って言いそう。討伐隊が来てなければ、たぶん一緒にご飯食べて何かやってただけだと思うし」
「そうね。せっかく作った料理も、冷めちゃったわね」
「……母さん。僕にこれを持ってくれたって事は、なんだよね」
「ええ。そうよ」
 息子の手の上に、己の手を重ねる。
「コウさんを追ってらっしゃい。そして──二人で色んな場所を見ていきなさい」
 ──あぁ、分かってくれていた。心が震え、うっかり涙が溢れそうになる。
「もう、折角の門出なんだからしっかりしなさい」
「…うん。でも出る前に、お腹空いたからご飯食べたい」
「はいはい」
 少し待っててね。と、調理場に立ち、再び釜戸の火を起こす。
「一回部屋に行って来るね」
 準備を整えるため、共に育った部屋に一旦の別れを告げるために。


 ──出発は、ご飯を食べてからだ。
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