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第二章
第六道中 依頼
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鵺とは、頭が猿、胴体は虎、尾は蛇となっている妖怪。
姿もさながら、特徴的なのはその鳴き声だ。その不気味な見かけからは想像出来ないようなそれは、まさに『鳥』。
紅が表舞台で暴れていた時代では《鬼》に並ぶほど有名な妖怪だ。
鵺は自ら襲いはしない。黒煙を纏って空を漂い、只々鳴くのみ。当時は得体の知れないその声に不安や恐怖心を煽り、獲物が徐々に弱って衰弱した頃合いを見計らって寄り、その血肉を喰らっていた。
この頃、その声は『不吉』と称され、時代の天皇達を苦しめていたとされている。
「──たった一度だけ、あんまりにも喧しくて腹いせに殴り込んだことがあるのだけれど、私だけでは結局倒せなかったの。奴は姿を現しては消えてを繰り返しながら襲ってくる厄介なところがあって、その場から追っ払うことがやっとだったわ」
「紅でも倒せなかった…」
「ええ。でもいつだったか、私じゃなくて人間共の手によって討ち取られたって聞いたわ」
そう。その妖怪は、既に当時の武士の手によって討ち取られている。紅はそう耳にしていた。
だが実際は違っていたようで、どうやら此処にいるようだ。
「木霊達も言っていた! 『《鵺》いなくなった』って! でもこの森でおんなじ声聞いた!」
『……そのような魔物がなぜこの世界にやって来たのかは知り得ませんが、かの者が棲みついて以来、森の安寧は崩されました。私が抑えていた一部の凶暴な魔物が、さらに凶暴性を増して手がつけられない状況にまで陥ってしまいました』
「あら? 大精霊様と云うのも案外大したことないのねぇ」
「キサマッ!!」
あからさまな侮蔑にクルフがスタッフをかざして敵意を剥き出した。
「ちょっとコウ!! 何でそんな言い方するんだよ!!」
「ふんっ」
『いえ、その者の言うとおりです』
「お?」
意外にも素直に受け入れたことに紅は目を丸くした。
『情けないことに《魔鬼》が各地で台頭してからというもの、我々の力が弱まっているように感じているのです。私達精霊は自然界の影響によってその力は左右されます。これは推測の域を出ていないのですが、私は《魔鬼》が原因だと考えています』
「それは自然界のバランスが崩れたから、でしょうか?」
「おそらく。ただ気掛かりなのは、単に現れただけで自然界のバランスがここまで脆くも崩れるものなのか、甚だ不思議なのです…」
重い空気が漂う。嫌な胸騒ぎを各々抱えている最中、紅だけは何知らん顔で全員の顔を見渡していた。
「………はぁぁ。話しが外れているようだけれど、で? 結局のところ貴女は鵺をどうしてほしいの?」
『そうでした。もちろん、退治していただけますか? 対価は、そうですね。私の出来うる範囲で、一つだけ願いを聞きましょう』
「言ったわね。その言葉、忘れないでよ。それじゃ行くわよあべる。河童達も思い当たる場所を案内しなさい」
「「へ、へい!!」」
それだけ聞くと踵を返して河童を先導に森の奥へ足を運ぶ。
「ちょ、ちょっとま──!」
「アベル君。少しいいかい」
呼び止められ、クリフに振り返ると、彼から有無言わさず何かを手渡された。
それは一見して大きめのブローチを思わせる代物だった。
「これは?」
「それは“テレポストーン”。使用者を予め指定した場所まで即時転送する魔法具だよ。場所は【マイアット】のギルドに設定してある」
「あ、ありがとうございます…」
何故これを手渡されたのか、いまいち理解が出来なかった。
それを見透かされたのか、クリフは真剣な眼差しのまま顔を近づける。
「いいかい…彼女を信用しない方がいい。いざとなったらそれを使って一人で帰って来るんだ」
「!?」
「彼女は、自分は《オニ》だ。と言っていたが、結局は《魔鬼》と同じことだよ。見た目がそうだという点もあるけれど、何より根本がアイツらと同じだと、僕は思う」
『私も同意見です』
「大精霊様まで!」
『貴方が彼女を喚び寄せた事が実力であれば問題無いでしょう。しかし、そうではなく、ただの偶然なのであった場合……使役するには、あまりにも危険です』
否定したいが──否定しきれない自分もいる。
まだ会って間もない彼女だが、その奔放さにいつも振り回されている。
──今もそうだ。
紅は、自分の実力で喚び寄せたとはアベル自身も思っていない。単なる事故で起きた縁だ、と。
であれば──この繋がりは、いったいなんなのだろうか。
「僕は召喚士ではないけど、それを生業としている以上《対象者》を御せないのは……厳しいことを言うけど、召喚士失格なんじゃないかな?」
「っ!!」
クリフの言葉が胸に刺さる。彼もまた会って間も無い間柄にも関わらず本音をぶつけてきた。
悔しくて堪らないけど、自信が無い。
「………今は、彼女を追いかけます」
「答えになってないね……さっきは手伝うって言ったけど、撤回させてもらうよ。その代わり依頼完了報告をして、報酬を受け取っておく……言っておくけど、それはキミの報酬だ。ギルドで待っているから、必ず取りに来るんだよ」
「はい」
それだけを伝え、アベルはその場から逃げるようにして紅を追いかけた──。
そんな彼の背中をクリフと《ウンディーネ》は静かに見送る。
『……貴方はこれからどうするのですか?』
「先程彼に伝えたとおりです。町に帰って──」
『いえ、その後です。其方は、ただの冒険者ではありませんね?』
「──何のことでございましょうか?」
『質問を質問で返すのは感心しませんね』
先程クリフが返したやり取りを今度は《ウンディーネ》が返してみたが、クリフは顔色ひとつ変えず、その場を去ろうと足元に『瞬間転移』唱えて魔法陣を展開。
「それでは《ウンディーネ》様、ここで失礼致します。偶然とはいえ、お会い出来て光栄でした」
それだけを告げ、クリフは魔法陣と共に消えていった。
残った《ウンディーネ》は目を閉じ、自らの姿を一羽の鳥へと変化させて空へ上昇。紅達を追跡を始めた。
『先程の人間と召喚士の子……久しぶりに人間と話してみましたが、やはり人間は興味深いですね。他の大精霊達も、彼らと会ったらさぞ興味をそそられるかもしれませんね』
姿もさながら、特徴的なのはその鳴き声だ。その不気味な見かけからは想像出来ないようなそれは、まさに『鳥』。
紅が表舞台で暴れていた時代では《鬼》に並ぶほど有名な妖怪だ。
鵺は自ら襲いはしない。黒煙を纏って空を漂い、只々鳴くのみ。当時は得体の知れないその声に不安や恐怖心を煽り、獲物が徐々に弱って衰弱した頃合いを見計らって寄り、その血肉を喰らっていた。
この頃、その声は『不吉』と称され、時代の天皇達を苦しめていたとされている。
「──たった一度だけ、あんまりにも喧しくて腹いせに殴り込んだことがあるのだけれど、私だけでは結局倒せなかったの。奴は姿を現しては消えてを繰り返しながら襲ってくる厄介なところがあって、その場から追っ払うことがやっとだったわ」
「紅でも倒せなかった…」
「ええ。でもいつだったか、私じゃなくて人間共の手によって討ち取られたって聞いたわ」
そう。その妖怪は、既に当時の武士の手によって討ち取られている。紅はそう耳にしていた。
だが実際は違っていたようで、どうやら此処にいるようだ。
「木霊達も言っていた! 『《鵺》いなくなった』って! でもこの森でおんなじ声聞いた!」
『……そのような魔物がなぜこの世界にやって来たのかは知り得ませんが、かの者が棲みついて以来、森の安寧は崩されました。私が抑えていた一部の凶暴な魔物が、さらに凶暴性を増して手がつけられない状況にまで陥ってしまいました』
「あら? 大精霊様と云うのも案外大したことないのねぇ」
「キサマッ!!」
あからさまな侮蔑にクルフがスタッフをかざして敵意を剥き出した。
「ちょっとコウ!! 何でそんな言い方するんだよ!!」
「ふんっ」
『いえ、その者の言うとおりです』
「お?」
意外にも素直に受け入れたことに紅は目を丸くした。
『情けないことに《魔鬼》が各地で台頭してからというもの、我々の力が弱まっているように感じているのです。私達精霊は自然界の影響によってその力は左右されます。これは推測の域を出ていないのですが、私は《魔鬼》が原因だと考えています』
「それは自然界のバランスが崩れたから、でしょうか?」
「おそらく。ただ気掛かりなのは、単に現れただけで自然界のバランスがここまで脆くも崩れるものなのか、甚だ不思議なのです…」
重い空気が漂う。嫌な胸騒ぎを各々抱えている最中、紅だけは何知らん顔で全員の顔を見渡していた。
「………はぁぁ。話しが外れているようだけれど、で? 結局のところ貴女は鵺をどうしてほしいの?」
『そうでした。もちろん、退治していただけますか? 対価は、そうですね。私の出来うる範囲で、一つだけ願いを聞きましょう』
「言ったわね。その言葉、忘れないでよ。それじゃ行くわよあべる。河童達も思い当たる場所を案内しなさい」
「「へ、へい!!」」
それだけ聞くと踵を返して河童を先導に森の奥へ足を運ぶ。
「ちょ、ちょっとま──!」
「アベル君。少しいいかい」
呼び止められ、クリフに振り返ると、彼から有無言わさず何かを手渡された。
それは一見して大きめのブローチを思わせる代物だった。
「これは?」
「それは“テレポストーン”。使用者を予め指定した場所まで即時転送する魔法具だよ。場所は【マイアット】のギルドに設定してある」
「あ、ありがとうございます…」
何故これを手渡されたのか、いまいち理解が出来なかった。
それを見透かされたのか、クリフは真剣な眼差しのまま顔を近づける。
「いいかい…彼女を信用しない方がいい。いざとなったらそれを使って一人で帰って来るんだ」
「!?」
「彼女は、自分は《オニ》だ。と言っていたが、結局は《魔鬼》と同じことだよ。見た目がそうだという点もあるけれど、何より根本がアイツらと同じだと、僕は思う」
『私も同意見です』
「大精霊様まで!」
『貴方が彼女を喚び寄せた事が実力であれば問題無いでしょう。しかし、そうではなく、ただの偶然なのであった場合……使役するには、あまりにも危険です』
否定したいが──否定しきれない自分もいる。
まだ会って間もない彼女だが、その奔放さにいつも振り回されている。
──今もそうだ。
紅は、自分の実力で喚び寄せたとはアベル自身も思っていない。単なる事故で起きた縁だ、と。
であれば──この繋がりは、いったいなんなのだろうか。
「僕は召喚士ではないけど、それを生業としている以上《対象者》を御せないのは……厳しいことを言うけど、召喚士失格なんじゃないかな?」
「っ!!」
クリフの言葉が胸に刺さる。彼もまた会って間も無い間柄にも関わらず本音をぶつけてきた。
悔しくて堪らないけど、自信が無い。
「………今は、彼女を追いかけます」
「答えになってないね……さっきは手伝うって言ったけど、撤回させてもらうよ。その代わり依頼完了報告をして、報酬を受け取っておく……言っておくけど、それはキミの報酬だ。ギルドで待っているから、必ず取りに来るんだよ」
「はい」
それだけを伝え、アベルはその場から逃げるようにして紅を追いかけた──。
そんな彼の背中をクリフと《ウンディーネ》は静かに見送る。
『……貴方はこれからどうするのですか?』
「先程彼に伝えたとおりです。町に帰って──」
『いえ、その後です。其方は、ただの冒険者ではありませんね?』
「──何のことでございましょうか?」
『質問を質問で返すのは感心しませんね』
先程クリフが返したやり取りを今度は《ウンディーネ》が返してみたが、クリフは顔色ひとつ変えず、その場を去ろうと足元に『瞬間転移』唱えて魔法陣を展開。
「それでは《ウンディーネ》様、ここで失礼致します。偶然とはいえ、お会い出来て光栄でした」
それだけを告げ、クリフは魔法陣と共に消えていった。
残った《ウンディーネ》は目を閉じ、自らの姿を一羽の鳥へと変化させて空へ上昇。紅達を追跡を始めた。
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