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プロローグ ワルプルギスの夜に
EP.VI 新しい日、少年少女の旅立ち
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宴は終った。
この<役者>たちは前にも話したように、
みな精霊だ。
今では空気のなかへ、
うすい空気のなかへと溶けてしまった。
そして、この幻が礎のない建物であるのと同じように、
雲を頂く塔も、
豪華絢爛な宮殿も、
荘厳な寺院も、
巨大な地球そのものも、
地上のありとあらゆるものも、
すべていずれは消滅し、
今消えていった実体のない見せもの同様、
跡形も残しはしない。
我々は夢と同じ材料でできている。
この短い人生は眠りで包まれているのだ。
無限回廊書架 DDC. 822
――ウィリアム・シェイクスピア『The Tempest』 - A.D. 1611
虚数とはなんだろうか。
この世界と裏の世界とは隣り合っていて、しかも重なり合っているが、それでもどうやら隙間というものがあるらしい。もはや形では想像がつかないが理屈で言うとそうなるらしい。そしてその世界と世界の隙間に虚数空間と呼ばれてる空間が広がっているそうだ。
「お主は今、空気、火、水、土、光、闇、虚数の、七属性のマナが見えているということじゃ。そして恐らくそれこそが、神の使いによってもたらされた権限というものの正体であろう」
「ロールっていうのはどういう意味なの?」
「ロールとは役割・権限という意味じゃな。神様は何らかの実験のために、お前さんがこの世界に対して何かをする役割・権限をお与えになった、ということになるのじゃが…、何か指示は受けておらんのか?」
「特には…」
戦の指揮を執る将軍などが、各職業や部隊の動きをシミュレートする際に、その小部隊の隊長などになりきって戦略を立てることをロールプレイという。そこから派生し、子どもたちが有名な将軍になりきって広場でちゃんばらごっこを行うのも立派なロールプレイである。
成人でも兵士でもない僕だけれど、仮に将軍というロールを与えられたら、小部隊を動かせる権限を得たり、統率するという役割を得る。
では今の僕には何のロールが与えられて、どんな役割・権限があるのだろうか。自分の能力が引き上げられたということは分かったのだけど、それが何のためなのか、何をすればいいのか、それについては何も聞かされていなかった。
「あの…グレーゲル村長。ロールと一緒に与えられた、リソースっていうのは何なのでしょうか?」
神様の使いから与えられたのは二つ。
ロールとリソースだった。
「リソースというのは、資源や材料という意味であるが…。コーダはなにか使える魔法はあるかの?」
「ううん、まだ何も…」
「ふむ…それであれば…。ロースマリー、ダイニングからコスケンコルヴァを持ってきてくれぬか」
「かしこまりましたわ」
「おいおい…それって…」
「レイフよ、まだ何も言うでない」
ロースマリー、もといマリーが席を立って部屋を出て行く。
コスケンコルヴァ?
一体なんだろう?
しばらくしてロースマリーが大きな瓶を抱えて戻ってきた。KOSKENKORVA と書かれたラベルが貼られており、中には透明な液体が入っているようだ。
「コーダ、まずはこれを飲んでみるのじゃ」
「う、うん…わかった」
そうして卓上に置かれた一口大の小さなカップにおそるおそる手を伸ばし、注がれた液体に口をつけた。
「コ、コーダ…大丈夫か?」
「ちょっと変な匂いがするけど…なんなのこれ?」
少しの甘みと鼻に抜ける香り、それから冷たいはずなのに熱を感じる。水のように見えて、よく目を凝らせば火のマナが溶け込んでいるように見える、不思議な液体だった。
「ほぅ…どうやら平気そうじゃな。はっはっは! こりゃたまげたもんじゃ!」
「まぁ、すごい…」
グレーゲル村長とマリーまで物珍しいものを見たかのように驚いている。
「コーダよ、それはウォッカという種類の酒じゃ。40度のお酒でな、あまりそのまま飲むものでもないんじゃ。いや、悪いの、試すようなことをして」
「えぇっ!? お酒だったのこれ!?」
「じゃがこれで確信がいった。コーダの魔力貯蔵量が常人の数倍以上に引き上げられているようじゃ」
村長の説明によると、お酒に酔うというのは<魔力酔い>と仕組みがほとんど変わらないそうだ。赤ちゃんや子供が魔力の強いものに触れて魔力酔いを起こしやすいのは、魔力の貯蔵量が少なく、体外から流し込まれてくる魔力に抵抗できないために起こるという。成長するにつれ魔力貯蔵量も自然と増えていき、大抵のことでは魔力酔いが起きることもなくなる。
ただ、お酒に関して言えば大人ですら酔ってしまうほど魔力が濃い。普通は子供が口にすると卒倒するそうだ。
なんてことを試させるんだ!
結果的に大丈夫だったからよかったものの…。
「つまり資源というのは、魔力貯蔵量の格段な引き上げのようじゃ。これがどれほど引き上げられているかは分からんが、コスケンコルヴァを飲んで平然としているんじゃから、ワシやレイフ以上には魔力を保有できるんじゃないかの」
「そんなことって…。ねぇ僕はどうすればいいの?」
魔法の一つだってまだ使えやしないのに、魔力が見えるようになって、魔力の貯蔵量が増えたところで、一体何ができるというのだろう。
「なに、簡単なことじゃ。ワシから言えることは一つしかない」
ℵ
「それで、コーダはちゃんとやっていけそうなの?」
村長の家を出て帰路をたどる馬車の中で、今日あった話を母さんにも伝えた。幌の外から流れ込む風は、祭りの熱を冷ましてくれるかのように涼しかった。父さんも御者台に座って馬を走らせながら母さんとの話を聞いていた。
「まだ先のことだけど、それでもこれからは自分のことは自分でするよ。きちんと朝も起きるし、勉強も頑張るよ」
「まぁあなたは勉強は好きみたいだからそこはあまり心配していないのだけれど…。体を壊したりしたときに困るんじゃないかって、やっぱり思っちゃって…」
母さんはどうも心配が尽きないようだ。それでも反対をするわけではないあたり、母さんも現状は理解してくれているようだ。
「それにまるっきり一人ってわけでもないしな。村長のとこのお孫さんも一緒に行くから、そんなに心配いらないんじゃないか?」
マリーとまともに話したのは今日が初めてだったけど、確かに結構しっかり者のような感じがした。村長の家だから大人の来訪者が多く、自然とそれに合わせた立ち振る舞いが身についだんだろう。
「だから心配なのよ…。あっちは女の子でこっちは男の子なんだから、何かあったときに守らなきゃいけないのよ?」
「うん、それは分かってるけど…」
「それに神様の使い、だっけ? ほんとうに大丈夫なのかしらね」
「それは…分かんないけど…」
僕は村長に言われた言葉を思い返していた。
ℵ
「よいか、コーダよ。今のお前さんには素地がある」
「そじ…?」
「魔力は見えるし、貯蔵量は膨大で、多少の知識もある。じゃが今はまだそれを扱う術が全くと言っていいほど欠けておる。今のままでは、いくら魔力が見えて、魔力が貯められたところで、狩りの一つもまともに出来んじゃろう?」
暖炉にくべられた薪がぱちぱちと音を立てている。四つの元素によって作られた世界。どんな種類の元素があるかは知っている。けれども、その薪一つを見ても、どうやって燃えているのか、なぜ燃えるときに音がするのか、よく考えてみれば知らないことばかりがあふれていた。
僕にとっては、空の向こうを泳ぐ鯨の正体も、薪が燃える仕組みがわからないことも、どちらも同じぐらい不思議なことだった。
「それにじゃ、次にいつ接触があるか分からんが、神様がそれだけの能力をコーダに与えた以上、いつか無理難題をしかけてくる時がくるじゃろう。有事のときに、魔法の一つでも使えないままでは、どんな災禍に見舞われるか分かったもんじゃないぞ」
「それは、そうだね…」
――ではどうすればいいか。
村長は言った。その答えはひとつしかないと。
「三年後のヴァルボルグスの夜が明けたら、この村を出なさい。
政督府のユングヴィア高等学院で、魔導のすべてを学んでくるのじゃ」
ℵ
そうして三年もの間、父さんと母さんから基礎的な魔導の術を一通り学んだ。普通は十五歳ぐらいまでは魔力貯蔵量も少なく、大して魔法も使えないのだが、高等学院となると話は別だ。政府直轄の開拓者を輩出する名門校で、特にその中でも僕の行くことになる魔法科となると、魔力の扱いや魔力資源の高い体質の児童ばかりが集まってくる。
その中で渡り歩いていくためにも入学前から魔法の技術を磨くことは必須だった。それに父さんから聞いた話だが、入科試験というものがあり、一定の魔力レベルに達していない児童はそもそも魔法科に入学できないという。
魔力をどの程度扱えるか、保有できるか、それらはもちろん特訓で伸ばすこともできるが、やはり体質や遺伝によって左右されるところが大きい。入学しても、特訓しても魔力が伸びにくい体質の生徒はそもそも魔法士以外の職業を目指した方が適正なのである。
「まぁこれだけ扱えるようになってりゃ困ることはないだろう」
父さんが快活に笑って言う。父さんの特訓は色々と厳しくもあったが、お陰で元素魔法は四大元素の各元素とも Lv1 を習得することができた。母さんからは回復魔法を教えてもらった。
「でも回復魔法ができるって言っても限度があるからね。調子に乗ってはだめよ。切り落とした腕なんかは元に戻らないんだから」
母さんが結構怖いことを言う。けれど開拓者という職業はいつ命の危険にさらされてもおかしくない。母さんの言うことも遠い現実ではないことを脳裏に焼き付けておく必要がある。
「ありがとう、パパ、ママ。立派な魔法士になって帰ってくるよ!」
「ははっ、まだその呼び方直んないのか?」
「うーん…まぁいずれ直すよ…」
マリーのいる前では大人ぶって『父さん』なんて呼んでいたが、あの日から三年間、マリーとはまともに会っていない。ヴァルボルグスの祭りなどで見かけることはあるが、遠目に見かけるだけで、特に話しかけたりする機会もなかった。
ほとんど家の周りの川辺や野原なんかで魔法の特訓ばかりに明け暮れていたから、遠出することもなく、たまに家に来る父さんのハンター仲間以外は、ほとんど誰と会うこともなく過ごしていた。
雨の日は家の書架にある魔術関係の書物を読んで過ごしていた。そんな日々を三年続けていた。
光属性と闇属性の魔法は父さんも母さんも流石に扱えないらしく、習得することはできなかった。虚数属性に至っては情報すらなかった。
それでも高等学院に行けば、この世の理に触れる何かが見つかるかもしれない。そうすれば、神様の為そうとしていることだって、きっと僕にも分かるはずだと思った。
「それじゃ、行ってくるよ」
できるだけ何気ない風に言いながら、僕は朝日の昇る東の空に向かって、舗装されていない畦道を歩き始めたのだった。
――プロローグ 完
この<役者>たちは前にも話したように、
みな精霊だ。
今では空気のなかへ、
うすい空気のなかへと溶けてしまった。
そして、この幻が礎のない建物であるのと同じように、
雲を頂く塔も、
豪華絢爛な宮殿も、
荘厳な寺院も、
巨大な地球そのものも、
地上のありとあらゆるものも、
すべていずれは消滅し、
今消えていった実体のない見せもの同様、
跡形も残しはしない。
我々は夢と同じ材料でできている。
この短い人生は眠りで包まれているのだ。
無限回廊書架 DDC. 822
――ウィリアム・シェイクスピア『The Tempest』 - A.D. 1611
虚数とはなんだろうか。
この世界と裏の世界とは隣り合っていて、しかも重なり合っているが、それでもどうやら隙間というものがあるらしい。もはや形では想像がつかないが理屈で言うとそうなるらしい。そしてその世界と世界の隙間に虚数空間と呼ばれてる空間が広がっているそうだ。
「お主は今、空気、火、水、土、光、闇、虚数の、七属性のマナが見えているということじゃ。そして恐らくそれこそが、神の使いによってもたらされた権限というものの正体であろう」
「ロールっていうのはどういう意味なの?」
「ロールとは役割・権限という意味じゃな。神様は何らかの実験のために、お前さんがこの世界に対して何かをする役割・権限をお与えになった、ということになるのじゃが…、何か指示は受けておらんのか?」
「特には…」
戦の指揮を執る将軍などが、各職業や部隊の動きをシミュレートする際に、その小部隊の隊長などになりきって戦略を立てることをロールプレイという。そこから派生し、子どもたちが有名な将軍になりきって広場でちゃんばらごっこを行うのも立派なロールプレイである。
成人でも兵士でもない僕だけれど、仮に将軍というロールを与えられたら、小部隊を動かせる権限を得たり、統率するという役割を得る。
では今の僕には何のロールが与えられて、どんな役割・権限があるのだろうか。自分の能力が引き上げられたということは分かったのだけど、それが何のためなのか、何をすればいいのか、それについては何も聞かされていなかった。
「あの…グレーゲル村長。ロールと一緒に与えられた、リソースっていうのは何なのでしょうか?」
神様の使いから与えられたのは二つ。
ロールとリソースだった。
「リソースというのは、資源や材料という意味であるが…。コーダはなにか使える魔法はあるかの?」
「ううん、まだ何も…」
「ふむ…それであれば…。ロースマリー、ダイニングからコスケンコルヴァを持ってきてくれぬか」
「かしこまりましたわ」
「おいおい…それって…」
「レイフよ、まだ何も言うでない」
ロースマリー、もといマリーが席を立って部屋を出て行く。
コスケンコルヴァ?
一体なんだろう?
しばらくしてロースマリーが大きな瓶を抱えて戻ってきた。KOSKENKORVA と書かれたラベルが貼られており、中には透明な液体が入っているようだ。
「コーダ、まずはこれを飲んでみるのじゃ」
「う、うん…わかった」
そうして卓上に置かれた一口大の小さなカップにおそるおそる手を伸ばし、注がれた液体に口をつけた。
「コ、コーダ…大丈夫か?」
「ちょっと変な匂いがするけど…なんなのこれ?」
少しの甘みと鼻に抜ける香り、それから冷たいはずなのに熱を感じる。水のように見えて、よく目を凝らせば火のマナが溶け込んでいるように見える、不思議な液体だった。
「ほぅ…どうやら平気そうじゃな。はっはっは! こりゃたまげたもんじゃ!」
「まぁ、すごい…」
グレーゲル村長とマリーまで物珍しいものを見たかのように驚いている。
「コーダよ、それはウォッカという種類の酒じゃ。40度のお酒でな、あまりそのまま飲むものでもないんじゃ。いや、悪いの、試すようなことをして」
「えぇっ!? お酒だったのこれ!?」
「じゃがこれで確信がいった。コーダの魔力貯蔵量が常人の数倍以上に引き上げられているようじゃ」
村長の説明によると、お酒に酔うというのは<魔力酔い>と仕組みがほとんど変わらないそうだ。赤ちゃんや子供が魔力の強いものに触れて魔力酔いを起こしやすいのは、魔力の貯蔵量が少なく、体外から流し込まれてくる魔力に抵抗できないために起こるという。成長するにつれ魔力貯蔵量も自然と増えていき、大抵のことでは魔力酔いが起きることもなくなる。
ただ、お酒に関して言えば大人ですら酔ってしまうほど魔力が濃い。普通は子供が口にすると卒倒するそうだ。
なんてことを試させるんだ!
結果的に大丈夫だったからよかったものの…。
「つまり資源というのは、魔力貯蔵量の格段な引き上げのようじゃ。これがどれほど引き上げられているかは分からんが、コスケンコルヴァを飲んで平然としているんじゃから、ワシやレイフ以上には魔力を保有できるんじゃないかの」
「そんなことって…。ねぇ僕はどうすればいいの?」
魔法の一つだってまだ使えやしないのに、魔力が見えるようになって、魔力の貯蔵量が増えたところで、一体何ができるというのだろう。
「なに、簡単なことじゃ。ワシから言えることは一つしかない」
ℵ
「それで、コーダはちゃんとやっていけそうなの?」
村長の家を出て帰路をたどる馬車の中で、今日あった話を母さんにも伝えた。幌の外から流れ込む風は、祭りの熱を冷ましてくれるかのように涼しかった。父さんも御者台に座って馬を走らせながら母さんとの話を聞いていた。
「まだ先のことだけど、それでもこれからは自分のことは自分でするよ。きちんと朝も起きるし、勉強も頑張るよ」
「まぁあなたは勉強は好きみたいだからそこはあまり心配していないのだけれど…。体を壊したりしたときに困るんじゃないかって、やっぱり思っちゃって…」
母さんはどうも心配が尽きないようだ。それでも反対をするわけではないあたり、母さんも現状は理解してくれているようだ。
「それにまるっきり一人ってわけでもないしな。村長のとこのお孫さんも一緒に行くから、そんなに心配いらないんじゃないか?」
マリーとまともに話したのは今日が初めてだったけど、確かに結構しっかり者のような感じがした。村長の家だから大人の来訪者が多く、自然とそれに合わせた立ち振る舞いが身についだんだろう。
「だから心配なのよ…。あっちは女の子でこっちは男の子なんだから、何かあったときに守らなきゃいけないのよ?」
「うん、それは分かってるけど…」
「それに神様の使い、だっけ? ほんとうに大丈夫なのかしらね」
「それは…分かんないけど…」
僕は村長に言われた言葉を思い返していた。
ℵ
「よいか、コーダよ。今のお前さんには素地がある」
「そじ…?」
「魔力は見えるし、貯蔵量は膨大で、多少の知識もある。じゃが今はまだそれを扱う術が全くと言っていいほど欠けておる。今のままでは、いくら魔力が見えて、魔力が貯められたところで、狩りの一つもまともに出来んじゃろう?」
暖炉にくべられた薪がぱちぱちと音を立てている。四つの元素によって作られた世界。どんな種類の元素があるかは知っている。けれども、その薪一つを見ても、どうやって燃えているのか、なぜ燃えるときに音がするのか、よく考えてみれば知らないことばかりがあふれていた。
僕にとっては、空の向こうを泳ぐ鯨の正体も、薪が燃える仕組みがわからないことも、どちらも同じぐらい不思議なことだった。
「それにじゃ、次にいつ接触があるか分からんが、神様がそれだけの能力をコーダに与えた以上、いつか無理難題をしかけてくる時がくるじゃろう。有事のときに、魔法の一つでも使えないままでは、どんな災禍に見舞われるか分かったもんじゃないぞ」
「それは、そうだね…」
――ではどうすればいいか。
村長は言った。その答えはひとつしかないと。
「三年後のヴァルボルグスの夜が明けたら、この村を出なさい。
政督府のユングヴィア高等学院で、魔導のすべてを学んでくるのじゃ」
ℵ
そうして三年もの間、父さんと母さんから基礎的な魔導の術を一通り学んだ。普通は十五歳ぐらいまでは魔力貯蔵量も少なく、大して魔法も使えないのだが、高等学院となると話は別だ。政府直轄の開拓者を輩出する名門校で、特にその中でも僕の行くことになる魔法科となると、魔力の扱いや魔力資源の高い体質の児童ばかりが集まってくる。
その中で渡り歩いていくためにも入学前から魔法の技術を磨くことは必須だった。それに父さんから聞いた話だが、入科試験というものがあり、一定の魔力レベルに達していない児童はそもそも魔法科に入学できないという。
魔力をどの程度扱えるか、保有できるか、それらはもちろん特訓で伸ばすこともできるが、やはり体質や遺伝によって左右されるところが大きい。入学しても、特訓しても魔力が伸びにくい体質の生徒はそもそも魔法士以外の職業を目指した方が適正なのである。
「まぁこれだけ扱えるようになってりゃ困ることはないだろう」
父さんが快活に笑って言う。父さんの特訓は色々と厳しくもあったが、お陰で元素魔法は四大元素の各元素とも Lv1 を習得することができた。母さんからは回復魔法を教えてもらった。
「でも回復魔法ができるって言っても限度があるからね。調子に乗ってはだめよ。切り落とした腕なんかは元に戻らないんだから」
母さんが結構怖いことを言う。けれど開拓者という職業はいつ命の危険にさらされてもおかしくない。母さんの言うことも遠い現実ではないことを脳裏に焼き付けておく必要がある。
「ありがとう、パパ、ママ。立派な魔法士になって帰ってくるよ!」
「ははっ、まだその呼び方直んないのか?」
「うーん…まぁいずれ直すよ…」
マリーのいる前では大人ぶって『父さん』なんて呼んでいたが、あの日から三年間、マリーとはまともに会っていない。ヴァルボルグスの祭りなどで見かけることはあるが、遠目に見かけるだけで、特に話しかけたりする機会もなかった。
ほとんど家の周りの川辺や野原なんかで魔法の特訓ばかりに明け暮れていたから、遠出することもなく、たまに家に来る父さんのハンター仲間以外は、ほとんど誰と会うこともなく過ごしていた。
雨の日は家の書架にある魔術関係の書物を読んで過ごしていた。そんな日々を三年続けていた。
光属性と闇属性の魔法は父さんも母さんも流石に扱えないらしく、習得することはできなかった。虚数属性に至っては情報すらなかった。
それでも高等学院に行けば、この世の理に触れる何かが見つかるかもしれない。そうすれば、神様の為そうとしていることだって、きっと僕にも分かるはずだと思った。
「それじゃ、行ってくるよ」
できるだけ何気ない風に言いながら、僕は朝日の昇る東の空に向かって、舗装されていない畦道を歩き始めたのだった。
――プロローグ 完
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