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第一章 近所の女児誘拐事件

4 警察の話

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「ちょっと伽羅奢がらしゃ! なに一人で納得してんのさ!」

 彼女の肩越しにゲーム画面が見える。
 位置情報を利用し、現実世界とリンクした地図上に現れるモンスターを捕まえるという大人気ゲームだ。実際に街へ出歩いて遊ぶスタイルが人気となり、何年も前に世界的に大ヒットしたものである。
 ずいぶん古いゲームだけど、まだやってんのかよ。てか、今やるのかよ。

「ねえ! 俺、全然状況が理解出来てないんだけど!」

 俺の訴えもむなしく、伽羅奢は黙々と画面を連打している。しばらくして、ようやく返事が返ってきた。

「ふん。いいかね、愛音。これは私の日課だ。目が覚めたらまずログインボーナスを取り、デイリーミッションをクリアする。それをおろそかにする事は神への冒涜なのだよ!」

 俺の方を一切見ることなく、伽羅奢は熱い持論を述べる。

「神ってなんだよ。たかがゲームだろ?」
「はあ? たかが? 愛音、キミは馬鹿か? このゲームは先月の大幅アップデートで神ゲーへと進化した。つまり、名実共に神なのだ! 貴様は神を愚弄するというのかね? 庶民の分際で?」

 ようやく伽羅奢が振り向いた。けれどオタクの理論はどうにもぶっ飛んでいて怖い。俺がプルプルと首を横に振ると、伽羅奢はまた俺に背を向けた。

「じゃあゲームしたままで良いから説明してよ。面倒な事って何? 昨日言ってた、捕まるってなんなわけ?」

 伽羅者が指を画面上でくるくるさせてスワイプする。画面内でボールが飛んでいって、モンスターが捕まった。

「……愛音。外に車が停まっていなかったか」
「え? ああ、うん。アパートの塀の所に停まってた。それが何?」
「それな、警察だ」

 警察。

「は? いや、なんで?」
「監視されている」
「だから、なんで?!」
「モンスターを捕まえていたから」
「意味がわからない!」

 理解できずに抗議すると、伽羅奢はここ数日にあった出来事を渋々語りはじめた。
 彼女の話はこうだ。


 *


 日常的にスマホゲームでモンスターを捕まえていた伽羅奢は、ニートという環境もあり、日がな一日リアルに近所を徘徊しては、モンスターやアイテムを大量にゲットしていた。

 このゲームをプレイするにあたり、伽羅奢にはお気に入りの場所があった。「地域の立て看板」前である。そこには「看板」「置物」「地蔵」と、アイテムを貰えるスポットが三か所もあり、モンスターもバンバン湧いてきた。伽羅奢は毎日何度もそこへ足を運んでいたのだ。

 そして一昨日の夜の事。
 伽羅奢がいつも通りそのスポットでスマホをいじっていると、警察官二人組に声をかけられた。

「すみません、少し良いですか」
「なにか?」
「この辺りで不審者の情報が入ってまして、パトロールを強化しています。失礼ですが、今は何をされていたんですか」

 伽羅奢を見て、警察官の目が光る。

「ゲームですが」

 スマホの画面を見せると警官たちは覗き込んで頷いた。けれど、それで引き下がるわけではなく、さらに身分証の提示を求めてくる。となると、伽羅奢も面白くない。

「私が怪しく見えるとでも?」
「いえ、皆さんに声をかけさせてもらってるんですよ。協力してもらえると助かります」

 無意味に反発する理由もないので、伽羅奢は仕方なく持っていた健康保険証を見せた。確認しながら警察官が問いかける。

「学生さんですか」
「いえ」
「じゃあ、アルバイトとか?」
「いいえ」
「それじゃあ、ええと、この辺りに住んでる? 実家暮らし?」
「独り暮らしです。それが何か?」
「ああ、いやいや。最近物騒な事件も多いので、住所も伺っておいて良いですか。女性の一人暮らしは危ないですし」

 渋々住所を教えると、警察官たちはようやく「ご協力ありがとうございました」と去っていった。そして翌日以降、伽羅奢のアパート前に一台の車がずっと停まってるようになったのである。


 *


「――で、伽羅奢はその職質を根拠に『捕まる』とか言ってるわけ? ちょっと短絡的すぎじゃない?」

 クッションの上でゴロゴロしながらつっこむと、伽羅奢はスマホからこちらに視線を移しジロリと睨んだ。

「それだけじゃない。話は最後まで聞け、馬鹿者」

 伽羅奢が辛辣な言葉を吐いて続ける。
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