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生き延びるために
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異世界へ行く前に精神を分けられる術を覚えられたことはとても望ましいことであり、とても救われた。
僕は高校卒業間近であるこの時まで親に育ててもらった恩がある。だから一人の人格と肉体を日本に置いておく必要があった。
異世界に丸ごと転移したとして、無事に帰れる保証がないのだ。帰れるとしてどのくらいの時間を要するか分からない。
育ててもらいながら巣立ちして、はい終わりというのは気が引けるし気が重い。社会に出て独り立ちし親孝行したいという想いもあったというのが一つ。
いきなり旅に出ると言って家を出ていき音信不通では間違いなく心配する。親に不要な心配をかけたくなかったというのも一つ。
そして魔法をどうしても使いたいという想いを全て解決出来るのが、精神分裂での人格形成だったのだ。
そして精神を分けた内の一つが僕であり、異世界にやって来た人格だ。
精神とは心であり、思念によって発生したエネルギーである。
思いというものは重いもの。思いの強さに比例して質量は重くなる。質量があるからこそエネルギーが生まれ、質量の重さに比例してエネルギーの値も高くなる。
物質がそこにあるだけでエネルギーを持つのと同じように、精神も存在するだけでエネルギーを持っている。
幽霊も思念によって発生したエネルギー体であり、憑依されると体が重く感じられるように強い霊ほど重く感じる。
地球が人を引っ張っているように、人も地球を引っ張っている。引力は質量が重い物の方が強いように、強い思念に弱いものが引き寄せられるように集められていく。そして吸収しながら強さを増していくのだ。
悲しみ、怨みなどの負の思いが強ければ強いだけ凝縮され密度が高くなる。それは正の思いもまた同じ。
人はそのエネルギーで世界を創る。それが心のある場所。願望や欲求、得た知識、性格、不安や失望、考える全てのものが混ざり合い、生まれる個人の精神の絶対領域。他人に触れられたくない不可侵領域。
精神体だけの僕は他人に取り憑く幽霊と同じような存在だった。
※
時間は異世界にて少年の精神の中に入り込んだところから動き出す。
自分で言うのもなんだが哀れに思う。異世界で僕が出会った最初の住人は、大切な人にも見せられない領域を見ず知らずの僕に暴かれ、その上乗っ取られようとしているのだから。
彼のその領域はとても派手で欲望に満ちた場所だった。宮殿のような豪華な建物に多くの下着姿の女性たちがいて、みんな首に同じチョーカーを身に付けている。まるで彼女らは自分の所有物であるかのように。彼女らは僕を不審な目を向けている。
世界が異変を感じたのか空気が張り詰める。
領域にとって異物である僕――侵入者を撃退すべく兵士が襲ってきた。兵士は全て女性だが、鎧に兜をつけ、剣と盾を持っている。
心の中では思念エネルギーの値が絶対であり、日本で鍛えてきた僕の方が闘い慣れているはず。なんせ心の中で戦闘経験なんて普通はないだろう。
蹴りの一撃だけで兵士は他の者たちを巻き添えにしながら吹っ飛んでいく。瞬歩で近づき左手で振りかぶった剣を握り潰し、右手で隙だらけの顎を揺らす。次の兵士は盾を構えていたので手刀を降り下ろし叩き斬った。唖然とした表情をしながらその兵士は首裏を叩かれ気絶した。
数はいるが一撃入れるだけで難なく蹴散らしながら、僕は中央を制圧するため突き進む。進むにつれ数や強さが増してくるが、隊長クラスであろう敵も僕の相手ではなかったし、主人である少年はさらに弱かった。
そして、世界のコアを見つけた。
それは彼の魂と言っても過言ではない。肉体の崩壊はしなくても精神が消え、心が消滅するのだから。
コアに手を触れ僕の精神情報を上書きするために、エネルギーを送り込んでいく。すると徐々に世界は変わっていく。
倒れていた女性たちは一人一人と消えていく。宮殿はみすぼらしくなっていき崩壊を始めた。焦った少年は何度も攻撃を仕掛けてくるが、片手の僕に軽くあしらわれる。
上書きが八割近くまで進んだあたりで少年の強さががらりと変わった。速さが増した攻撃を片手で捌けない。重さが増した攻撃を受け止めきれず吹き飛ばされ、上書きが途中で止まってしまう。コアの所有権はまだ少年にある。世界の変換に使っていた僕のエネルギーを少年は自分のものにした。
にやりと笑った少年は得たばかりの強さで僕を世界から吹き飛ばした。
「俺のハーレムは何人なんびとたりとも邪魔させねええ‼」
火事場の馬鹿力。窮鼠猫を噛む。あのアニメのようにぎりぎりの時に発揮される主人公パワー。
僕の精神に書き換えられたら彼は消える。正しく命の危機だ。侵略者に好き勝手されるのは癪に障るし、憤激ものだろう。激おこプンプンも致し方なし。
だか、主人公のご都合逆転パワーの展開にはうんざりだ。
おかげさまでエネルギーのほとんどを消失した。スキルなどの特殊能力も僕には残っていない。彼にエネルギーごと奪われた。
残された選択肢は逃げしかない。ゲームの赤色のステータス画面の状態で命からがら外気に出ると、
(あ、意識…が……)
そこで僕は意識を落とした。
※
スローモーションのように今までの記憶の総集編が、ダイジェストで流れていく。
時間の針の進みは同じはずなのに、感覚はとてもゆっくりと感じられた。
意識が落ちてたはずなのに、一枚の絵がコマ送りで再生されていく。写真を一枚一枚パラパラと捲っていくように、幼い頃からこの世界に来るまでの期間の記憶を思い出していく。
これは走馬灯?
だけどそれは死にかけのフラフラの僕に思いを取り戻させるための喝のような時間だった。
何のためにここに来たのか?
――強くなるためだ!
このまま消滅するわけにはいかない。
まだ何も為してない。
何より死にたくない!
あちらに残した人格に鼻で笑われる屈辱はごめんだ! 悠々自適モードで小馬鹿にされるのは目に見えている。
僕は出来る限りの力で全体を見渡せるようにイーグルアイを使った。
ひたすら探した。
そもそも精神体は外気にとても弱い。強ければ外からの悪意、その他のエネルギーに対して抵抗することが出来ても、弱く、薄く、今にも消えそうな僕には密度を維持できない。
時間が無かった。
幾つかの分裂する。
ますます希薄になる。
あの水槽だ。
水槽に生物をターゲットにするしかない。
分裂の一体だけでもいい。生き残りをかけて僕は水槽に突入する。
とても小さくなっていった僕は
(あ、アメーバ…)
顕微鏡でしか見れない微生物をこの目に見た。そしてその体の中に入り込むことで、また意識を手放した。
僕は高校卒業間近であるこの時まで親に育ててもらった恩がある。だから一人の人格と肉体を日本に置いておく必要があった。
異世界に丸ごと転移したとして、無事に帰れる保証がないのだ。帰れるとしてどのくらいの時間を要するか分からない。
育ててもらいながら巣立ちして、はい終わりというのは気が引けるし気が重い。社会に出て独り立ちし親孝行したいという想いもあったというのが一つ。
いきなり旅に出ると言って家を出ていき音信不通では間違いなく心配する。親に不要な心配をかけたくなかったというのも一つ。
そして魔法をどうしても使いたいという想いを全て解決出来るのが、精神分裂での人格形成だったのだ。
そして精神を分けた内の一つが僕であり、異世界にやって来た人格だ。
精神とは心であり、思念によって発生したエネルギーである。
思いというものは重いもの。思いの強さに比例して質量は重くなる。質量があるからこそエネルギーが生まれ、質量の重さに比例してエネルギーの値も高くなる。
物質がそこにあるだけでエネルギーを持つのと同じように、精神も存在するだけでエネルギーを持っている。
幽霊も思念によって発生したエネルギー体であり、憑依されると体が重く感じられるように強い霊ほど重く感じる。
地球が人を引っ張っているように、人も地球を引っ張っている。引力は質量が重い物の方が強いように、強い思念に弱いものが引き寄せられるように集められていく。そして吸収しながら強さを増していくのだ。
悲しみ、怨みなどの負の思いが強ければ強いだけ凝縮され密度が高くなる。それは正の思いもまた同じ。
人はそのエネルギーで世界を創る。それが心のある場所。願望や欲求、得た知識、性格、不安や失望、考える全てのものが混ざり合い、生まれる個人の精神の絶対領域。他人に触れられたくない不可侵領域。
精神体だけの僕は他人に取り憑く幽霊と同じような存在だった。
※
時間は異世界にて少年の精神の中に入り込んだところから動き出す。
自分で言うのもなんだが哀れに思う。異世界で僕が出会った最初の住人は、大切な人にも見せられない領域を見ず知らずの僕に暴かれ、その上乗っ取られようとしているのだから。
彼のその領域はとても派手で欲望に満ちた場所だった。宮殿のような豪華な建物に多くの下着姿の女性たちがいて、みんな首に同じチョーカーを身に付けている。まるで彼女らは自分の所有物であるかのように。彼女らは僕を不審な目を向けている。
世界が異変を感じたのか空気が張り詰める。
領域にとって異物である僕――侵入者を撃退すべく兵士が襲ってきた。兵士は全て女性だが、鎧に兜をつけ、剣と盾を持っている。
心の中では思念エネルギーの値が絶対であり、日本で鍛えてきた僕の方が闘い慣れているはず。なんせ心の中で戦闘経験なんて普通はないだろう。
蹴りの一撃だけで兵士は他の者たちを巻き添えにしながら吹っ飛んでいく。瞬歩で近づき左手で振りかぶった剣を握り潰し、右手で隙だらけの顎を揺らす。次の兵士は盾を構えていたので手刀を降り下ろし叩き斬った。唖然とした表情をしながらその兵士は首裏を叩かれ気絶した。
数はいるが一撃入れるだけで難なく蹴散らしながら、僕は中央を制圧するため突き進む。進むにつれ数や強さが増してくるが、隊長クラスであろう敵も僕の相手ではなかったし、主人である少年はさらに弱かった。
そして、世界のコアを見つけた。
それは彼の魂と言っても過言ではない。肉体の崩壊はしなくても精神が消え、心が消滅するのだから。
コアに手を触れ僕の精神情報を上書きするために、エネルギーを送り込んでいく。すると徐々に世界は変わっていく。
倒れていた女性たちは一人一人と消えていく。宮殿はみすぼらしくなっていき崩壊を始めた。焦った少年は何度も攻撃を仕掛けてくるが、片手の僕に軽くあしらわれる。
上書きが八割近くまで進んだあたりで少年の強さががらりと変わった。速さが増した攻撃を片手で捌けない。重さが増した攻撃を受け止めきれず吹き飛ばされ、上書きが途中で止まってしまう。コアの所有権はまだ少年にある。世界の変換に使っていた僕のエネルギーを少年は自分のものにした。
にやりと笑った少年は得たばかりの強さで僕を世界から吹き飛ばした。
「俺のハーレムは何人なんびとたりとも邪魔させねええ‼」
火事場の馬鹿力。窮鼠猫を噛む。あのアニメのようにぎりぎりの時に発揮される主人公パワー。
僕の精神に書き換えられたら彼は消える。正しく命の危機だ。侵略者に好き勝手されるのは癪に障るし、憤激ものだろう。激おこプンプンも致し方なし。
だか、主人公のご都合逆転パワーの展開にはうんざりだ。
おかげさまでエネルギーのほとんどを消失した。スキルなどの特殊能力も僕には残っていない。彼にエネルギーごと奪われた。
残された選択肢は逃げしかない。ゲームの赤色のステータス画面の状態で命からがら外気に出ると、
(あ、意識…が……)
そこで僕は意識を落とした。
※
スローモーションのように今までの記憶の総集編が、ダイジェストで流れていく。
時間の針の進みは同じはずなのに、感覚はとてもゆっくりと感じられた。
意識が落ちてたはずなのに、一枚の絵がコマ送りで再生されていく。写真を一枚一枚パラパラと捲っていくように、幼い頃からこの世界に来るまでの期間の記憶を思い出していく。
これは走馬灯?
だけどそれは死にかけのフラフラの僕に思いを取り戻させるための喝のような時間だった。
何のためにここに来たのか?
――強くなるためだ!
このまま消滅するわけにはいかない。
まだ何も為してない。
何より死にたくない!
あちらに残した人格に鼻で笑われる屈辱はごめんだ! 悠々自適モードで小馬鹿にされるのは目に見えている。
僕は出来る限りの力で全体を見渡せるようにイーグルアイを使った。
ひたすら探した。
そもそも精神体は外気にとても弱い。強ければ外からの悪意、その他のエネルギーに対して抵抗することが出来ても、弱く、薄く、今にも消えそうな僕には密度を維持できない。
時間が無かった。
幾つかの分裂する。
ますます希薄になる。
あの水槽だ。
水槽に生物をターゲットにするしかない。
分裂の一体だけでもいい。生き残りをかけて僕は水槽に突入する。
とても小さくなっていった僕は
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