七欲の王~封印から覚めた魔王は再び神殺しを目指す~

シロサギ

文字の大きさ
2 / 37
第零章 御伽噺

第二話 おはよう

しおりを挟む
 深く深く沈んでいた意識が浮上する。




 徐々に、思考が目覚める。




 暗鬱とした頭では何かを考えることも、思うこともできない。






 ーーーーーー意識が浮上する。






 自身は何者で、どうなっているのか。



 なぜこうも、不自由を強いられているのか。




 

 ------意識が浮上する。





 五感が働いてきた。「私」は今どこかに横たわっている。




 耳朶を打つ僅かばかりの喧騒が聞こえる。




 なぜ、こうしている。






 ------意識が浮上する。






 視界が開け、暗がりの中でさえ居場所が認知できる。



 豪奢な寝台。安穏とした、黒を基調とする内装。塵一つない、行き届いた清掃の証。



 理解する。ここは「私」の部屋だ。






 ------意識が浮上した。






 身体を起こそう。立ち上がろう。朝の目覚めだ、食事をとろう。
 ああ、そうだ。一日の目覚めに必要なことは山ほどある。

 豪奢に彩られた黒檀の扉を開ける。





「おはよう、よく眠れた」



♦♦



 いつも通りの朝が始まる。

 外界から城を、街を警護する憲兵隊への見回り。
 城下町の店々を値踏みしながら良い品物はないかと目を光らせる。
 すれ違う民衆からの声に笑顔で応える。
 城へと戻り、これまた衛兵からの声に笑顔で応える。

 ここ一帯の管理を任されている者として、異常が発生することは決してあってはならない。細かなことにも目を光らせ、民衆へは安心感をおぼえさせなければならない。

 すれ違う者へと幾度にもわたって挨拶を繰り返す。
 


 向かう先は、我が王の元。数千年前から目覚めることのない、我らが王の。

 
 玉座の間への扉を押し開く。荘厳なそれは一片の軋みを感じさせず、重々しい音色を響かせる。いつにもまして圧力の感じては胸を占める感情は緊張。幾度となく繰り返してきたはずの行為、今頃になってどうして。


 手入れの行き届いたそこは、絢爛豪華な調度品ーーーーなどは一切置いていない。広々とした、シンプルなデザインの黒。しかしみすぼらしさは全くと言っていいほど感じない、重厚な空間。

 
 絨毯の先にある数十段にも及ぶ階段、そのさらに奥。決して開くことのない、王の部屋。


 足音響かせ、前へ前へと進む。いつも通り、何も変わらない。
 いつかは開くだろうと、また顔を合わせることができるだろうと信じている。

 何十年、何百年、何千年。想いが変わることは決してあり得ない。

 
 扉の前、深く頭を下げ最敬礼の形をとる。どんな時でも最大限の礼節を尽くすことが我々に必要な使命。毎日欠かす事のない挨拶。



「おはようございます、魔王様」



 その瞬間、とてつもない衝撃が身体全体を駆け巡った。

 それはどこか遠く懐かしい感覚。遥か昔に身を包んでいた、安心感。

 膨大な力の奔流は身体を震わせ世界を駆け抜けた。


──────嗚呼、間違いない。


 やっと、やっと望む事が出来た。焦がれていたその姿。

 腰まで届く流れる様に艶やかな銀髪。
 14、5に見える妙齢な少女の姿。
 ふっくらとした唇、全てを見据えていると錯覚する様な透き通った藍色の双眸、男女問わず誰もが見惚れる程整った容姿。

 美しさの結晶と呼んでも過言ではないその姿、そして身を纏う膨大な魔力はまさに自身が仕える主人だと示すもの。



「おはよう、よく眠れた」



 記憶にある朝の一幕と何ら変わりのない言葉に、歓喜に震わせた瞳から、頬を伝う熱い雫が零れ落ちた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...