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第零章 御伽噺
第二話 おはよう
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深く深く沈んでいた意識が浮上する。
徐々に、思考が目覚める。
暗鬱とした頭では何かを考えることも、思うこともできない。
ーーーーーー意識が浮上する。
自身は何者で、どうなっているのか。
なぜこうも、不自由を強いられているのか。
------意識が浮上する。
五感が働いてきた。「私」は今どこかに横たわっている。
耳朶を打つ僅かばかりの喧騒が聞こえる。
なぜ、こうしている。
------意識が浮上する。
視界が開け、暗がりの中でさえ居場所が認知できる。
豪奢な寝台。安穏とした、黒を基調とする内装。塵一つない、行き届いた清掃の証。
理解する。ここは「私」の部屋だ。
------意識が浮上した。
身体を起こそう。立ち上がろう。朝の目覚めだ、食事をとろう。
ああ、そうだ。一日の目覚めに必要なことは山ほどある。
豪奢に彩られた黒檀の扉を開ける。
「おはよう、よく眠れた」
♦♦
いつも通りの朝が始まる。
外界から城を、街を警護する憲兵隊への見回り。
城下町の店々を値踏みしながら良い品物はないかと目を光らせる。
すれ違う民衆からの声に笑顔で応える。
城へと戻り、これまた衛兵からの声に笑顔で応える。
ここ一帯の管理を任されている者として、異常が発生することは決してあってはならない。細かなことにも目を光らせ、民衆へは安心感をおぼえさせなければならない。
すれ違う者へと幾度にもわたって挨拶を繰り返す。
向かう先は、我が王の元。数千年前から目覚めることのない、我らが王の。
玉座の間への扉を押し開く。荘厳なそれは一片の軋みを感じさせず、重々しい音色を響かせる。いつにもまして圧力の感じては胸を占める感情は緊張。幾度となく繰り返してきたはずの行為、今頃になってどうして。
手入れの行き届いたそこは、絢爛豪華な調度品ーーーーなどは一切置いていない。広々とした、シンプルなデザインの黒。しかしみすぼらしさは全くと言っていいほど感じない、重厚な空間。
絨毯の先にある数十段にも及ぶ階段、そのさらに奥。決して開くことのない、王の部屋。
足音響かせ、前へ前へと進む。いつも通り、何も変わらない。
いつかは開くだろうと、また顔を合わせることができるだろうと信じている。
何十年、何百年、何千年。想いが変わることは決してあり得ない。
扉の前、深く頭を下げ最敬礼の形をとる。どんな時でも最大限の礼節を尽くすことが我々に必要な使命。毎日欠かす事のない挨拶。
「おはようございます、魔王様」
その瞬間、とてつもない衝撃が身体全体を駆け巡った。
それはどこか遠く懐かしい感覚。遥か昔に身を包んでいた、安心感。
膨大な力の奔流は身体を震わせ世界を駆け抜けた。
──────嗚呼、間違いない。
やっと、やっと望む事が出来た。焦がれていたその姿。
腰まで届く流れる様に艶やかな銀髪。
14、5に見える妙齢な少女の姿。
ふっくらとした唇、全てを見据えていると錯覚する様な透き通った藍色の双眸、男女問わず誰もが見惚れる程整った容姿。
美しさの結晶と呼んでも過言ではないその姿、そして身を纏う膨大な魔力はまさに自身が仕える主人だと示すもの。
「おはよう、よく眠れた」
記憶にある朝の一幕と何ら変わりのない言葉に、歓喜に震わせた瞳から、頬を伝う熱い雫が零れ落ちた。
徐々に、思考が目覚める。
暗鬱とした頭では何かを考えることも、思うこともできない。
ーーーーーー意識が浮上する。
自身は何者で、どうなっているのか。
なぜこうも、不自由を強いられているのか。
------意識が浮上する。
五感が働いてきた。「私」は今どこかに横たわっている。
耳朶を打つ僅かばかりの喧騒が聞こえる。
なぜ、こうしている。
------意識が浮上する。
視界が開け、暗がりの中でさえ居場所が認知できる。
豪奢な寝台。安穏とした、黒を基調とする内装。塵一つない、行き届いた清掃の証。
理解する。ここは「私」の部屋だ。
------意識が浮上した。
身体を起こそう。立ち上がろう。朝の目覚めだ、食事をとろう。
ああ、そうだ。一日の目覚めに必要なことは山ほどある。
豪奢に彩られた黒檀の扉を開ける。
「おはよう、よく眠れた」
♦♦
いつも通りの朝が始まる。
外界から城を、街を警護する憲兵隊への見回り。
城下町の店々を値踏みしながら良い品物はないかと目を光らせる。
すれ違う民衆からの声に笑顔で応える。
城へと戻り、これまた衛兵からの声に笑顔で応える。
ここ一帯の管理を任されている者として、異常が発生することは決してあってはならない。細かなことにも目を光らせ、民衆へは安心感をおぼえさせなければならない。
すれ違う者へと幾度にもわたって挨拶を繰り返す。
向かう先は、我が王の元。数千年前から目覚めることのない、我らが王の。
玉座の間への扉を押し開く。荘厳なそれは一片の軋みを感じさせず、重々しい音色を響かせる。いつにもまして圧力の感じては胸を占める感情は緊張。幾度となく繰り返してきたはずの行為、今頃になってどうして。
手入れの行き届いたそこは、絢爛豪華な調度品ーーーーなどは一切置いていない。広々とした、シンプルなデザインの黒。しかしみすぼらしさは全くと言っていいほど感じない、重厚な空間。
絨毯の先にある数十段にも及ぶ階段、そのさらに奥。決して開くことのない、王の部屋。
足音響かせ、前へ前へと進む。いつも通り、何も変わらない。
いつかは開くだろうと、また顔を合わせることができるだろうと信じている。
何十年、何百年、何千年。想いが変わることは決してあり得ない。
扉の前、深く頭を下げ最敬礼の形をとる。どんな時でも最大限の礼節を尽くすことが我々に必要な使命。毎日欠かす事のない挨拶。
「おはようございます、魔王様」
その瞬間、とてつもない衝撃が身体全体を駆け巡った。
それはどこか遠く懐かしい感覚。遥か昔に身を包んでいた、安心感。
膨大な力の奔流は身体を震わせ世界を駆け抜けた。
──────嗚呼、間違いない。
やっと、やっと望む事が出来た。焦がれていたその姿。
腰まで届く流れる様に艶やかな銀髪。
14、5に見える妙齢な少女の姿。
ふっくらとした唇、全てを見据えていると錯覚する様な透き通った藍色の双眸、男女問わず誰もが見惚れる程整った容姿。
美しさの結晶と呼んでも過言ではないその姿、そして身を纏う膨大な魔力はまさに自身が仕える主人だと示すもの。
「おはよう、よく眠れた」
記憶にある朝の一幕と何ら変わりのない言葉に、歓喜に震わせた瞳から、頬を伝う熱い雫が零れ落ちた。
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