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第零章 御伽噺
第五話 肉弾戦
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静まり返っていた場内は、声が響いた途端に割れんばかりの歓声に包まれた。
その場に崩れ落ち泣き喚く者や、感極まって叫びだす者。
様々なアクションが見られるが、歓迎されていることは確かだ。
しばらく待っては見たものの、一向に収まる気配がない。
「……なるほど、想像以上だ」
「魔王ちゃんが慕われてる何よりの証明じゃないかしらぁ」
「それは、嗚呼。喜ばしい事だ」
閑話休題。
落ち着きを取り戻したところで、少々場を開けて貰えるように皆に伝える。
いくら訓練場が広いからと言って、これからやることは生半可な広さでは危険だ。最も、この場に来たことで想像はついているとは思うが。
スラヴィアが一言告げると、誰もが意気揚々と壁側へと移りこちらを見つめ始める。流石にこの面子がいるに前で訓練を続けることは出来ないのだろうか。
衆人環視の中、七欲の彼らと私が向かい合う。何をするかは歩いている途中に告げた。
そう、戦闘だ。
現在の状況を知るのも大切だが、それと同程度に自分の力を確認することが重要だと感じた。
三千年もの間封印されていたのだ、魔力や身体がどうなっているかなど流石の私でも容易に想像はつかない。
準備運動がてら、身体を動かしておいて損はないはずだ。
「さて、危険はないと思うが万が一のこともある。一応備えておくが良い」
控えている者達に一言告げると、一歩前に出たグラトリアと視線を交わらせる。
一番手は筋骨隆々のグラトリアだ。
己が主と戦えることがよっぽど嬉しいのか、隠す気のない獰猛な笑みが伺える。戦闘好きにも程があろうに。
「んじゃ、遠慮なく行かせて貰うぜ魔王様ァ!!」
「簡単にくたばってくれるなよ、グラトリア」
一瞬にして体全体を纏う魔力。
まさに獣、大幅な身体強化をされた状態で踏み込んだグラトリア。
土煙と共に姿が消えた途端に遅れて聞こえてきた衝撃音。直後に左腕を振りかぶった状態で目前へと現れる。
音すら置き去りにする程の速度、腹部を狙った拳をすんでのところで手の平を差し込み直撃を免れる。
流石に速い、しかしこの程度なら問題はない。
完全に防いだ。
しかしその直後、視界が恐ろしい速度で後退し背中へと強烈な衝撃が走る。
「…………お?」
数瞬の間。
グラトリアの拳に盛大に吹き飛ばされ、修練場の壁へと打ち付けられたと理解しては拳を開閉してみる。力の加減に間違いはなかったと思っていたが、どうやら想像以上の”ブランク”があったらしい。
誰もが目を丸めている姿に一笑しては、クレーターのように崩れた壁から離れる。
別に吹き飛ばされただけで特に傷が付いたり座り込んだりしていたわけではないのだ。そう、立ったままの姿勢で壁にぶつかっただけだ。
「そう衝撃的な顔をするな。以前との齟齬が想像以上でな、少々面を喰らっていただけだ」
加減、というよりどの程度力を入れなければならないか考える必要がありそうだ。そう感じる程に私の力は衰えている。
これも封印の影響と言えるのか。
「では、こちらから行くぞ」
今しがたかっこ悪いところを見せたばかりだ、少しは真面目にやらなくては期待に応えることすらできない。応える義理はないが、ここまでされたらな。
うっすらと魔力を身体に纏っては、地を蹴り一瞬にして距離を詰める。
そこに合わせた蹴りを身体を地面すれすれにまで屈めることで回避しては、空いた足元を通り背後を奪い、肘打ちを決める。
素の力に加えて、一応魔力も込めた。最初との違いも調整したつもりではいる。
だが、まだ足りなかったらしい。
僅かに仰け反っただけに留まったグラトリアは反転すると同時に横薙ぎを放つ。
小さい身体が功を奏し、また屈むことで避けることは出来るだろう。
まあそればかりだと芸がないのは確かだ。
両足と右腕に先ほどの数倍魔力を籠めては、巨木のような太い腕を今度こそ抑え込む。
「お返しだ」
自身の胴体ほど在りそうなそれを両腕で絡み取る様に掴んでは、全力で地面へと叩き付けた。
彼の巨体は訓練場の地面を容易に破壊し、小さなクレーターを作った。
単純な攻撃は効き目が薄いのだから仕方ない。
「ってて……やっぱ攻撃当てにくいんだなぁ。もうちょっとだけ続けさせて貰っても良いか、魔王様?」
「勿論。準備運動を終えるにはまだ早すぎる」
飛び上がって衣服の汚れを払いながら、グラトリアは問いかけてくる。
互いに一度攻撃を放っただけだ。これでは慣らすこともできない。
ほかの七欲の面子をチラ見すれば、多少うずうずしている者もいる様だ。だがもう少しだけ待ってもらおう。
「ではもう少しだけ、付き合って貰おうか」
「応とも!」
♦
「それにしても、お前たちは皆このレベルなのか」
「相性や得意分野ってのはあるが、総合的に見りゃ概ね同じだろうなぁ」
時間にして数分。力の調整を行いつつ戦闘を続ける。
「俺は基本的に殴ることしかできねえからよ。まあ近接用の魔術ならある程度はって感じだな」
「ほう、それは付与のようなモノになるのか」
拳を躱しつつ感心する。私の知らない魔術だ。
「系統的には同じなんだろうなぁ。魔王様は最近の魔術は知らねえだろうが」
「早急に学ばねばなるまい」
わずかに頬を掠る爪先、お返しと言わんばかりに腹部へと掌底を放つ。
「とりあえず戦闘能力を確認しに来たが、他に知らなければならないことが多すぎるな」
「多分魔王様の想像以下……いや、以上だとは思うぜ」
並の者であれば余波だけで気絶しかねない乱打。一つ一つを躱し、防ぎ、冷静に対処していく。
「含みのある言い方だ、少々興味が湧く」
「スラヴィア辺りなら事細かく教えてくれるだろうがな、生憎そこまで詳しくはないんでね。実際に目で見た方が良い気もするしよ」
となると実際に世界を見て回った方が良いか。
良いことも聞けた、身体も温まった。丁度良い止め時か。
「よくわかった、ではそろそろ終わりにするとしよう。他の者が浮足立っている」
もう一段階、魔力の段階を引き上げる。速度の次元をまた一つ越えては、目にも止まらぬ速さでグラトリアの巨体を吹き飛ばす。
両手両足で勢いを抑えながら辛うじて踏みとどまったグラトリアの首元に、すでに距離を詰めていた私は腕を伸ばし指先を触れさせる。
どう見てもチェックメイト。実際の殺し合いならわからないが、これはあくまで腕試し。
それを理解してだろう、ため息と苦笑いを交えては肩を竦めていた。
「お見事、流石に強ええなぁ。俺たちは実際に魔王様の力を見てたってわけじゃねえが……久々に格上を感じたわ」
「事実格上なのだから仕方あるまい。だが、そうか。今ので7割か。本当に力が出ないな」
「確か衰えてるんだろ?それでこれなら十分な気はするが、そうじゃねえんだろうな」
「私には目的があるからな。これでは届かん。それに、私が力を取り戻せば影響下にあるお前たちも更に力をつけるだろうな」
やっぱり強くなれるのは嬉しいんだろうな、明らかに表情が緩んでる。見た目と歳のわりに中身は少年か。
手を貸してグラトリアを起こし、共に振り返ると待ってましたと言わんばかりに一人の少女が前に出ていた。どうやらスラヴィアは観戦、他二人は彼女へと譲ったようだ。
手に持った短剣サイズの短い杖を、くるくると弄ぶその少女。
身体の揺れに合わせて、下部で結んだポニーテールがふわふわと左右へと振られる。
ペンキをぶちまけたような鮮やかな真紅の髪。
丸い眼鏡の奥で私を見つめる眠たげな…………いや、気だるげな瞳。
だがそれとは対照的な、身中に渦巻く溌剌とした魔力。
憤怒のライラ。七欲随一の魔術師と聞いている。
「まおーさまー。次はわたくしがー、やったりますー」
彼女の間延びした声が妙に頭に残った。
その場に崩れ落ち泣き喚く者や、感極まって叫びだす者。
様々なアクションが見られるが、歓迎されていることは確かだ。
しばらく待っては見たものの、一向に収まる気配がない。
「……なるほど、想像以上だ」
「魔王ちゃんが慕われてる何よりの証明じゃないかしらぁ」
「それは、嗚呼。喜ばしい事だ」
閑話休題。
落ち着きを取り戻したところで、少々場を開けて貰えるように皆に伝える。
いくら訓練場が広いからと言って、これからやることは生半可な広さでは危険だ。最も、この場に来たことで想像はついているとは思うが。
スラヴィアが一言告げると、誰もが意気揚々と壁側へと移りこちらを見つめ始める。流石にこの面子がいるに前で訓練を続けることは出来ないのだろうか。
衆人環視の中、七欲の彼らと私が向かい合う。何をするかは歩いている途中に告げた。
そう、戦闘だ。
現在の状況を知るのも大切だが、それと同程度に自分の力を確認することが重要だと感じた。
三千年もの間封印されていたのだ、魔力や身体がどうなっているかなど流石の私でも容易に想像はつかない。
準備運動がてら、身体を動かしておいて損はないはずだ。
「さて、危険はないと思うが万が一のこともある。一応備えておくが良い」
控えている者達に一言告げると、一歩前に出たグラトリアと視線を交わらせる。
一番手は筋骨隆々のグラトリアだ。
己が主と戦えることがよっぽど嬉しいのか、隠す気のない獰猛な笑みが伺える。戦闘好きにも程があろうに。
「んじゃ、遠慮なく行かせて貰うぜ魔王様ァ!!」
「簡単にくたばってくれるなよ、グラトリア」
一瞬にして体全体を纏う魔力。
まさに獣、大幅な身体強化をされた状態で踏み込んだグラトリア。
土煙と共に姿が消えた途端に遅れて聞こえてきた衝撃音。直後に左腕を振りかぶった状態で目前へと現れる。
音すら置き去りにする程の速度、腹部を狙った拳をすんでのところで手の平を差し込み直撃を免れる。
流石に速い、しかしこの程度なら問題はない。
完全に防いだ。
しかしその直後、視界が恐ろしい速度で後退し背中へと強烈な衝撃が走る。
「…………お?」
数瞬の間。
グラトリアの拳に盛大に吹き飛ばされ、修練場の壁へと打ち付けられたと理解しては拳を開閉してみる。力の加減に間違いはなかったと思っていたが、どうやら想像以上の”ブランク”があったらしい。
誰もが目を丸めている姿に一笑しては、クレーターのように崩れた壁から離れる。
別に吹き飛ばされただけで特に傷が付いたり座り込んだりしていたわけではないのだ。そう、立ったままの姿勢で壁にぶつかっただけだ。
「そう衝撃的な顔をするな。以前との齟齬が想像以上でな、少々面を喰らっていただけだ」
加減、というよりどの程度力を入れなければならないか考える必要がありそうだ。そう感じる程に私の力は衰えている。
これも封印の影響と言えるのか。
「では、こちらから行くぞ」
今しがたかっこ悪いところを見せたばかりだ、少しは真面目にやらなくては期待に応えることすらできない。応える義理はないが、ここまでされたらな。
うっすらと魔力を身体に纏っては、地を蹴り一瞬にして距離を詰める。
そこに合わせた蹴りを身体を地面すれすれにまで屈めることで回避しては、空いた足元を通り背後を奪い、肘打ちを決める。
素の力に加えて、一応魔力も込めた。最初との違いも調整したつもりではいる。
だが、まだ足りなかったらしい。
僅かに仰け反っただけに留まったグラトリアは反転すると同時に横薙ぎを放つ。
小さい身体が功を奏し、また屈むことで避けることは出来るだろう。
まあそればかりだと芸がないのは確かだ。
両足と右腕に先ほどの数倍魔力を籠めては、巨木のような太い腕を今度こそ抑え込む。
「お返しだ」
自身の胴体ほど在りそうなそれを両腕で絡み取る様に掴んでは、全力で地面へと叩き付けた。
彼の巨体は訓練場の地面を容易に破壊し、小さなクレーターを作った。
単純な攻撃は効き目が薄いのだから仕方ない。
「ってて……やっぱ攻撃当てにくいんだなぁ。もうちょっとだけ続けさせて貰っても良いか、魔王様?」
「勿論。準備運動を終えるにはまだ早すぎる」
飛び上がって衣服の汚れを払いながら、グラトリアは問いかけてくる。
互いに一度攻撃を放っただけだ。これでは慣らすこともできない。
ほかの七欲の面子をチラ見すれば、多少うずうずしている者もいる様だ。だがもう少しだけ待ってもらおう。
「ではもう少しだけ、付き合って貰おうか」
「応とも!」
♦
「それにしても、お前たちは皆このレベルなのか」
「相性や得意分野ってのはあるが、総合的に見りゃ概ね同じだろうなぁ」
時間にして数分。力の調整を行いつつ戦闘を続ける。
「俺は基本的に殴ることしかできねえからよ。まあ近接用の魔術ならある程度はって感じだな」
「ほう、それは付与のようなモノになるのか」
拳を躱しつつ感心する。私の知らない魔術だ。
「系統的には同じなんだろうなぁ。魔王様は最近の魔術は知らねえだろうが」
「早急に学ばねばなるまい」
わずかに頬を掠る爪先、お返しと言わんばかりに腹部へと掌底を放つ。
「とりあえず戦闘能力を確認しに来たが、他に知らなければならないことが多すぎるな」
「多分魔王様の想像以下……いや、以上だとは思うぜ」
並の者であれば余波だけで気絶しかねない乱打。一つ一つを躱し、防ぎ、冷静に対処していく。
「含みのある言い方だ、少々興味が湧く」
「スラヴィア辺りなら事細かく教えてくれるだろうがな、生憎そこまで詳しくはないんでね。実際に目で見た方が良い気もするしよ」
となると実際に世界を見て回った方が良いか。
良いことも聞けた、身体も温まった。丁度良い止め時か。
「よくわかった、ではそろそろ終わりにするとしよう。他の者が浮足立っている」
もう一段階、魔力の段階を引き上げる。速度の次元をまた一つ越えては、目にも止まらぬ速さでグラトリアの巨体を吹き飛ばす。
両手両足で勢いを抑えながら辛うじて踏みとどまったグラトリアの首元に、すでに距離を詰めていた私は腕を伸ばし指先を触れさせる。
どう見てもチェックメイト。実際の殺し合いならわからないが、これはあくまで腕試し。
それを理解してだろう、ため息と苦笑いを交えては肩を竦めていた。
「お見事、流石に強ええなぁ。俺たちは実際に魔王様の力を見てたってわけじゃねえが……久々に格上を感じたわ」
「事実格上なのだから仕方あるまい。だが、そうか。今ので7割か。本当に力が出ないな」
「確か衰えてるんだろ?それでこれなら十分な気はするが、そうじゃねえんだろうな」
「私には目的があるからな。これでは届かん。それに、私が力を取り戻せば影響下にあるお前たちも更に力をつけるだろうな」
やっぱり強くなれるのは嬉しいんだろうな、明らかに表情が緩んでる。見た目と歳のわりに中身は少年か。
手を貸してグラトリアを起こし、共に振り返ると待ってましたと言わんばかりに一人の少女が前に出ていた。どうやらスラヴィアは観戦、他二人は彼女へと譲ったようだ。
手に持った短剣サイズの短い杖を、くるくると弄ぶその少女。
身体の揺れに合わせて、下部で結んだポニーテールがふわふわと左右へと振られる。
ペンキをぶちまけたような鮮やかな真紅の髪。
丸い眼鏡の奥で私を見つめる眠たげな…………いや、気だるげな瞳。
だがそれとは対照的な、身中に渦巻く溌剌とした魔力。
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