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第一章 王国動乱篇
第十二話 推薦状①
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このメリウスという男、どうやら底なしの女好きらしい。
いや、女好きというより「女が好きそうな行動を取る男」といえばいいか。
確かにそれなりに端正な顔立ちをしているとは思うし、言葉遣いも柔らかい。しかし、その口から吐かれる言葉の数々が何とも甘いのだ。
別に自分の事を格好いいと思っているとかそういうわけではなく、無意識無自覚に垂れ流してしまっている。天然垂らし、という存在である。この男に惚れてしまう女にとっては至高のご褒美になりえるのかもしれないが、生憎私は該当していない。十分間に合っている。嫌いというわけではないが、好んで関わり合いたくはない。そもそも興味がない。
「ギルマス、いらっしゃいますか? メリウスです」
私へと引っ切り無しに向けていた言葉を切れば、目的に部屋にたどり着いたらしくノックと共に声を掛け始める。
中からはすぐに返事が返ってきた。随分としゃがれた声である。
「おう、メリウスか。入れ入れ」
「失礼します」
扉の先は、随分と簡素な一室であった。机上の書類の山を除けば、だが。
骨董品の類は全くなく、実用性に特化しているようでソファと机が並べられているだけだ。
そんな中、白髪を短く切り揃えた男と視線があった。間違いなくギルマスと呼ばれていた人物だ。この男以外室内に人影はない。
パタン。大きな音を立てて扉が閉まる。
直後、メリウスの剣が私の首元を捉えた。
その剣先は細かく震え、柄を握る手は真っ白になるほど力が込められていた。
荒い呼吸で、顔面蒼白。今にも倒れそうなほど疲労しているように見える。
「……んで、この化け物みたいな別嬪さんは何者だ? さっきから汗も震えも止まらねえ。半端ねえ圧力だ、俺はここで死ぬのか?」
「……ギルマスもですか。ハハ、私もです。反射的に剣を出してしまいましたが、どうするんですかこれ……っ」
扉が閉じられたタイミングで、私は魔力の一部を二人へと当てつけた。
たった二人に向けた、本物の魔力。古くから存在している我々と人間の魔力は、その質が全く異なる。普通の人間にとっては、心が震える程恐ろしいものに感じるだろう。
莫大な魔力は殺気となって狙われた人物へと降り注いだ。
その余波で棚も机も窓も、今にも崩れ壊れてしまいそうなほど大きく震えだしている。
推薦状を貰うのだ、こうやって圧倒的な力を見せつけるのが手っ取り早いに決まっている。
自分の数倍、いや数十倍の魔力を理解できたのだろうか二人の視線は私に釘付けだ。
メリウスの剣を指先で摘み、軽く引っ張る。それだけで、強く握っていたはずのメリウスの手から剣が抜け落ちた。
剣を床へと落とし、コツコツ、足音を響かせながらギルマスの目の前まで歩み寄る。
一応はこのギルドのトップを張っている者の矜持か、無様に仰け反るような真似はしないようだ。
「これは私、馬鹿にされているのかしら」
「……嬢ちゃんの強烈さに、思わず出ちまったんだろう。許してくれや」
「仕方ないわね、人間だもの。それに、突然やったのは謝るわ。害意はないの」
媚びているのではなく、単なる謝罪。なるほど、中々どうして肝が据わっているじゃないか。
目的は達成した。彼らに放っていた魔力を抑える。
露骨に肩を下ろし、ほっと息を吐く二人の姿が視界に映る。メリウスに至っては剣を拾う事すら忘れてしまっている。
「私がここに来たのは、ギルドマスターの貴方に会うため。メリウスは依頼の受注者。私は迷宮への推薦状が欲しいの」
状況がつかめないのか、困惑した表情のギルマス。
伝わらなかったのか。理解力が不足しているぞ、まったく。
ギルマスの目を睨んでいると、ため息交じりに前へと出てきたメリウスが口を開く。
「……ええっと、この方はギルマスに会わせてくれる者をギルドで募集していました。それも依頼という形で。それを、私が受けて、今に至る……という事です」
「……なる、ほど、分かった。つまり、このとんでもない嬢ちゃんは俺に会いたくてーーーーってちょっと待て。今迷宮の推薦状って言ったのか?」
「ええ、そうよ。推薦状。私迷宮に行きたいの」
「そりゃなんでまた」
「探し物よ」
「その強さがあれば、迷宮の見張りなんて無視して突っ込めるんじゃないのか?」
「その後が面倒でしょ。こっちのほうが手っ取り早いわ」
項垂れるギルマス。呆れるメリウス。なんだ、何がいけない。
迷宮に行きたいのは探し物があるから。でも迷宮に入るには資格がいるから、それを取りに来た。無視すると追っ手をつけられたり、騒ぎになって面倒くさい。おかしなことはないと思うけど。
「……理由は分かった。だが、俺の推薦状が必要なほどの迷宮となると、六大迷宮か? 嬢ちゃんが恐ろしく強いのも今の一瞬で理解した。納得はいかねえが、そういう事が往々にしてあるのが冒険者の世界だ…………が……」
続けて口を開こうとしたギルマスが、何かに気が付いたように眉をしかめる。同じタイミングで、メリウスも「あっ」と小さく声を漏らしていた。
「嬢ちゃんは、人間じゃねえよな?」
「ええ。貴方たちが魔族と呼ぶ存在よ」
「…………数日前に起こった出来事について、何か心当たりはあるか?」
いや、女好きというより「女が好きそうな行動を取る男」といえばいいか。
確かにそれなりに端正な顔立ちをしているとは思うし、言葉遣いも柔らかい。しかし、その口から吐かれる言葉の数々が何とも甘いのだ。
別に自分の事を格好いいと思っているとかそういうわけではなく、無意識無自覚に垂れ流してしまっている。天然垂らし、という存在である。この男に惚れてしまう女にとっては至高のご褒美になりえるのかもしれないが、生憎私は該当していない。十分間に合っている。嫌いというわけではないが、好んで関わり合いたくはない。そもそも興味がない。
「ギルマス、いらっしゃいますか? メリウスです」
私へと引っ切り無しに向けていた言葉を切れば、目的に部屋にたどり着いたらしくノックと共に声を掛け始める。
中からはすぐに返事が返ってきた。随分としゃがれた声である。
「おう、メリウスか。入れ入れ」
「失礼します」
扉の先は、随分と簡素な一室であった。机上の書類の山を除けば、だが。
骨董品の類は全くなく、実用性に特化しているようでソファと机が並べられているだけだ。
そんな中、白髪を短く切り揃えた男と視線があった。間違いなくギルマスと呼ばれていた人物だ。この男以外室内に人影はない。
パタン。大きな音を立てて扉が閉まる。
直後、メリウスの剣が私の首元を捉えた。
その剣先は細かく震え、柄を握る手は真っ白になるほど力が込められていた。
荒い呼吸で、顔面蒼白。今にも倒れそうなほど疲労しているように見える。
「……んで、この化け物みたいな別嬪さんは何者だ? さっきから汗も震えも止まらねえ。半端ねえ圧力だ、俺はここで死ぬのか?」
「……ギルマスもですか。ハハ、私もです。反射的に剣を出してしまいましたが、どうするんですかこれ……っ」
扉が閉じられたタイミングで、私は魔力の一部を二人へと当てつけた。
たった二人に向けた、本物の魔力。古くから存在している我々と人間の魔力は、その質が全く異なる。普通の人間にとっては、心が震える程恐ろしいものに感じるだろう。
莫大な魔力は殺気となって狙われた人物へと降り注いだ。
その余波で棚も机も窓も、今にも崩れ壊れてしまいそうなほど大きく震えだしている。
推薦状を貰うのだ、こうやって圧倒的な力を見せつけるのが手っ取り早いに決まっている。
自分の数倍、いや数十倍の魔力を理解できたのだろうか二人の視線は私に釘付けだ。
メリウスの剣を指先で摘み、軽く引っ張る。それだけで、強く握っていたはずのメリウスの手から剣が抜け落ちた。
剣を床へと落とし、コツコツ、足音を響かせながらギルマスの目の前まで歩み寄る。
一応はこのギルドのトップを張っている者の矜持か、無様に仰け反るような真似はしないようだ。
「これは私、馬鹿にされているのかしら」
「……嬢ちゃんの強烈さに、思わず出ちまったんだろう。許してくれや」
「仕方ないわね、人間だもの。それに、突然やったのは謝るわ。害意はないの」
媚びているのではなく、単なる謝罪。なるほど、中々どうして肝が据わっているじゃないか。
目的は達成した。彼らに放っていた魔力を抑える。
露骨に肩を下ろし、ほっと息を吐く二人の姿が視界に映る。メリウスに至っては剣を拾う事すら忘れてしまっている。
「私がここに来たのは、ギルドマスターの貴方に会うため。メリウスは依頼の受注者。私は迷宮への推薦状が欲しいの」
状況がつかめないのか、困惑した表情のギルマス。
伝わらなかったのか。理解力が不足しているぞ、まったく。
ギルマスの目を睨んでいると、ため息交じりに前へと出てきたメリウスが口を開く。
「……ええっと、この方はギルマスに会わせてくれる者をギルドで募集していました。それも依頼という形で。それを、私が受けて、今に至る……という事です」
「……なる、ほど、分かった。つまり、このとんでもない嬢ちゃんは俺に会いたくてーーーーってちょっと待て。今迷宮の推薦状って言ったのか?」
「ええ、そうよ。推薦状。私迷宮に行きたいの」
「そりゃなんでまた」
「探し物よ」
「その強さがあれば、迷宮の見張りなんて無視して突っ込めるんじゃないのか?」
「その後が面倒でしょ。こっちのほうが手っ取り早いわ」
項垂れるギルマス。呆れるメリウス。なんだ、何がいけない。
迷宮に行きたいのは探し物があるから。でも迷宮に入るには資格がいるから、それを取りに来た。無視すると追っ手をつけられたり、騒ぎになって面倒くさい。おかしなことはないと思うけど。
「……理由は分かった。だが、俺の推薦状が必要なほどの迷宮となると、六大迷宮か? 嬢ちゃんが恐ろしく強いのも今の一瞬で理解した。納得はいかねえが、そういう事が往々にしてあるのが冒険者の世界だ…………が……」
続けて口を開こうとしたギルマスが、何かに気が付いたように眉をしかめる。同じタイミングで、メリウスも「あっ」と小さく声を漏らしていた。
「嬢ちゃんは、人間じゃねえよな?」
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