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第一章 王国動乱篇
第十六話 教鞭②
しおりを挟むやられっぱなしは性に合わない。きっかけは私なのだが、言わなければバレまい。
今度は私の背後に数十にも及ぶ炎の槍。ライラと全く同じ大きさ、威力になっている。
当然、全てぶち込む。私は我儘だからな。ついでにこっそり【障壁妨害】でも使っておこうか。防ぐ術は与えんぞ。
響き渡る轟音、土煙が広がる。爆風で立ち上るそれは、一陣の風によって吹き晴らされた。
そして、その場にライラはいない。
「近距離転移か」
「正解ですー。守ったらダメだと思いましたのでー」
「いや待て待て待て。魔王様もライラも、何やってんだよ。魔術の訓練……? じゃなかったのか?」
ストップがかかる。
当たってないから今のはノーカン、と追撃の詠唱を始めようとしたのだが、グラトリアに止められた。
いけない、つい熱くなってしまった。やはりライラといると魔術戦の続きをしたくなってしまう。
実力の近い者との戦いは、どうしても血が騒いでしまう。戦闘狂というわけではないぞ。
「……ったく、スラヴィアからの頼みって何かと思えば制御役ってことかよ……」
ライラは模擬戦の時も皆に退避させられていた。
確かに、私と二人でいるとお目付け役でもいない限り、また何かやらかしてしまうかもしれないからな。どんまい、グラトリア。
「まおーさまはなんだかんだ言ってー、お転婆ですからねー。グラトリアもー、たーいへーんでーすねー」
「ライラ、お前の事だぞ」
「…………はぁ」
自覚が無い奴ほど困るよな、分かるぞグラトリア。
グラトリアは私に視線を向けて、大きく溜息を吐いた。
うんうん、私も気持ちは同じだ。だからあんまりしょげるんじゃない。
「まあ良いですー。グラトリアなんて放っておくんですー。それより魔術ですよー、魔術ー」
おお、そうだった。また忘れていた。効率的に動こうとライラに会いに来たのに、それを忘れて居ては更に時間の無駄だ。
現在この修練場には私達3人の姿しかない。それも当然だ、時間は夜更け。眠る必要のない魔族とはいえ、その血も薄まれば日毎に眠気が襲い来る。
完全に睡眠を必要としない存在なんて、私と七欲、それから三千年前から生きている者達だけなのだから。
「まおーさまがよく使う、さっきの奴ー。あれはー、現在ではー【古代魔術】といわれてましてー」
「古代魔術?」
「そーですー。言葉にー魔力を乗せてー魔術を発動するやつでーす。楽なのは分かりますけどー、抑えた方がー良いかもしれませーん」
これが、古代魔術か。【散れ】とか【お返し】だとか。
魔術なんて、大半は魔力とイメージに依存しているものだ。
だから私は、基本的にその場でイメージして、創りたてで魔術を発動している。
もちろん、元々創ってあるモノも全て使える。
大規模なものになると、その場で創って放つ、なんて真似は不可能だからな。
長い詠唱と、幾重にも重なる魔法陣。複雑な構成になっているそれを、一瞬で放てるはずがない。
だから私が戦闘で使う魔術というのは、一瞬で放てる上にどんな状況にでも対応出来る【古代魔術】。それに加え、高火力の既存魔術。そして大規模な詠唱を必要とする既存の極大魔術。大まかに言えばこの三つだ。
細かいことを言えば召喚術も使えるのだが、今は置いておこう。
「…………うん? 抑える? 何故だ。古代魔術とは言え、魔族の者は使えるだろう」
「私達は使えますけどー、全員が使える訳じゃないんですよー。世代が新しくなればなるほどー、魔力を扱うセンス……? みたいなのが減っていくと言いますかー」
「あの時代がおかしかったんだ。全盛期の魔王様が封印されてんだろ? そんなとんでもない奴らの巣窟みてぇな時代と比べちゃいけねえよ」
どうやら、ここ千年辺りで生まれた魔族は、そこまでのセンスを持ち合わせてない者がほとんどらしい。成る程、古代魔術を使えば古い魔族だとバレるわけか。
うん?
「お前達の様な長生きしている魔族がいることは、人間も知っているのだろう? であればバレた所で支障はあるまい。教国とやらはともかく、だが」
「……はぁ、もーそれで良いですー。好きにしてくださーい」
納得いかない。
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