31 / 37
第一章 王国動乱篇
第二十二話 偽物②
しおりを挟む
鼻から血を流し、歪んだ表情を浮かべているが意識はあるらしい。だがまあ、こんなものか。
「っ…………痛、何……え、……? なん、だよ……これ。話が、違っ……!」
「気絶しないところを見るに、内包する力だけは確かなようだな」
二人と一体分の足音と共に貼り付け状態の男の元へと歩み寄る。何を思ったのかは知らないが、どうにも驚いている様子に見える。
こいつは状況が掴めていないようだが、私もそれは同じだ。先に質問させてもらおうか。時間が経てば意識を失ってしまう程、弱ってはいないからな。
「何しにここへ来た」
「え、あ……えっと……自分の力を試しに……痛っ」
口を開くたびに苦悶の表情を浮かべているが、徐々に傷口が塞がっていくのが見える。【魔封呪縛】で魔力の行使は行えないはずだ。
ライラとヴェルフェール、両方へと視線を送るも何も分からないらしく首を振ってくる。
まあ直接聞くのが手っ取り早いか。
「その力は、なんだ。神と関係しているのか」
「……ここに来るときに、力を貰ったんだ」
力を貰った? こいつ、まさか本当に……。いや、あり得ない。勇者であれば、あの程度の攻撃も魔術も、まともに受けるはずがない。こんなに弱いはずはないのだ。
「詳しく話せ」
【収納】の空間から一本の剣を取り出し、男の首元に突きつける。剣に乗せた殺気を、男は感じている事だろう。
死ぬか話すか。どこかの国お抱えの暗殺者でもない限り、答えは明白だ。
「わ、わかった、話す! 話すからその剣を下ろしてほしい! ……し、信じられないかもしれないけど、俺は別の世界で死んで、ここに連れてこられたんだ。その時に、悪逆非道の魔王を倒せって神様に言われれ、たくさんの力を貰った。……今のは、魔力を使わない【自己回復】ってスキルの効果」
「別の世界……そんなことって、ほんとにあるんですかねー?」
「ほ、本当だって! 信じてくれ! こ、この服だって、ほら! こっちの世界に無い材質じゃないか!?」
「うーん、服にはあんまり詳しくなくてですねー。そんなことより、まおーさまを悪く言ってた事のほうが重要なんですけどー」
「友の悪口は、看過できん」
二人が完全にこの男に噛みついている。どうどう。
怒ってくれるのは嬉しいが、今はそれどころじゃない。もっと大切な事がある。
「少し落ち着け。私は、こいつの話を疑ってはいない。別の世界からというのもあり得る事で――――」
「魔王、様……? 君たち、魔王と知り合い……?」
男は驚いた――――困惑した? 様子で問いかけてくる。人間の細かな感情なんて分からん。
しかし話が逸れたことは確かだ。ライラ、目を背けるな。
だが、どうせ言っておくつもりだったから、同じ事か。
本当に別の世界から来たというのであれば、私の事も、世界の事も詳しくは知らないのだろうからな。
首元へと向けていた剣を、再び【収納】へとしまう。
理解が及んでいないのか、困惑している男の頬を一筋の液が伝う。
私は小さく腕を広げ、揺らぐ双眸を見つめながら告げた。
「嗚呼、申し遅れた。私はノア・エストラヴァーナ。三千年前から魔王と呼ばれていた者であり、貴様の目的の人物であり、腐った神とやらの仇敵だ」
「っ…………痛、何……え、……? なん、だよ……これ。話が、違っ……!」
「気絶しないところを見るに、内包する力だけは確かなようだな」
二人と一体分の足音と共に貼り付け状態の男の元へと歩み寄る。何を思ったのかは知らないが、どうにも驚いている様子に見える。
こいつは状況が掴めていないようだが、私もそれは同じだ。先に質問させてもらおうか。時間が経てば意識を失ってしまう程、弱ってはいないからな。
「何しにここへ来た」
「え、あ……えっと……自分の力を試しに……痛っ」
口を開くたびに苦悶の表情を浮かべているが、徐々に傷口が塞がっていくのが見える。【魔封呪縛】で魔力の行使は行えないはずだ。
ライラとヴェルフェール、両方へと視線を送るも何も分からないらしく首を振ってくる。
まあ直接聞くのが手っ取り早いか。
「その力は、なんだ。神と関係しているのか」
「……ここに来るときに、力を貰ったんだ」
力を貰った? こいつ、まさか本当に……。いや、あり得ない。勇者であれば、あの程度の攻撃も魔術も、まともに受けるはずがない。こんなに弱いはずはないのだ。
「詳しく話せ」
【収納】の空間から一本の剣を取り出し、男の首元に突きつける。剣に乗せた殺気を、男は感じている事だろう。
死ぬか話すか。どこかの国お抱えの暗殺者でもない限り、答えは明白だ。
「わ、わかった、話す! 話すからその剣を下ろしてほしい! ……し、信じられないかもしれないけど、俺は別の世界で死んで、ここに連れてこられたんだ。その時に、悪逆非道の魔王を倒せって神様に言われれ、たくさんの力を貰った。……今のは、魔力を使わない【自己回復】ってスキルの効果」
「別の世界……そんなことって、ほんとにあるんですかねー?」
「ほ、本当だって! 信じてくれ! こ、この服だって、ほら! こっちの世界に無い材質じゃないか!?」
「うーん、服にはあんまり詳しくなくてですねー。そんなことより、まおーさまを悪く言ってた事のほうが重要なんですけどー」
「友の悪口は、看過できん」
二人が完全にこの男に噛みついている。どうどう。
怒ってくれるのは嬉しいが、今はそれどころじゃない。もっと大切な事がある。
「少し落ち着け。私は、こいつの話を疑ってはいない。別の世界からというのもあり得る事で――――」
「魔王、様……? 君たち、魔王と知り合い……?」
男は驚いた――――困惑した? 様子で問いかけてくる。人間の細かな感情なんて分からん。
しかし話が逸れたことは確かだ。ライラ、目を背けるな。
だが、どうせ言っておくつもりだったから、同じ事か。
本当に別の世界から来たというのであれば、私の事も、世界の事も詳しくは知らないのだろうからな。
首元へと向けていた剣を、再び【収納】へとしまう。
理解が及んでいないのか、困惑している男の頬を一筋の液が伝う。
私は小さく腕を広げ、揺らぐ双眸を見つめながら告げた。
「嗚呼、申し遅れた。私はノア・エストラヴァーナ。三千年前から魔王と呼ばれていた者であり、貴様の目的の人物であり、腐った神とやらの仇敵だ」
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる