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第一章 王国動乱篇
第二十三話 勇者②
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「……貴様のいた世界は、どのような世界だ?」
興味、というより、情け。
この世界のほかにも、別の世界があることを私は知っている。いや、ある事しか知らない。
私たちの存在するこの世界と類似しているかもしれないし、全く異なるかもしれない。それを知っているのは、実際に他の世界から来たというこの男だけなのだ。
「……とっても、平和な世界だった。戦争とかはあったけどさ、俺の住んでた場所はそれとは程遠くて……、魔術とか戦いとかギルドとか、そんなの何一つないところだったんだ……」
「退屈そーな世界ですねー」
「こっちの人から見たらそうかもしれないけど、死の恐怖になんてほとんど怯えなくて済む、そんな幸せな世界だったと思う」
魔術も戦いもなく、平和に過ごせる世界。であれば、魔物だって存在しないのだろう。力なく生きられるという事は、敵対する存在が無に等しいのかもしれない。
「科学ってのが発展しててさ、魔術なんて使わずに、人は空を飛んで、地を駆け、文明を築いていた」
「想像が及ばんな」
「はは。とにかく、平和なところだった。俺は何か特別な事をしたわけでもない、有象無象の内の一人。こっちの世界の様な場所を、俺たちは剣と魔法の異世界、なんて言ってた。結構本とかになって人気あったんだぜ?」
情景が全く想像つかないが、悪い世界ではない様だな。こいつが曲がりなりにも魔術等を扱えていたのは、しっかりと存在を認識していたからか。あまり深堀しないほうがよさそうだ。
「まあ、いいか。そちらの世界が気になると言えば気になるが、今はどうでもいい。貴様はただ神に良いように利用されているようだしな」
「利用……?」
何度も言うが、私は人間を殺したいわけではない。嫌いなわけでも、憎いわけでもない。
人間から生まれる勇者が、勇者を作り上げる神を殺したいだけだ。
だから、仕方ない。
昔、人間に魔術を教えたように。今回も、また。
これは救いだ。神に利用された、哀れな部外者への、唯一の。
「私はお前を殺す気はない。悪逆非道でもない。目的はただ一つ、あの腐った自称神を殺すことだ」
男の真剣な眼差しを受けながら、続けて言葉を紡ぐ。
「お前が再び私を殺そうと立ち向かってくるようであれば、その時は当然此方も本気だ。しかし、全盛期の二割の力も持っていない今の私にすら勝てないようでは、無駄に思うがな」
「良いか、何が正義かよく考えろ。見極めろ。お前には知識がない。理解もない。そして、まだこの世界の法則を知らない」
「目の前の魔王は敵か、味方か。王の言葉は事実か、虚構か」
「正義とは、何か」
「その在り方を、見つけろ」
静寂が満ちる。
呼吸さえ忘れた様に、男は微動だにしない。流石のライラも、今回ばかりは口を噤んでいる。
「この後私は、他の六大迷宮を巡る。では、良い答えを見つけるんだな」
伝えるべきことは、全て伝えた。後は全て、男次第だ。何度でも抗ってくるのであれば、それもまた良し。その時は塵も残さず葬り去るだけだ。
先へ進もうと背を向けた直後、男から声がかけられる。
「あ、あの! えっと、俺の名前は――――――」
「聞かん。今のお前の名など、覚えるに値しない。行くぞ、ライラ、ヴェルフェール」
「わかりましたー」
「うむ」
今度こそ、迷宮の先へと進み始める。
残された男はただ一人、項垂れて地面を見つめ続けていた。
興味、というより、情け。
この世界のほかにも、別の世界があることを私は知っている。いや、ある事しか知らない。
私たちの存在するこの世界と類似しているかもしれないし、全く異なるかもしれない。それを知っているのは、実際に他の世界から来たというこの男だけなのだ。
「……とっても、平和な世界だった。戦争とかはあったけどさ、俺の住んでた場所はそれとは程遠くて……、魔術とか戦いとかギルドとか、そんなの何一つないところだったんだ……」
「退屈そーな世界ですねー」
「こっちの人から見たらそうかもしれないけど、死の恐怖になんてほとんど怯えなくて済む、そんな幸せな世界だったと思う」
魔術も戦いもなく、平和に過ごせる世界。であれば、魔物だって存在しないのだろう。力なく生きられるという事は、敵対する存在が無に等しいのかもしれない。
「科学ってのが発展しててさ、魔術なんて使わずに、人は空を飛んで、地を駆け、文明を築いていた」
「想像が及ばんな」
「はは。とにかく、平和なところだった。俺は何か特別な事をしたわけでもない、有象無象の内の一人。こっちの世界の様な場所を、俺たちは剣と魔法の異世界、なんて言ってた。結構本とかになって人気あったんだぜ?」
情景が全く想像つかないが、悪い世界ではない様だな。こいつが曲がりなりにも魔術等を扱えていたのは、しっかりと存在を認識していたからか。あまり深堀しないほうがよさそうだ。
「まあ、いいか。そちらの世界が気になると言えば気になるが、今はどうでもいい。貴様はただ神に良いように利用されているようだしな」
「利用……?」
何度も言うが、私は人間を殺したいわけではない。嫌いなわけでも、憎いわけでもない。
人間から生まれる勇者が、勇者を作り上げる神を殺したいだけだ。
だから、仕方ない。
昔、人間に魔術を教えたように。今回も、また。
これは救いだ。神に利用された、哀れな部外者への、唯一の。
「私はお前を殺す気はない。悪逆非道でもない。目的はただ一つ、あの腐った自称神を殺すことだ」
男の真剣な眼差しを受けながら、続けて言葉を紡ぐ。
「お前が再び私を殺そうと立ち向かってくるようであれば、その時は当然此方も本気だ。しかし、全盛期の二割の力も持っていない今の私にすら勝てないようでは、無駄に思うがな」
「良いか、何が正義かよく考えろ。見極めろ。お前には知識がない。理解もない。そして、まだこの世界の法則を知らない」
「目の前の魔王は敵か、味方か。王の言葉は事実か、虚構か」
「正義とは、何か」
「その在り方を、見つけろ」
静寂が満ちる。
呼吸さえ忘れた様に、男は微動だにしない。流石のライラも、今回ばかりは口を噤んでいる。
「この後私は、他の六大迷宮を巡る。では、良い答えを見つけるんだな」
伝えるべきことは、全て伝えた。後は全て、男次第だ。何度でも抗ってくるのであれば、それもまた良し。その時は塵も残さず葬り去るだけだ。
先へ進もうと背を向けた直後、男から声がかけられる。
「あ、あの! えっと、俺の名前は――――――」
「聞かん。今のお前の名など、覚えるに値しない。行くぞ、ライラ、ヴェルフェール」
「わかりましたー」
「うむ」
今度こそ、迷宮の先へと進み始める。
残された男はただ一人、項垂れて地面を見つめ続けていた。
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