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第ニ章 俺たちの夢
拉致
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星ひとつ見えない夜空の色をそのまま映し込んだかのような中央公園の真っ黒な池。それを目の前に臨むベンチに一組のカップルが肩を寄せ合って座っている。そしてその少し後方の木陰から中国マフィアの杰勇と永新が彼らの様子をうかがっていた。二人は周囲の草むらから聞こえてくる虫の鳴き声と同じくらいの小さな声で話した。
「あのカップル、タイ人だよな」
「ああ、あの間抜けな発音はタイ語で間違いない」
永新はまだ堅気の青年のように見えないこともないが、杰勇のほうは眉間を貫いて顔に斜めに走る傷跡のせいもあっていかにも近寄りがたいアウトローな雰囲気を漂わせていた。
「それにあの服装。ボスが言ってたのと同じだ」
ひとりの女にカジノを襲撃された話はボスの暁明から聞いていた。国籍はおそらくタイ。英語の発音にわずかにタイ語訛りがあったという。そして服装は白のシャツに紺のロングスカート。ベンチに座っている女と同じだった。
「あんな女がうちの構成員を六人も殺れるとはとても思えないがな」
「じゃあ、どんな女だったら殺れるっていうんだ?」
「それは……」
「これはそもそもの話があまりにもバカげてるんだ。女ひとりにボスですら半殺しにされちまったっていうんだからな」
「ボスもとうとう焼きが回っちまったのかね」
「そう思うのなら、おまえがボスに戦いを挑んで下克上してみろよ」
「よせよ。冗談じゃない」
「で、どうする?」
「とりあえず拉致してボスに突き出してやろうぜ」
「そうだな。しかし男が邪魔だ。どうする?」
カップルはお互いを見つめ合い、そしてキスする。しばらくして男はベンチから腰を上げてその場を離れていった。
「トイレか?」
「チャンスだ。俺が女を拉致するから、おまえは公園の入り口でクルマを待機させてろ」
「うまくやれるか?」
「任せておけ」
永新は公園の外に止めてあるクルマのほうへ向かい、杰勇はベンチにひとり座っている女の後方から忍び足で近づいていく。
パキッ。
杰勇の踏みつけた小枝が折れる音が響いた。女はそれに気付いて顔を振り向かせる。表情を強張らせた。
「落ち着いて。俺は怪しい者じゃない。ちょっとだけお話を……」
「……あ!」
女が悲鳴をあげようと口を大きく開いた瞬間だった。杰勇の鋭い手刀が彼女の首の側面に斜めに振り下ろされた。彼女は糸を切られた操り人形のようにパタリとベンチに倒れる。
杰勇は女を軽々と肩に担いで公園の入り口に向かって歩いた。そこで永新がセダンの運転席に座って待っていた。ウィンドウを下ろして訊いた。
「殺してないよな?」
「大丈夫。気絶させているだけだ」
「後ろに乗せろ」
杰勇は後部座席のドアを開いて女を荷物のように乱雑に放り込む。そして自分は助手席に乗り込もうとしたときだった。
「待って!」
後ろから男の声が響いた。振り返ると、女の彼氏がそこに立っていた。
「彼女を返して!」
色白で細い体つきの優男。杰勇はチッと舌打ちをしてそれに答える。
「この女のことは忘れろ。てめえの命が惜しかったらな」
そして彼氏に背を向けた。そのときだった。ガツン! と後頭部に衝撃が走った。飛びそうになる意識をかろうじて繋ぎとめながら振り返ると、彼氏が掌と同じくらいのサイズの石を握って立っていた。殴られた後頭部に触れると血がべっとりと付着する。
「てめえ……」
杰勇は彼氏の鳩尾に思い切りパンチを打ち込んだ。彼氏の体がくの字に折れ、口からは声にならない悲痛な吐息が漏れる。杰勇はその首根っこを掴み、女の乗せられた後部座席にいっしょに放り込んだ。そして助手席に乗り込み、運転席の永新に言った。
「出せ」
「おい……」
永新はなにか言いかけるが、ふうっと小さくため息をついてからアクセルを踏んだ。
セダンが遠ざかっていくと公園に再び静寂が戻る。そこにまるで何事もなかったかのように虫の音だけが響いた。
「あのカップル、タイ人だよな」
「ああ、あの間抜けな発音はタイ語で間違いない」
永新はまだ堅気の青年のように見えないこともないが、杰勇のほうは眉間を貫いて顔に斜めに走る傷跡のせいもあっていかにも近寄りがたいアウトローな雰囲気を漂わせていた。
「それにあの服装。ボスが言ってたのと同じだ」
ひとりの女にカジノを襲撃された話はボスの暁明から聞いていた。国籍はおそらくタイ。英語の発音にわずかにタイ語訛りがあったという。そして服装は白のシャツに紺のロングスカート。ベンチに座っている女と同じだった。
「あんな女がうちの構成員を六人も殺れるとはとても思えないがな」
「じゃあ、どんな女だったら殺れるっていうんだ?」
「それは……」
「これはそもそもの話があまりにもバカげてるんだ。女ひとりにボスですら半殺しにされちまったっていうんだからな」
「ボスもとうとう焼きが回っちまったのかね」
「そう思うのなら、おまえがボスに戦いを挑んで下克上してみろよ」
「よせよ。冗談じゃない」
「で、どうする?」
「とりあえず拉致してボスに突き出してやろうぜ」
「そうだな。しかし男が邪魔だ。どうする?」
カップルはお互いを見つめ合い、そしてキスする。しばらくして男はベンチから腰を上げてその場を離れていった。
「トイレか?」
「チャンスだ。俺が女を拉致するから、おまえは公園の入り口でクルマを待機させてろ」
「うまくやれるか?」
「任せておけ」
永新は公園の外に止めてあるクルマのほうへ向かい、杰勇はベンチにひとり座っている女の後方から忍び足で近づいていく。
パキッ。
杰勇の踏みつけた小枝が折れる音が響いた。女はそれに気付いて顔を振り向かせる。表情を強張らせた。
「落ち着いて。俺は怪しい者じゃない。ちょっとだけお話を……」
「……あ!」
女が悲鳴をあげようと口を大きく開いた瞬間だった。杰勇の鋭い手刀が彼女の首の側面に斜めに振り下ろされた。彼女は糸を切られた操り人形のようにパタリとベンチに倒れる。
杰勇は女を軽々と肩に担いで公園の入り口に向かって歩いた。そこで永新がセダンの運転席に座って待っていた。ウィンドウを下ろして訊いた。
「殺してないよな?」
「大丈夫。気絶させているだけだ」
「後ろに乗せろ」
杰勇は後部座席のドアを開いて女を荷物のように乱雑に放り込む。そして自分は助手席に乗り込もうとしたときだった。
「待って!」
後ろから男の声が響いた。振り返ると、女の彼氏がそこに立っていた。
「彼女を返して!」
色白で細い体つきの優男。杰勇はチッと舌打ちをしてそれに答える。
「この女のことは忘れろ。てめえの命が惜しかったらな」
そして彼氏に背を向けた。そのときだった。ガツン! と後頭部に衝撃が走った。飛びそうになる意識をかろうじて繋ぎとめながら振り返ると、彼氏が掌と同じくらいのサイズの石を握って立っていた。殴られた後頭部に触れると血がべっとりと付着する。
「てめえ……」
杰勇は彼氏の鳩尾に思い切りパンチを打ち込んだ。彼氏の体がくの字に折れ、口からは声にならない悲痛な吐息が漏れる。杰勇はその首根っこを掴み、女の乗せられた後部座席にいっしょに放り込んだ。そして助手席に乗り込み、運転席の永新に言った。
「出せ」
「おい……」
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セダンが遠ざかっていくと公園に再び静寂が戻る。そこにまるで何事もなかったかのように虫の音だけが響いた。
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