絶望ダンデリオン

小林ていじ

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第ニ章 俺たちの夢

鉄管杭

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 ガララララ……。

 真っ暗な夜の色に染まるアスファルトの道路を金属の硬質な音が這っていく。暁明が先端の尖った鋼管杭を右手に持ち、地面に引きずって歩いていた。工事中の建物の横を通りかかったときに拾ったものである。

 ジャケットの胸ポケットから携帯電話を取り出し、杰勇の居場所を確認した。この道路をしばらく真っ直ぐ進んで左手の小路に入ったところにいるはずだった。

 タバコを取り出して口にくわえた。遠くのほうから波の音だけが微かに聞こえてくるだけの静けさの中にジッポーのライターを擦る音が響く。吐き出した煙は外灯の光を纏わせながら夜の中に滲んでいく。

 その煙の向こう側から現れたものに背筋がゾクリとした。外灯の光に輪郭を縁取られた黒い人影と物体。一台のバイクに二人乗りをする治安部隊の隊員だった。

 まさか暁明の行き先を知っていてそこで待ち構えていたのだろうか。しかし、暁明が近くまで来ていることには気付いていない様子だった。二人とも暁明に背を向けてバイクに乗っている。ならば先手必勝である。何気なく拾ってきた鋼管杭が役に立つかもしれなかった。

 拳銃の弾は残り一発。無駄にはできない。鋼管杭を地面に下ろして拳銃を右手に構え、バイクのハンドルを握る隊員の後頭部に狙いを定めた。腹部の傷がズキズキと痛み、拳銃を構える両腕が微かに震えた。

 ――当たれよ……。

 念じながら引き金を引いた。

 ズダン!

 発射される銃弾。ねっとりとした夜気を切り裂いて進んでいく。隊員の頭部を覆うヘルメットに命中した。そして弾き返された。

 暁明はそれを確認すると、鋼管杭を拾い上げて雑居ビルの前に置かれた自販機の陰に身を隠した。銃弾が弾き返されることは予想していた。

 ブロロロロ……。

 バイクの音が近づいてくるのが聞こえた。これも予想どおり。次のアクションはタイミングが重要になる。近づいてくる音の大きさで距離を測った。

 数メートル近くまで来たであろうところで暁明は自販機の陰から飛び出した。すぐ目の前には隊員の運転するバイクがあった。身を低くしてその前輪に鋼管杭を突き刺した。

 ガガ……!

 体ごと弾き飛ばされそうになるほどの衝撃。両足を踏ん張ってそれを堪えると、鋼管杭を突き刺した箇所を支点にしてバイクがグルリと大きく回転する。ハンドルを握っていた隊員は頭からグシャリと地面に叩きつけられ、後部座席の隊員は遠くへポンと放り出される。

 暁明はバイクの前輪から鋼管杭を引き抜いた。少しくの字に曲がっている。それを地面に倒れている隊員の喉に突き刺した。ブシュッと血が噴出した。隊員は両手で鋼管杭を掴んで引き抜こうとする。が、暁明が鋼管杭を首に貫通させると力が抜けていった。隊員が息絶える感触を自分の手で感じた。

 ――あと一人……。

 遠くに放り出された隊員のほうに向きなおった。上半身だけを起こし、すでに銃口を暁明に向けていた。引き金に指がかけられた。

 暁明は隊員の死体を持ち上げて盾にする。飛んできた数発の銃弾はすべてその分厚い装甲に弾き返される。そのままの状態で隊員に向かって突進した。

 手の届く距離まで来たところで死体を隊員に向かって投げつけた。そしてそこから地面を這うかのような低空タックル。隊員の片足をとって地面に倒した。

 ズダン! ズダン!

 隊員の闇雲に撃った銃弾が空を切る。暁明はその右腕をとり、自分の両膝で固定して反対側に反らした。ボキッと骨の折れる音。手から拳銃が落ちる。

 しかし、その状態から隊員は上半身を起こして左の拳が暁明に向かって放つ。暁明が首を横に動かしてそれを寸前のところで避けると、地面にめり込む。ヘルメットの黒い防弾ガラスの向こう側に二つの白い目玉が覗いている。至近距離で睨みあう形になった。

 ――不気味な野郎だ……。

 どんな屈強な大男でも腕を折られれば悲鳴のひとつくらいは上げるものである。痛みという感覚を失っているとしか思えなかった。

 隊員の拳が地面から離れた。が、二発目のパンチを振り下ろされる前に暁明の銃弾が放たれていた。隊員の落とした拳銃である。銃弾は装甲で覆われていない柔らかな首の部分を貫通した。そこから噴出する血を暁明は顔面に浴びた。

 暁明は体を起こした。目の前には二体の死体が折り重なっている。主人を失ったバイクは前輪をカタカタと寂しげに回転させている。

「ふうう……」

 大きく息を吐いてから道路の先のほうへ目を凝らした。小路の入り口を覆い隠すかのように一台のセダンが停められている。杰勇がいるのはおそらくあのあたりだろう。

 隊員から奪った拳銃の弾倉を開いた。カチャリと乾いた音が響く。残弾数はゼロ。拳銃を投げ捨て、丸腰でセダンのほうに向かって歩いた。

 その途中、一台のクルマが隊員の死体の横を通りかかる。が、気付く様子もなく、オレンジ色のヘッドライトでアスファルトの地面を鈍く照らしながら通り過ぎていった。
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