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第ニ章 俺たちの夢
キリスト像
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時刻は午前九時を少し過ぎた頃。教会のステンドグラスから斜めに差し込む外光は青色にわずかに白を滲ませて朝の気配をその中に漂わせている。ここを寝床にしている浮浪者たちはすでに起床しているが、特になにをするでもなく、長椅子に座ったままただ中空をぼんやりと見つめていた。
「おはよう」
悦子は教会に入ると、浩人と同じ長椅子に座った。彼の膝の上に置かれている十字架に磔にされたキリスト像に気付いた。首が胴体から取れていた。
「どうしたの、それ?」
「取れてた」
「誰がやったの?」
「わからない。ここで寝ていた人の話だと、夜、ヒラヒラの服を来た女が入ってきてナイフで切り落としていったって話だけど……」
「なにそれ?」
「ま、ここにいる人間の話なんてあまりあてにならないよ。頭おかしいのも多いし」
「瞬間接着剤でくっ付くんじゃない?」
「その前にこれ見て」
浩人はキリスト像の首の取れている部分にソフトビニール製の赤ん坊の人形の頭部をあてがう。赤ん坊なのに体付きは大人というシュールな姿になった。
「よく平気でそんなことできるわね。天罰が下るわよ」
「これで祭壇に戻しておこうか。意外と誰も気付かなかったりして」
彼はそう言って楽しそうにケタケタと笑う。
浩人が悦子に無邪気な笑顔を見せるようになってきたのはここ最近のことだった。炊き出しの準備、カクテルバーでの張り込みなど行動を共にすることが多くなった。そのおかげで彼女に対して徐々に心を開いてきたということだろうか。
「おはようございます」
神父の田中が姿を現すと、浩人はキリスト像を長テーブルの下にさっと隠した。田中は祭壇のキリスト像がないことにすぐに気付いて言った。
「キリスト像がないね」
「あ、ああ、けっこう汚れてたので洗ってます」
「ミサが始まるまでに戻しておいてね」
「わかりました」
田中は飄々とした笑みで悦子に会釈してから教会の奥の部屋へ消えた。
「あっぶなかったー……」
「早く直したほうがいいわよ。瞬間接着剤はあるの?」
「ない」
「じゃあ、コンビニで買ってくる」
「悪いね、おばさん」
悦子は長椅子から腰を上げるが、思い出したことがあってまた腰を下ろした。
「あ、そうだ。見てもらいたいものがあるんだった」
「なに?」
「カクテルバーの写真。私たちがいないときに遂にあいつが姿を現した。で、店員が写真に撮っていてくれたの」
悦子は携帯電話を操作して空中に写真を映し出す。浩人は身を乗り出してその写真をじっと見入る。屋外のテーブル席でオレンジ色のカクテルを飲むアロハシャツの小太りの男の姿が映されている。浩人の眉間に皺が寄り、表情が見る見る険しくなっていった。
「……おばさん。こいつなの?」
「え?」
「こいつが秋則の失踪に関わっているの?」
「知っているの?」
「知ってるもなにも……近藤拓海。近藤組の組長。僕の元親分だよ」
「え、この男が……?」
悦子は写真の中の近藤に目をやった。柔和でいかにも人の良さそうな笑みを浮かべており、その雰囲気はヤクザのイメージから遠くかけ離れている。この近藤といい、浩人といい、最近のヤクザは外見からはまったくわからないものだなと思った。
「それならもうカクテルバーで張り込みをする必要はないわね」
「そうだね。近藤を直接しめて吐かせればいい」
「ダメよ、そんなやり方じゃ!」
「どうして?」
「まだ近藤が秋則君たちの失踪に関わっていると決まったわけではない。それにヤクザの組長に下手に手を出したりしたらあなただってタダじゃ済まないでしょ」
「僕が負けるとでも思うの?」
「あなたがどれだけ喧嘩が強いのか知らないけど、そうやってなんでも暴力で解決しようとするのはやめてよ!」
「……じゃあ、どうすればいい?」
「近藤を尾行する。それで尻尾を掴むの」
考え込んでいるのか浩人からの返事はなかった。悦子は携帯電話をバッグにしまい、長椅子から腰を上げた。
「じゃあ、私はコンビニに行ってくるから」
そして教会の出入り口のドアに向かおうとしたときだった。浩人が口を開いた。
「ねえ、おばさん。近藤を尾行してもし黒だってわかった場合のことだけど……、そのときは殺してもいいの?」
悦子はふうっとため息交じりにそれに答えた。
「好きにすればいいわ」
「おはよう」
悦子は教会に入ると、浩人と同じ長椅子に座った。彼の膝の上に置かれている十字架に磔にされたキリスト像に気付いた。首が胴体から取れていた。
「どうしたの、それ?」
「取れてた」
「誰がやったの?」
「わからない。ここで寝ていた人の話だと、夜、ヒラヒラの服を来た女が入ってきてナイフで切り落としていったって話だけど……」
「なにそれ?」
「ま、ここにいる人間の話なんてあまりあてにならないよ。頭おかしいのも多いし」
「瞬間接着剤でくっ付くんじゃない?」
「その前にこれ見て」
浩人はキリスト像の首の取れている部分にソフトビニール製の赤ん坊の人形の頭部をあてがう。赤ん坊なのに体付きは大人というシュールな姿になった。
「よく平気でそんなことできるわね。天罰が下るわよ」
「これで祭壇に戻しておこうか。意外と誰も気付かなかったりして」
彼はそう言って楽しそうにケタケタと笑う。
浩人が悦子に無邪気な笑顔を見せるようになってきたのはここ最近のことだった。炊き出しの準備、カクテルバーでの張り込みなど行動を共にすることが多くなった。そのおかげで彼女に対して徐々に心を開いてきたということだろうか。
「おはようございます」
神父の田中が姿を現すと、浩人はキリスト像を長テーブルの下にさっと隠した。田中は祭壇のキリスト像がないことにすぐに気付いて言った。
「キリスト像がないね」
「あ、ああ、けっこう汚れてたので洗ってます」
「ミサが始まるまでに戻しておいてね」
「わかりました」
田中は飄々とした笑みで悦子に会釈してから教会の奥の部屋へ消えた。
「あっぶなかったー……」
「早く直したほうがいいわよ。瞬間接着剤はあるの?」
「ない」
「じゃあ、コンビニで買ってくる」
「悪いね、おばさん」
悦子は長椅子から腰を上げるが、思い出したことがあってまた腰を下ろした。
「あ、そうだ。見てもらいたいものがあるんだった」
「なに?」
「カクテルバーの写真。私たちがいないときに遂にあいつが姿を現した。で、店員が写真に撮っていてくれたの」
悦子は携帯電話を操作して空中に写真を映し出す。浩人は身を乗り出してその写真をじっと見入る。屋外のテーブル席でオレンジ色のカクテルを飲むアロハシャツの小太りの男の姿が映されている。浩人の眉間に皺が寄り、表情が見る見る険しくなっていった。
「……おばさん。こいつなの?」
「え?」
「こいつが秋則の失踪に関わっているの?」
「知っているの?」
「知ってるもなにも……近藤拓海。近藤組の組長。僕の元親分だよ」
「え、この男が……?」
悦子は写真の中の近藤に目をやった。柔和でいかにも人の良さそうな笑みを浮かべており、その雰囲気はヤクザのイメージから遠くかけ離れている。この近藤といい、浩人といい、最近のヤクザは外見からはまったくわからないものだなと思った。
「それならもうカクテルバーで張り込みをする必要はないわね」
「そうだね。近藤を直接しめて吐かせればいい」
「ダメよ、そんなやり方じゃ!」
「どうして?」
「まだ近藤が秋則君たちの失踪に関わっていると決まったわけではない。それにヤクザの組長に下手に手を出したりしたらあなただってタダじゃ済まないでしょ」
「僕が負けるとでも思うの?」
「あなたがどれだけ喧嘩が強いのか知らないけど、そうやってなんでも暴力で解決しようとするのはやめてよ!」
「……じゃあ、どうすればいい?」
「近藤を尾行する。それで尻尾を掴むの」
考え込んでいるのか浩人からの返事はなかった。悦子は携帯電話をバッグにしまい、長椅子から腰を上げた。
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そして教会の出入り口のドアに向かおうとしたときだった。浩人が口を開いた。
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悦子はふうっとため息交じりにそれに答えた。
「好きにすればいいわ」
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