絶望ダンデリオン

小林ていじ

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第三章 追う者と追われる者

ジャングルジム

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 洋平は地下鉄の駅の階段を上がっていた。駅の清掃員のバイトの帰り。もう辞めさせてもらいたいという旨はすでに上司に伝えてあるのだが、後釜が見つかるまでは続けてほしいと頼まれていた。

 気がかりなのは健吾のことだった。銀座から有島に戻ってきてからずっと連絡のとれない状態が続いていた。この日も健吾は洋平と同じシフトに入っていたのだが姿を見せなかった。彼がバイトを無断欠勤するのははじめてのことだった。

 地上はすでに夜の帳が落ちていた。目の前にある公園はひっそりと静まり返っている。無人のジャングルジムを照らす外灯の光もどこか寒々しい。

「洋平」

 アパートに向かって歩き出そうとしたところに後ろから声がかかった。沙耶だった。ここで洋平が帰ってくるのを待っていたのだろうか。

「バイトどうだった?」
「は?」
「健吾は来てた?」

 洋平は首を横に振る。

「そっか。本当にどうしちゃったんだろうね……」

 沙耶はまだなにか言おうとするが、洋平はそれに構わず先を進んだ。

「あ、洋平。待ってよ」

 彼女はそれを小走りで追いかけた。

「私も何度も電話してるんだけどぜんぜん繋がらないんだよね」
「へえ」
「健吾のアパートに行ってみようかな」
「行ってみれば?」
「洋平は心配じゃないの?」
「心配だよ」

 洋平はズンズンと早歩きしていたので沙耶との距離が徐々に開いていく。

「ねえ、洋平。待ってってば。歩くの速いよ」
「ていうかさ……」

 洋平は急に足を止め、彼女に振り向いて言った。

「なんで俺のあとをついてくるの?」
「……え?」

 沙耶はまさに鳩が豆鉄砲を食ったようなきょとんと驚いた表情を浮かべた。洋平はそんな彼女をそこに残して歩いていく。途中、一度だけ後ろをちらと振り返った。沙耶はずっと小路の暗がりの中に立ち尽くしたままだった。

 角を曲がって彼女から自分の姿が見えなくなったところで足を止めた。唇をぎゅっと噛み締めた。後悔の念が湧いていた。

 ――沙耶に当たってどうするんだ……!

 健吾が連絡を絶っている理由はあまりにも歴然としていた。しかし、その責任は沙耶だけにあるわけではない。洋平だって同罪。いや、洋平は健吾の気持ちを知ったうえであのようなことをしたのだからさらに罪は大きい。

 洋平は通り沿いに設けられたブロック塀に額をガツンと強く打ち付けた。目眩がしたが構わずに繰り返した。

 ――俺が悪いんだ。俺が、俺が、俺が……。

 三人で協力してここまでやってきた。しかし、栄光をこの手に掴み取る直前になって三人の絆はガラスのようにバラバラに砕けていた。もう修復することは不可能なのだろうか……。

 地面にうずくまった。ズキズキと痛む額に手を当てると血が付着する。それをじっと見つめながら思った。

 ――健吾。おまえは今どこでなにをしているんだ……?
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