絶望ダンデリオン

小林ていじ

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第四章 最後の戦い

ドラゴンフラッグ

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 暁明はプラットホームに設けられた平らな木のベンチに横になっていた。上半身は裸で下にグレイのスウェットパンツを履いている。筋肉は全体的に程よく引き締められており、それが左腕から胸板にかけて施された龍の刺青に躍動感を与えている。

 頭の後ろのベンチの端を両手で掴み、両足をそろえて上に伸ばした。そこからゆっくりと両足を下ろしていき、腰がベンチに着く直前で止める。そしてまた両足を上げる。

「ふうう……」

 呼吸もその動きに合わせて行った。腹筋に強烈な負荷がかかり、繰り返すごとに焼けるような痛みがじわじわと広がっていく。

 ふと気が付くと、すぐ傍に洋平が立っていた。暁明は筋トレを中断し、ベンチに横になったまま訊いた。

「なんだ?」
「……頼みがあるんだ。俺に喧嘩のやり方を教えてくれないか」

 暁明が洋平の目を見ると、彼は真剣な眼差しで見つめ返してくる。暁明はベンチから上半身を起こして言った。

「服を脱いでみろ」

 洋平が長袖のTシャツを脱ぐと、贅肉はついていないが筋肉もさほどついていない脆弱な肉体が現れる。

 暁明はベンチから立ち上がり、お互いに上半身裸で洋平と向き合った。至近距離で睨みあう。暁明は洋平の腹部に拳を置き、その硬さを確かめるかのようにポンポンと叩いた。そして下から突き上げるようにして拳を叩き込む。

「ふぐううう……」

 洋平は体をくの字に折って床に崩れ落ちる。暁明は仁王立ちでそれを見下ろして言う。

「やめておけ。おまえは喧嘩に向いてねえよ」

 洋平はぜえぜえと荒く呼吸しながらゆっくりと立ち上がった。そして拳を大きく振りかぶり、暁明の腹部に向けて放った。

 ポスッ。

 しかし、彼の鋼のように鍛えられた腹筋はビクともしない。

「どうしてだ?」
「え?」
「どうして喧嘩を習いたい?」
「俺が……俺が沙耶を守ってやらないといけないんだ。だから……」
「そうか……」

 暁明は洋平の側頭部にフックを見舞った。洋平は横に吹っ飛んで床に倒れる。暁明は拳を前に構えて言う。

「だったら、手っ取り早く実践で教えてやるよ」

 洋平はかろうじて上半身を起こすが、視線を床に落として弱気な表情を見せている。

「どうした? おまえが沙耶を守りたいという気持ちはその程度か?」

 しばらくして洋平は視線を上げる。その目からはもう弱気の色は払拭されていた。必死の形相で暁明をきっと睨みつける。

 ――こいつ……。

 その表情に暁明は心を揺さぶられた。路地裏で杰勇の暴行から健吾を守ろうとしていたときに見せた表情と同じだった。

「うらあッ!」

 気が付くと、すぐ目の前に洋平の拳があった。暁明は反射的に手加減なしのカウンターパンチを彼の顔面に打ってしまった。

 ――しまった……!

 そう思ったときには洋平の体は派手に床をゴロゴロと転がっていた。
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