絶望ダンデリオン

小林ていじ

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第四章 最後の戦い

ヒーローインタビュー

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 大きな寸胴鍋の中でカレーがぐつぐつと煮えていた。浩人が炊き出しでよく作っていた牛もつたっぷりのカレーである。

 田中はお玉で少し掬い、小皿にとって味見をする。浩人と同じレシピで作っているはずなのだが、味に深みが足りないような気がする。なにが違うのかわからないが仕方がない。コンロの火を止め、キッチンの外に向かって呼びかけた。

「すみません。誰か鍋を運ぶのを手伝ってもらえませんか」

 すると、すぐにインド系の男二人がやってきた。寸胴鍋の両側の取っ手をひとつずつ持ち、キッチンの外に運んでいく。

 田中もそれに続いてキッチンを出ていこうとするが、入り口で後ろを振り返る。窓から差し込む光がシルバーの冷蔵庫に反射して輝いている。その光景の中にかつてここで鼻歌交じりに調理をしていた浩人の姿を重ね合わせ、そしてふうっとため息をついた。

 ――いったいどこへ行ってしまったのか……。

 教会の外に出ると、すでに炊き出しのテントの前に長蛇の列ができていた。ひとりで次々と皿にご飯とカレーをよそって配っていった。

「田中さん!」

 ひとりの男が列に並ばずにやってきて声をかけた。

「列に並んでくださいね」
「僕です。ビンです」

 田中はカレーをよそる手を止めて顔を上げた。目の前に立っていたのはベトナム人青年のビンだった。かつては彼もここで炊き出しを受けていたのだが、今はベトナム料理レストランのシェフとして働いていた。

「おや、ビン君。お久しぶりです。元気ですか?」
「おかげさまで。そんなことより今朝のニュースは観ましたか?」
「いえ、観ていませんが……」
「浩人君がニュースに出ていましたよ」
「え、ええッ! 彼がいったいなにをしたのですか?」
「安心してください。犯罪を犯したとかそういうことではありませんから」
「彼は今いったいどこに?」
「アメリカにいます」
「アメリカでなにをしているのですか?」
「そのニュースを見せたほうが早いですね。録画してあるんです」

 ビンは肩から提げたバッグから携帯電話を取り出し、空中に長方形のホログラムの画面を映し出す。アメリカのニュース番組。映し出されたのは驚愕の光景だった。有島警察署を上空から捉えたものだが、その建物が迷彩服を着た大勢の兵士に包囲されていたのである。

「なんですか、これは?」

「国連軍です。まだ昨日の出来事ですよ」

「いったいなにが……」

 ビンは口元に人差し指を当てて画面を指差す。その続きに田中はさらに驚愕した。浩人が白い壁を背にして大量のカメラのフラッシュを浴びていた。

「浩人君!」

 田中は流れる英語に集中する。ヒロト・リュウザキという名前が読み上げられる。彼は日本警察の犯行を暴き、アメリカに亡命してそれを伝えたヒーローなのだという。

 ――浩人君がヒーロー……?

 情報量があまりにも多すぎて頭が少し混乱していた。ただ、浩人が無事に生きていたことに心の底から安堵していた。

「あの、カレー……」

 田中は目の前で炊き出しを待っていた男に声をかけられてハッと我に返る。慌てて皿にご飯とカレーを盛り付け、ビンに言った。

「そのニュースはあとでゆっくり観させてもらいますよ」
「ええ、では、また後ほど」

 しばらくして行列が落ち着いてきたところで田中は空を見上げた。どこまでも透き通るような水色。テント内を吹き抜ける風にはもう春の匂いが感じられるようになっていた。
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