224 / 270
220話 - 交換条件
しおりを挟む
≪久しぶりクロムくん。元気してる?≫
やっと来た!
多分もう全然半年超えてますよ!?
ずっと話せるほど力溜まってなかったんですか!?
≪あらあら。焦ってるわねぇ。挨拶くらいして欲しいものですけれど?≫
あ、すみません。
お久しぶりですソフィア様。
元気してます……
いや、してないですかね。
ちょっと僕としては命の危機だったというか……
≪冗談よ、分かってるわ。君の気持ちは届いてますから≫
それなら!
答えを聞きたいんですけど……
≪とりあえず訪ねたいことは1つずつ声を出して話してもらっていいかしら?私に聞かない方がいいってことは分かってるでしょ?≫
あ、そうか。そうだった。
焦って基本的な事を忘れてしまっていた。
ソフィア様から重要な事を話さない方がいいんだった。
≪今回君が聞くことにはカルマ値は使った方がいいのね?≫
『大丈夫です。僕にとって重要なことしか聞きません』
えっと、まず……
『僕はこのままだと人の記憶を失ってしまいますか?』
≪ずっと魔物のままなら、って事?≫
『そうです』
≪生物ですもの……。記憶はいつか薄れていくものよ。それに人であることを失う、というよりは魔物の生態に取り込まれてしまう、という表現が正しいのではないかしら?≫
……やっぱり。
自分の中の常識が魔物のモノに移り変わっていくような……
そんな感じがしたもん。
『じゃあ逆に人の記憶を失くさないようには出来ないですか?』
≪出来るんじゃない?君が能力を駆使すれば。ただ、おすすめはしないわ≫
え、なんで?
それができれば解決なはず……
≪君に影響ないモノはそのまま答えるわよ?忘却には老いやストレス等、色々なモノが関係しているわ。完全に記憶を残したいの?君は昨日の夜ご飯、1年前の朝食、過去のありとあらゆる記憶を残すつもりかしら?≫
『でもそれしか方法がないなら人を失うよりはマシなはず……』
≪逆よ。君は出来るだけ人のままでありたいんでしょ?自然の理を変えてしまうことをお勧めは出来ないわ。ストレスも尋常なものではなくなる。それをまた精神耐性でごまかすつもり?そのうち精神耐性の能力を最大値から落とせなくなるわね。君はまた”不死”のような状況に陥る事になるわよ。人として壊れたいの?≫
あ、そうか……
僕は当たり前の人の生活を望んでいるはずなのに。
また当たり前から遠ざかろうとしてしまっていたってことか……
≪そう、だから君の願いを知っている私としては勧められない。最終的にクロムくんに任せますけどね?≫
『わかりました。止めてくれてありがとうございます……』
≪今の質問はかなりカルマ値が減ったわね。そこに突き進むと君の運命はかなり変わったものになっていたわよ≫
くっ……
いや、仕方ない。
これはもう聞かないと判断がつかなかったんだ。
『じゃあ、次です。スライムは家族のことを忘れてしまいますか?あ、いや、ちがうな。……なんて聞けばいいんだろう。僕の家族への在り方は変わってしまいますか?』
≪家族の事を大切に思う気持ちはきっと残るわ。スライムにも自分と同じ種族を守りたい気持ちはあるわよ。ただそれが、家族って形ではない。だから認識が変わるかどうか、に関しては私にも分からないの。私も君みたいな生物は初めて見るんだもの。でも、恐らく変わるとは思うわ……。ごめんね。確実な判断がつかないわ≫
そうか……
神様も神様じゃないんだもんな。
過去に前例がないことの判断はつかないよね……
ただ恐らく変わるはず、と。
ここは僕と同じ考えか……
≪えぇ、全知全能ではないですからね。わからないことは予測でしか答えられないわ。私はその世界を造っただけなんだもの≫
ってことは……
クラムも貝の時の本能で家族の認識をしている方が可能性としては高そうか。
スライムに家族意識はないんだもんな。
同族意識と家族意識は少し違うはずだ。
『そうね、そこに関しては君と同じ。コーラルシェルは家族意識が凄く高いの。ただ、クラムちゃんの場合は進化。特性は引き継いでいるわよ?クラムちゃんのことは心配しなくて大丈夫ね』
良かった~。
クラムが1番心配だったんだ。
凄い心の荷が降りたな……
≪君の頭の中は自分のことで焦っていても家族のことが9割ね。それが君なんだもの。いいと思うわ。で、他には?荷が降りたのはいいけど、聞きたいこと忘れないでね?≫
じゃあ……
『スライムに恋愛は不可能ですか?』
≪身体上不可能。君が自己を進化させる程にそれを思い続けていれば為せば成るかもしれない。数十、数百年単位かしら。それも不確定要素ね。でもそういう事を聞いているんじゃないわよね?≫
『はい……。この体には、今、代わりになる仕組みは存在していないってことですね』
≪そうね。あくまで君の能力は魂の寄生なの。体を新しいものにすり替えてしまう能力なのよ。身体構造や本能に関わる部分は体に引っ張られてしまうわね≫
そうだよね。
僕は進化しているんじゃない。
新しい生物に生まれ変わってしまっているって考えに近いんだ……
≪ええ、進化しているのではなく記憶を残したまま何度も別人に転生をしているイメージの方が近いわよ。別の生物になってしまっているのですから≫
何度も転生……
うん、それの方がしっくりくる。
クラムみたいに体を変えた後に僕はパッと動けたりしないんだ。
また赤ちゃんから始めてる。
スライムの時はあまりに自在に動けるからそれが少なかった。
カニの時は苦労したんだよ……。
≪まぁこれは君も分かっているけれども、もし恋愛がしたいならせめて雌雄の区別がある魔物に寄生しなさいな。でないと話にならないわね≫
そうだよね……
そういう面ではカニの方がマシだったくらいだ。
ただ、雌雄がある生物に寄生しても、きっと恋愛観なんか人とは違うはずだ。
完全一致とはいかないんだろうな。
『わかりました……。体についての質問は以上です』
ここまでは自分の体のことだもん。
何となくわかってたよ。
確認がしたかっただけだ。
≪ここからが重要よね?お願いがあるんでしたっけ?≫
『そうです。ダンジョンの魔物に寄生するのは不可能ですか?』
≪無理よ。あれはあくまで疑似生命体。君にも話したでしょ?≫
やっぱりそうか……。
魂を受け付けてる感じがしなかったもんな。
『じゃあ、ダンジョンの魔物に僕の魂が介入できるように神様の力で変更することは可能でしょうか』
≪……ほう?それは、何の為に?≫
『馴染むのにかなり時間がかかるので姿を変えれば魔物に浸食されるペースを落とせます。時間を掛けて人化できる魔物探しをしたいです。だからダンジョンに籠りたいんです』
≪外でもよくない?≫
『……』
いや、僕が色んな魔物の姿に変わる所をエデンの皆に見せたくない……。
きっと怯えられてしまう。
ダンジョンの奥深くなら誰に見られることもないんだ。
見せるのは確定した1つだけでいい……
あと、もう1つ。
ダンジョンの魔物は外の魔物よりは強い。
僕が外の魔物に寄生するより行動はしやすいはずだ。
きっとまともに動けなくなってしまう。
≪そう。理由があるのね。ただ、それは根本的な解決になるのかしら?人化してどうするの?≫
『人化してどうするの……?人の姿を取れれば少しは人になった実感も……』
≪人化できても君は魔物でしょう?≫
え、いやそうだけど……
それは分かってるけどさ……
≪実感なんて出るわけないわ。人に化けられる”魔物”になるのよ?根本は魔物。例えばティアマトは魔物ではないけれど、人に化けて恋愛がしたくなる?ならないでしょう?ティアマトは人として生きてないわよ?例えば君が水龍になって人化を覚えても人の価値観や恋愛観からはそのうち遠ざかる。どの生物に寄生しても人と同じようにはならないわ。……まぁ今よりはマシでしょうけどね≫
本当だ……。
むしろ安心してしまって魔物で居ることの促進に繋がるかもしれない。
どの生物に寄生しても人と同じようにはできない……
じゃあ僕の考えって……
≪人以外に寄生しても人にはなれないわ。近くはなるでしょうけど≫
『じゃあ、せめて人からの変化が少ない魔物を教えてもらったり……』
≪ダメね。それは私が君の寄生先を選んでるようなものじゃない。さすがに答えられる範囲を超えているわ≫
ここでソフィア様に魔物の名前を教えてもらえたら……
そうだね。
僕は確実にその魔物を探して寄生する。
間接的に誘導していることになる、か……
≪でしょ?もし私が君の要望に応えられるとしても、その考えならダンジョンの魔物に寄生する案は却下する方がいいんじゃないかしら?≫
『……いや、それは仕方ないですね。それなら人と近い性質をもつ魔物を自分で探します。この体で居ることが限界なんです。僕はスライムに馴染みすぎました。このままだと人を失うことは見えてるんですよ……』
≪それを私が行ったとして、君はダンジョンから出られなくなるわよ?≫
『やっぱり……。あそこ魔力を通さないバリアみたいなものありますよね。魔法も溶けちゃうし。魔物も出られないようにしてるんですよね。人に被害を出さない為ですか?』
≪根本的には違うわよ?そもそも人の営みを考えて作っていないって言ったでしょ≫
え、違うの?
≪まぁ、これは君には関係ないわね。魔物が出られないのは人の営みを壊すからではないわ。ダンジョン外で疑似生命体は生きられないの。体から魔力が解放されてしまって数日も持たずに消滅するわ。あの空間でしか生きられない魂の無い物質なの。ダンジョン専用なのよ≫
そういうことか……。
この後ダンジョンから出られるようにも願おうと思ってたんだ。
もし何かトラブルがあった時にそのまま出られるように。
それは無理ってことか……
≪そう。精霊みたいに魔力の定着もしていないの。魂はないですし。肉体を持たずに魔力と魂を定着させるのは普通の生物より誕生に時間がかかるわよ。精霊なんて数百年魔力の塊のまま過ごすモノもいるんですから。それをしてないからあんなスピードで再構築できるのよ。寄せ集めなの。数分で生物が作られるわけがないでしょ?≫
ただの寄せ集め……
頭のすみっこの方で同じ魔力生物だから精霊みたいなものかって考えがあったんだ……
だから精霊の入れ物みたいな物かなって……
≪全く違うわ。君の分かる概念で言うと、ダンジョンをVR空間だとするとその中の魔物はVR空間で生きているAI。生物に似せて作っているだけなのよ。もし可能だと仮定してそれに君は本当に寄生するつもり?≫
……
≪私の感覚としては人形に魂を移していいですか?って質問されてるのよ?お勧めは……私の感情的にできないわね。これは私の意見。君は関係ない≫
『……スライムに寄生しなおせますよね?』
≪それは好きにすればいいわよ。元の生物には寄生できないなんてルールないわ≫
それはもう対策済みだ。
問題ない。
『じゃあ、大丈夫です。します』
≪……決意は固いのね。はぁ……。君はとんでもない事考えるわねぇ≫
『僕は家族とこのままで過ごしたいんですよ。それが全てです。僕が居なくなるとみんな悲しみます。悲しんでくれるんですよ。それがすごく嬉しいんです。その為に僕が一時的に疑似生命体になることくらい些細なことですね。時間稼ぎでも何でもいい。僕は僕の為に今の僕を微塵も失いたくないです』
≪その要望、確定するのね?≫
『大丈夫です。お願いします』
……
≪そ。私は君の生き方に反対はしないわ。いいんじゃない?その考え方嫌いじゃないわ≫
あれ!?
急に軽くなった!?
≪確定するまではどっちつかずに、あくまで一般論で話してただけですもの。君が決めたのなら別にいいわよ≫
あ、そういうことなのか……
シビアに話してくれてたのって僕の考えを引き出す為……
≪そういうこと。私は君の考えは分かっている。ただ、君から私が都合のいい所ばかりを引き出すことは出来ないのよ。私がレールを引いていることになってしまうでしょ?ある程度カルマ値を使ってアドバイスはするけれども、最終的に君の力で道を決めてもらわないとダメなの。君にちゃんと考えて欲しいのよ≫
そっか……
また迷惑かけちゃったか……。
でも、とりあえずここで第一関門突破だ。
≪じゃあビジネスの話をしましょうか。私にメリットは?≫
来た。
出来るなら交換条件の話はされると思ってたんだ。
だから、この話はやろうと思えば出来るんだ。
≪えぇ、ここまで分かってるなら言えるわね。出来るわよ。さすがに疑似生命体を生命体に変更しろと言われれば断った。無理ね。と言うより魔力循環システムとしての機能を果たせなくなるもの。疑似生命体のままで君の魂だけを入れるようにすればいいのね?外にも出られなくていいんでしょ?≫
うん。いい。
もしもの為を考えていただけだ。
最悪スライムに寄生しなおす。
『魔物のままで出るつもりがないので大丈夫です』
≪そう。簡単に言えばそれは君の魂のルールを改変すればできるわね。ダンジョンの疑似生命体を改変する必要はないわ。ちなみに今君は植物に寄生することも出来ないわよ?知ってた?≫
え!?そうなの!?
≪植物が動物に寄生することはあるけれど動物が植物に寄生出来るわけないでしょ。そのルールを君の魂に限って変更するの。いえ、追加する、かしらね≫
そうか……
動物が植物に寄生、共生が可能なわけがないか……
≪そもそも疑似生命体に寄生だなんてシステム組み込んでいないわよ。だからパパっと作るわ。まぁこれは出来るのだけれど……ただ、アイテムボックスのように君の魔力との交換条件で賄えるようなレベルではないわよ?新たなシステムを構築するんですもの。MP換算すると……構築費用、そこからの維持費用に毎月数百万は必要かしら?最初は億は必要かしらねぇ~≫
………
≪考えてないの?≫
……いや。
考える時間は充分にあった。
MPで賄えるなんて思ってないよ。
ダンジョンの魔物の変更のお願いをしようと思ってたんだから。
僕の魂側の変更だとは想像してなかったけどね。
体のことに気付いてから時間もあった。
僕は夜も眠れないし。
家族のことを考えると自分が自分でなくなりそうで恐怖に押しつぶされそうだったんだ。
だから必死に考えた。
現状を打破できる方法を。
ちょっと思ってたこととは違う結果だけど当てはまるはずだ。
≪で?無謀だと思うけれど、君は私にどんな交換条件を突きつけるのかしら?≫
『……働きます』
≪あっはははは!そこでその言葉のチョイスするの!?その一言最高に面白いわね!センスあるわ!もっと言いようがあったでしょうに≫
……。
≪じゃあ、君の言葉に合わせて答えてあげましょうか。志望動機は?ぷっ、ふふふ≫
『志望動機は僕の体を変える為だっつっとろーがッ!!』
≪あっははは!はぁ~無理!笑い死んじゃう!うっふふふふ……≫
やっと来た!
多分もう全然半年超えてますよ!?
ずっと話せるほど力溜まってなかったんですか!?
≪あらあら。焦ってるわねぇ。挨拶くらいして欲しいものですけれど?≫
あ、すみません。
お久しぶりですソフィア様。
元気してます……
いや、してないですかね。
ちょっと僕としては命の危機だったというか……
≪冗談よ、分かってるわ。君の気持ちは届いてますから≫
それなら!
答えを聞きたいんですけど……
≪とりあえず訪ねたいことは1つずつ声を出して話してもらっていいかしら?私に聞かない方がいいってことは分かってるでしょ?≫
あ、そうか。そうだった。
焦って基本的な事を忘れてしまっていた。
ソフィア様から重要な事を話さない方がいいんだった。
≪今回君が聞くことにはカルマ値は使った方がいいのね?≫
『大丈夫です。僕にとって重要なことしか聞きません』
えっと、まず……
『僕はこのままだと人の記憶を失ってしまいますか?』
≪ずっと魔物のままなら、って事?≫
『そうです』
≪生物ですもの……。記憶はいつか薄れていくものよ。それに人であることを失う、というよりは魔物の生態に取り込まれてしまう、という表現が正しいのではないかしら?≫
……やっぱり。
自分の中の常識が魔物のモノに移り変わっていくような……
そんな感じがしたもん。
『じゃあ逆に人の記憶を失くさないようには出来ないですか?』
≪出来るんじゃない?君が能力を駆使すれば。ただ、おすすめはしないわ≫
え、なんで?
それができれば解決なはず……
≪君に影響ないモノはそのまま答えるわよ?忘却には老いやストレス等、色々なモノが関係しているわ。完全に記憶を残したいの?君は昨日の夜ご飯、1年前の朝食、過去のありとあらゆる記憶を残すつもりかしら?≫
『でもそれしか方法がないなら人を失うよりはマシなはず……』
≪逆よ。君は出来るだけ人のままでありたいんでしょ?自然の理を変えてしまうことをお勧めは出来ないわ。ストレスも尋常なものではなくなる。それをまた精神耐性でごまかすつもり?そのうち精神耐性の能力を最大値から落とせなくなるわね。君はまた”不死”のような状況に陥る事になるわよ。人として壊れたいの?≫
あ、そうか……
僕は当たり前の人の生活を望んでいるはずなのに。
また当たり前から遠ざかろうとしてしまっていたってことか……
≪そう、だから君の願いを知っている私としては勧められない。最終的にクロムくんに任せますけどね?≫
『わかりました。止めてくれてありがとうございます……』
≪今の質問はかなりカルマ値が減ったわね。そこに突き進むと君の運命はかなり変わったものになっていたわよ≫
くっ……
いや、仕方ない。
これはもう聞かないと判断がつかなかったんだ。
『じゃあ、次です。スライムは家族のことを忘れてしまいますか?あ、いや、ちがうな。……なんて聞けばいいんだろう。僕の家族への在り方は変わってしまいますか?』
≪家族の事を大切に思う気持ちはきっと残るわ。スライムにも自分と同じ種族を守りたい気持ちはあるわよ。ただそれが、家族って形ではない。だから認識が変わるかどうか、に関しては私にも分からないの。私も君みたいな生物は初めて見るんだもの。でも、恐らく変わるとは思うわ……。ごめんね。確実な判断がつかないわ≫
そうか……
神様も神様じゃないんだもんな。
過去に前例がないことの判断はつかないよね……
ただ恐らく変わるはず、と。
ここは僕と同じ考えか……
≪えぇ、全知全能ではないですからね。わからないことは予測でしか答えられないわ。私はその世界を造っただけなんだもの≫
ってことは……
クラムも貝の時の本能で家族の認識をしている方が可能性としては高そうか。
スライムに家族意識はないんだもんな。
同族意識と家族意識は少し違うはずだ。
『そうね、そこに関しては君と同じ。コーラルシェルは家族意識が凄く高いの。ただ、クラムちゃんの場合は進化。特性は引き継いでいるわよ?クラムちゃんのことは心配しなくて大丈夫ね』
良かった~。
クラムが1番心配だったんだ。
凄い心の荷が降りたな……
≪君の頭の中は自分のことで焦っていても家族のことが9割ね。それが君なんだもの。いいと思うわ。で、他には?荷が降りたのはいいけど、聞きたいこと忘れないでね?≫
じゃあ……
『スライムに恋愛は不可能ですか?』
≪身体上不可能。君が自己を進化させる程にそれを思い続けていれば為せば成るかもしれない。数十、数百年単位かしら。それも不確定要素ね。でもそういう事を聞いているんじゃないわよね?≫
『はい……。この体には、今、代わりになる仕組みは存在していないってことですね』
≪そうね。あくまで君の能力は魂の寄生なの。体を新しいものにすり替えてしまう能力なのよ。身体構造や本能に関わる部分は体に引っ張られてしまうわね≫
そうだよね。
僕は進化しているんじゃない。
新しい生物に生まれ変わってしまっているって考えに近いんだ……
≪ええ、進化しているのではなく記憶を残したまま何度も別人に転生をしているイメージの方が近いわよ。別の生物になってしまっているのですから≫
何度も転生……
うん、それの方がしっくりくる。
クラムみたいに体を変えた後に僕はパッと動けたりしないんだ。
また赤ちゃんから始めてる。
スライムの時はあまりに自在に動けるからそれが少なかった。
カニの時は苦労したんだよ……。
≪まぁこれは君も分かっているけれども、もし恋愛がしたいならせめて雌雄の区別がある魔物に寄生しなさいな。でないと話にならないわね≫
そうだよね……
そういう面ではカニの方がマシだったくらいだ。
ただ、雌雄がある生物に寄生しても、きっと恋愛観なんか人とは違うはずだ。
完全一致とはいかないんだろうな。
『わかりました……。体についての質問は以上です』
ここまでは自分の体のことだもん。
何となくわかってたよ。
確認がしたかっただけだ。
≪ここからが重要よね?お願いがあるんでしたっけ?≫
『そうです。ダンジョンの魔物に寄生するのは不可能ですか?』
≪無理よ。あれはあくまで疑似生命体。君にも話したでしょ?≫
やっぱりそうか……。
魂を受け付けてる感じがしなかったもんな。
『じゃあ、ダンジョンの魔物に僕の魂が介入できるように神様の力で変更することは可能でしょうか』
≪……ほう?それは、何の為に?≫
『馴染むのにかなり時間がかかるので姿を変えれば魔物に浸食されるペースを落とせます。時間を掛けて人化できる魔物探しをしたいです。だからダンジョンに籠りたいんです』
≪外でもよくない?≫
『……』
いや、僕が色んな魔物の姿に変わる所をエデンの皆に見せたくない……。
きっと怯えられてしまう。
ダンジョンの奥深くなら誰に見られることもないんだ。
見せるのは確定した1つだけでいい……
あと、もう1つ。
ダンジョンの魔物は外の魔物よりは強い。
僕が外の魔物に寄生するより行動はしやすいはずだ。
きっとまともに動けなくなってしまう。
≪そう。理由があるのね。ただ、それは根本的な解決になるのかしら?人化してどうするの?≫
『人化してどうするの……?人の姿を取れれば少しは人になった実感も……』
≪人化できても君は魔物でしょう?≫
え、いやそうだけど……
それは分かってるけどさ……
≪実感なんて出るわけないわ。人に化けられる”魔物”になるのよ?根本は魔物。例えばティアマトは魔物ではないけれど、人に化けて恋愛がしたくなる?ならないでしょう?ティアマトは人として生きてないわよ?例えば君が水龍になって人化を覚えても人の価値観や恋愛観からはそのうち遠ざかる。どの生物に寄生しても人と同じようにはならないわ。……まぁ今よりはマシでしょうけどね≫
本当だ……。
むしろ安心してしまって魔物で居ることの促進に繋がるかもしれない。
どの生物に寄生しても人と同じようにはできない……
じゃあ僕の考えって……
≪人以外に寄生しても人にはなれないわ。近くはなるでしょうけど≫
『じゃあ、せめて人からの変化が少ない魔物を教えてもらったり……』
≪ダメね。それは私が君の寄生先を選んでるようなものじゃない。さすがに答えられる範囲を超えているわ≫
ここでソフィア様に魔物の名前を教えてもらえたら……
そうだね。
僕は確実にその魔物を探して寄生する。
間接的に誘導していることになる、か……
≪でしょ?もし私が君の要望に応えられるとしても、その考えならダンジョンの魔物に寄生する案は却下する方がいいんじゃないかしら?≫
『……いや、それは仕方ないですね。それなら人と近い性質をもつ魔物を自分で探します。この体で居ることが限界なんです。僕はスライムに馴染みすぎました。このままだと人を失うことは見えてるんですよ……』
≪それを私が行ったとして、君はダンジョンから出られなくなるわよ?≫
『やっぱり……。あそこ魔力を通さないバリアみたいなものありますよね。魔法も溶けちゃうし。魔物も出られないようにしてるんですよね。人に被害を出さない為ですか?』
≪根本的には違うわよ?そもそも人の営みを考えて作っていないって言ったでしょ≫
え、違うの?
≪まぁ、これは君には関係ないわね。魔物が出られないのは人の営みを壊すからではないわ。ダンジョン外で疑似生命体は生きられないの。体から魔力が解放されてしまって数日も持たずに消滅するわ。あの空間でしか生きられない魂の無い物質なの。ダンジョン専用なのよ≫
そういうことか……。
この後ダンジョンから出られるようにも願おうと思ってたんだ。
もし何かトラブルがあった時にそのまま出られるように。
それは無理ってことか……
≪そう。精霊みたいに魔力の定着もしていないの。魂はないですし。肉体を持たずに魔力と魂を定着させるのは普通の生物より誕生に時間がかかるわよ。精霊なんて数百年魔力の塊のまま過ごすモノもいるんですから。それをしてないからあんなスピードで再構築できるのよ。寄せ集めなの。数分で生物が作られるわけがないでしょ?≫
ただの寄せ集め……
頭のすみっこの方で同じ魔力生物だから精霊みたいなものかって考えがあったんだ……
だから精霊の入れ物みたいな物かなって……
≪全く違うわ。君の分かる概念で言うと、ダンジョンをVR空間だとするとその中の魔物はVR空間で生きているAI。生物に似せて作っているだけなのよ。もし可能だと仮定してそれに君は本当に寄生するつもり?≫
……
≪私の感覚としては人形に魂を移していいですか?って質問されてるのよ?お勧めは……私の感情的にできないわね。これは私の意見。君は関係ない≫
『……スライムに寄生しなおせますよね?』
≪それは好きにすればいいわよ。元の生物には寄生できないなんてルールないわ≫
それはもう対策済みだ。
問題ない。
『じゃあ、大丈夫です。します』
≪……決意は固いのね。はぁ……。君はとんでもない事考えるわねぇ≫
『僕は家族とこのままで過ごしたいんですよ。それが全てです。僕が居なくなるとみんな悲しみます。悲しんでくれるんですよ。それがすごく嬉しいんです。その為に僕が一時的に疑似生命体になることくらい些細なことですね。時間稼ぎでも何でもいい。僕は僕の為に今の僕を微塵も失いたくないです』
≪その要望、確定するのね?≫
『大丈夫です。お願いします』
……
≪そ。私は君の生き方に反対はしないわ。いいんじゃない?その考え方嫌いじゃないわ≫
あれ!?
急に軽くなった!?
≪確定するまではどっちつかずに、あくまで一般論で話してただけですもの。君が決めたのなら別にいいわよ≫
あ、そういうことなのか……
シビアに話してくれてたのって僕の考えを引き出す為……
≪そういうこと。私は君の考えは分かっている。ただ、君から私が都合のいい所ばかりを引き出すことは出来ないのよ。私がレールを引いていることになってしまうでしょ?ある程度カルマ値を使ってアドバイスはするけれども、最終的に君の力で道を決めてもらわないとダメなの。君にちゃんと考えて欲しいのよ≫
そっか……
また迷惑かけちゃったか……。
でも、とりあえずここで第一関門突破だ。
≪じゃあビジネスの話をしましょうか。私にメリットは?≫
来た。
出来るなら交換条件の話はされると思ってたんだ。
だから、この話はやろうと思えば出来るんだ。
≪えぇ、ここまで分かってるなら言えるわね。出来るわよ。さすがに疑似生命体を生命体に変更しろと言われれば断った。無理ね。と言うより魔力循環システムとしての機能を果たせなくなるもの。疑似生命体のままで君の魂だけを入れるようにすればいいのね?外にも出られなくていいんでしょ?≫
うん。いい。
もしもの為を考えていただけだ。
最悪スライムに寄生しなおす。
『魔物のままで出るつもりがないので大丈夫です』
≪そう。簡単に言えばそれは君の魂のルールを改変すればできるわね。ダンジョンの疑似生命体を改変する必要はないわ。ちなみに今君は植物に寄生することも出来ないわよ?知ってた?≫
え!?そうなの!?
≪植物が動物に寄生することはあるけれど動物が植物に寄生出来るわけないでしょ。そのルールを君の魂に限って変更するの。いえ、追加する、かしらね≫
そうか……
動物が植物に寄生、共生が可能なわけがないか……
≪そもそも疑似生命体に寄生だなんてシステム組み込んでいないわよ。だからパパっと作るわ。まぁこれは出来るのだけれど……ただ、アイテムボックスのように君の魔力との交換条件で賄えるようなレベルではないわよ?新たなシステムを構築するんですもの。MP換算すると……構築費用、そこからの維持費用に毎月数百万は必要かしら?最初は億は必要かしらねぇ~≫
………
≪考えてないの?≫
……いや。
考える時間は充分にあった。
MPで賄えるなんて思ってないよ。
ダンジョンの魔物の変更のお願いをしようと思ってたんだから。
僕の魂側の変更だとは想像してなかったけどね。
体のことに気付いてから時間もあった。
僕は夜も眠れないし。
家族のことを考えると自分が自分でなくなりそうで恐怖に押しつぶされそうだったんだ。
だから必死に考えた。
現状を打破できる方法を。
ちょっと思ってたこととは違う結果だけど当てはまるはずだ。
≪で?無謀だと思うけれど、君は私にどんな交換条件を突きつけるのかしら?≫
『……働きます』
≪あっはははは!そこでその言葉のチョイスするの!?その一言最高に面白いわね!センスあるわ!もっと言いようがあったでしょうに≫
……。
≪じゃあ、君の言葉に合わせて答えてあげましょうか。志望動機は?ぷっ、ふふふ≫
『志望動機は僕の体を変える為だっつっとろーがッ!!』
≪あっははは!はぁ~無理!笑い死んじゃう!うっふふふふ……≫
20
あなたにおすすめの小説
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学4巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜
Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか?
(長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)
地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。
小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。
辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。
「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる