異世界でダンジョンと過ごすことになりました

床間信生

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虎と馬

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「そっか、なるほどね。話は理解できたよ」
「じゃー、ご主人様になってくれるんですか?」

ルカが嬉しそうに、顔を上げて俺の方を向く。

「んー…、ただ。今のこの場所で生活しているのって、俺だけじゃないからね。やっぱり他のみんなにも確認をとるなり話し合わないといけないとは思う」
「そうですよね…」

彼女の顔が一気に暗くなる。
俺と二人だけで先ずは話し合いたいと言っていた彼女。

彼女の方でも恐らくは、俺が他人と相談するというのは分かっていたはずだ。
ただ話し合いというのは、人数が増えるとその分だけ意見がまとまりにくかったりすることもある。
なので先ずは確実に味方を一人と思っていたのだろう。

ただ、俺の方としても今の段階では自分的にこの世界の常識が足りないというのも理解しているし、それになによりも彼女に知られたくない内容というのもあるために、何を言われても決断することができない。

「ただ、事情は分かったし、せっかく助けたこともあるから、なるべくなら力になってあげたいかなとは思うよ」
「ほんとですか?」

俺のわずかながらに前向きな言葉に、彼女の顔が一気に明るくなった。
その明るさに、今が夜だというのを忘れそうになる。

「ああ、ほんと。だからね。とりあえずは今の体勢というか、今日はもう夜遅いので、そろそろ寝たいかなと思うんだけど…」
「あっ…そっか…ごめんなさい」

そういうと彼女はやっと俺から距離をとってくれた。

やー、どうにかこうにか話にメドがつけられたみたいで、とりあえずは良かったと思う。
もう夜遅いし、後は流石に寝るだけかな…
などと思っていると…

あれ?
右足が動かない?
じゃなくて…誰かが俺の右足を掴んでいるのか?

「ルカさん、どうしたの?」
「あっ…うん…そうだよね…」

寝たいと言ったら解放してくれた彼女。
俺の中では、もうおとなしく寝かせてくれると思っていたのだが…

それなのに何故足を掴んで邪魔をしようというのか、全くもって理解ができない。

「まだ話足りないことあるとか?それなら、聞いておくよ」
「いや…話足りないとかじゃなくて…実は今…タカヒロ様に話に来たのって…あっ…あの…」

どこか歯切れの悪い口調の彼女。
小刻みに震えながら喋るもんだから、歯からカチカチと音がしている。
それだけではない。
俺の右足を掴みながら、彼女の顔もみるみるうちに青ざめていく。

明らかに何かに恐怖を抱えている様子だ。
そう思った俺は、誰かが見ているのかと辺りを見渡して見たが、全くそれらしい雰囲気はない。

今俺たちがいる場所というのはガイアス様の結界の中だ。
夜周囲が暗くてよく分からないというのもあり、ハッキリとしたことは言えないが、それでも以前ガイアス様はこの結界の中であれば、何か異変があった場合は必ず自分が最初に気づくと言っていた。

「どうしました?何かいるんですか?とは言っても、ここって確かガイアス様が結界張っているって言ってたので安全だと思うんですけど…」
「そうですよね。ここ安全ですよね。はい。それは分かります。分かります。分かります…分かってはいるんです。はい。安全です。お陰で先ほど私も眠ることができました。なので大丈夫ですよね。私だけではなく他にも人がいて、美味しいご飯も食べさせてもらえました。あんなご飯は久しぶりでした。そして今、安心して眠っている人もいるんです。安心して寝れるんですよね?はい。寝れます。私も寝たいんです」

なんだろう…
彼女が話す言葉がおかしいと感じるのは俺だけなのだろうか…

彼女は今
声や体が震えているからおかしいと感じるのだろうか?
視線の先が俺ではなく、どこか遠くにあるように感じるからおかしいと感じるのだろうか?
確かに彼女のそういった行動というのもおかしいと感じる要因の一つだとは思う。
ただなんだか今の彼女には、それとは別のおかしいと感じるところがある気がする。

「ルカさん。疲れがとれてないんじゃないですか?そろそろ冗談抜きに本当に寝た方が良いと思います。とりあえず先ほど教会の方に用意した寝床はそのままですよね?」
「あっ…あのぅ…」
「ん?なんです?」
「タカヒロ様は本日、どちらで寝られるんですか?」

何かよく分からない事を聞かれている気がする…

「いや、どちらも何も俺の方は、さっきまで自分がいた小屋の方へ戻って寝ますけど…」
「ごめんなさい、タカヒロ様。私から離れないでください。ダメなんです、私。ついさっきまであんなことあって、頭の中ではもう大丈夫って分かってはいるんですけど…だめなんです。助けられたのは分かっているんですけど…ダメなんです。ゴブリン達が今も頭の中から離れないんです。教会でご飯を先に食べているように言われたとき、本当に嬉しかったです。美味しいお肉を口に入れて、幸せ感じながら安心できたんですけど…いつの間にか頭の中にゴブリン達が現れて、あの日のあの時の出来事が浮かんできて、怖くて目が覚めちゃったんです。今、タカヒロ様と話している間は、感じていませんが、もしもこのまま、また独りになってしまったらきっと私はあの時のあの出来事を夢に見てしまうんです。どうか私を独りにしないでください。今日私たちを助けてくれた貴方が私の側にいてくれないと私は安心することができないんです。私は貴方が側にいてくれるならなんでも行います。そう!例えば貴方が脱げというのであれば、喜んで脱ぎます。試しに今ここで命令してみてください。それとも日が明けてからみんなを集めてから脱いだ方が良いですか?どちらでもお好みな方で構いません。貴方が見守っていてくれるのであれば私はどのような命令に満面の笑顔で従える自信があります」

泣きながら体を震わせて必死に懇願してくる彼女の姿を見て、俺はこの世界の残酷さを改めて思い知った。
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