異世界でダンジョンと過ごすことになりました

床間信生

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マスクマン

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ベンケーの討伐報告を領の入り口で済ませた俺は、グスタフたちから懸賞金の方も貰うことができた。
金額は100万Nem。
確かフローラが普通の労働者が1日働いて8000Nemくらいと言っていた気がする。
なので、そこから考えると当面は余裕のある資金なのではないかと思う。

ただこれをメニュー使って魔力に変換した場合、1000にしかならない…

「はい。みなさん、あれが今晩お世話になる宿です」

1日歩きっぱなしだが、心にはなんとか余裕を取り戻すことができた俺達。
(と言うか…もしかすると俺だけか?)

フローラの案内に従い壁の内側に沿って歩いていると、一軒の建物が目に入ってきた。

「あ~。あれね」

日が落ちて僅かな明かりの中だけに、ハッキリとは分からない。
だが、明らかに街からは外れているはずなのに、それほどボロだったり古いなどの印象は受けない。
大きさも俺が拠点にいた頃の小屋よりも数倍は大きい感じがするので、確かに宿屋という感じがする。

★☆★☆

「ん?フローラか。ってことは、後ろのは客かい」

あまりにも愛想の無い、ともすると高圧的ともとれそうな声が聞こえた瞬間、俺は先ずイラっとした。
宿屋の扉を先頭のフローラが開けると、それを見て中の人間がフローラに話しかけてきたのだろう。
低い声質からして、声の主は男。
宿屋の店員だから別に男も女も関係ない、どっちだっていい。
そしてフローラとも知り合いなのだろう。
そんなことは別に問題ではない。

ただ、今、「客かい」とか言っていた。
と言うことは、フローラに話しかけたのは宿屋の従業員のはずだろう。

えっ…?
でもそんな接客ってあるか?
だって日本でのお店の従業員だと…
などと前の世界のお店のイメージを思いっきり引きずりながら、どんな店員がこんないい加減な接客をしているのかと思って中を除いてみたら、俺はその光景に思わず度肝を抜かれてしまった。

声がした方を向くとそこには犬のマスクを被った男がいたのだ。
そしてその完成度たるや凄まじいものがある。
前の世界にいたときに実写映画などで特殊メイクというのがあった気がしたが、そんなのは全く問題にならない。
どこからどう見ても本物の犬の顔がそこにはあるのだ。

「……なんだい。お客さん」
「……えっ……?」

一言文句を言ってやろうとフローラの前に出た俺。
だが目の前の男が犬のマスクを被って出迎えるという予想外のハプニングがあったことで、俺は思わず見とれてしまっていたらしい。

出てきたはいいが、ずっと自分の方を見ている俺に、どうやら男はどうしていいか分からず、さっきから何度も話かけているようだった。

「あっ…いや。すまない。それでなんだって?」

男が鼻で笑う。
一瞬、「あっ…」と思ったが…
このやり取りだけに限って言えば原因は俺の方だと思う。
とりあえず俺は聞かないふりをして普通に話を進める。

「だから!一人一泊1000Nem。食事は夕と翌朝でパンとスープのみだから、フローラ抜きで6人だと6000Nemだっつってんだろ」
「はぁ?」

思わず声が出てしまったが、これは別に気分を悪くしてという意味ではない。

確かに男の声はどこかイラつくような声だったが、それ以上に気になったのは価格の方だ。

先程の金銭感覚の話に戻るが確かフローラが、普通の男が1日働いてもらえるお金が8000Nemとか言っていた。
それで今日泊まろうとする宿が1泊で1000Nemというのは、あまりにも安すぎじゃないだろうか。

食事はパンとスープのみと言っていたので、それでコストを下げているということなのかもしれないが…

それにしたって安すぎだろ。

多分、二食無しでもその値段なら安いんじゃないだろうか。

入り口を見た感じは別にボロい建物という感じもしない。
ゴミやホコリも見えない、それなりというかむしろ非常に清潔感のある内装に見える。

多分だが毎朝、複数人で掃除しているんだと思う。
それに宿屋は営業形態が24時間になりがちだ。
そういったことを考えると、1人1泊1000Nemというのはあまりにも安すぎる。

などということを考えていると…

「すまない。こっちも生活があるんでな。いくらフローラの知り合いとはいえ、これ以上はやすくできないんだ…」

なんてことを目の前の犬マスク男が言ってきた。
それもフローラが扉を開けた瞬間に聞こえたような、一瞬で不機嫌になるような声ではない。
力なく弱々しい声でだ。

「あっ…、いや。そういうわけじゃないんだ。誤解させてしまったようですまない。とりあえず6000Nemで良いんだよな?じゃー、これ。数えてみてくれ」

てっきり高圧的に「文句があるなら帰りやがれ」位は言われるんだろうなと思っていた俺。
全く予期せぬ言葉が来たので、なんだか逆に自分の方が悪いことをしている気持ちになってしまった。
なるべく早くこの場を切り抜けたい俺は、他のメンバーに確認をとる前に先に会計を済ませる。

「ジャックさん、鍵もらっていきますね。ではみなさん、お部屋の方にご案内します」

その後、会計を済ませた俺たちはフローラに今日泊まる部屋に案内されることになるのだが、その際に途中で自分がぶつかった女の子が、猫のマスクを被ったような人物だというのに全く気づかなかった。
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