世界のためなら何度でも

第二章、抜け落ちた記憶

#124 理想郷:エデン

「ついたぞ。ここが天界だ。」

正義の持っていた魔道具で俺たちは一瞬にして天界へたどり着いた。

「ここが天界か～。」

見渡す限り美しい空。

綺麗に整った街。

さっきまで地獄にいたのが嘘みたいだ。

「聖夜たちは理想郷に行きたいんだろ。それならそこの飛行タクシーにこの金時計と俺のサインを見せれば乗せてってくれる。俺はそこの天界ギルドに竜のことを報告しに行くから。」

「あぁ、ありがとうな。」

「また困ったときはいつでも助けを呼んでくれ。いつでもいくぞ。」

俺は正義を見送った後、タクシーに乗り込む。

「お客さん、今日はどちらまで？」

「理想郷ってところに連れてって欲しいんだけど。」

「理想郷？あそこになんかようかい？」

「ちょっと女神に会いに行きたくてな。」

「よくみりゃあんたら現世のひとじゃないか。何か特別な身分証明できるものがないとあそこには行けないよ。」

「あぁ、この金時計とサイン見せれば通してくれるって言ってたんだけど。」

俺は運転手に金時計とメモ帳に書かれた正義のサインを渡す。

運転手はポケットから小さな懐中電灯のようなものを取り出し、金時計とメモ帳に光を当てる。

「こりゃ正義さんのものじゃないですか。いいでしょう、理想郷まで送りますよ。」

運転手は俺に時計とメモ帳を返し、エンジンをかけて飛行タクシーを運転し始めた。



「ほいよ、ここが理想郷前だよ。そこの門番にさっきの金時計とメモ帳渡せば通してくれるから。」

「ありがとう天使のおっさん。」

俺は運転手にお代を渡してタクシーを降りる。

そして門番に金時計とメモ帳をわたし、門を通った。

通った先には大きな神殿のような建物が建っていた。

俺は神殿の入り口の扉を開けて中に入る。

中に入ると看板があり、

『靴を脱いでそこにあるスリッパを履き、ちゃんと手を洗ってから二階の『ユイの部屋』に来てください。』

と書かれていた。

俺たちは靴を脱いでそばにあったトイレの洗面所で手をきちんと洗い、二階へと上がっていく。

二階にはたくさんの部屋があり、それぞれ部屋の名前が書いてある。

そして一番奥にある一番大きそうな扉の前にたどり着いた。

「ここか？」

「多分ここでしょう。『ユイの部屋』と書いてあります。」

「ユイ……？」

何か聞き覚えのある名前の気がする。

ただどう考えても思い出せない。

何か大事な人の名前だった気がするのに。

「どうしましたマスター？」

ルミナを抱えたゼロが俺の顔を覗き込む。

「いや、なんでもない。入るか。」

俺は扉を開けた。

そこには壁にもたれかかっているダークと優雅にコーヒーを飲んでいる女神の姿だった。

その時、俺の脳内で何かが解ける音がした。

それと同時にある一人の記憶が頭の中に流れ込んできた。

忘れては行けない大切な人のことが。

「なんで俺は忘れてたんだ……。」

自然と涙がこぼれ落ちた。

女神。

いや違う。

その女性はかつての幼馴染みであり、初恋の人であり、突・如・行・方・不・明・に・な・っ・た・人物、

早乙女結衣であった。