6つと1つの物語

ラムダム睡眠

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4話 With Your Friend

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 ある者は呪った。この世の不平等性を。
 ある者は嘆いた。己の愚かさを。
 ある者は祈った。幸せな時間を。
 ある者は恋した。自分を先導した人間を。
 ある者は夢見た。自分のいない世界を。
 ある者は憎んだ。他人を殺す邪悪さを。

 そして、
 ある者は続けた。
 ある者は待った。
 ある者は決意した。
 ある者は疑った。
 ある者は探した。
 ある者は抱いた。

 これは、恋した者と疑った者の物語である。

◆◆◆◆◆

「あはは、あははは!!弱い、弱いわ!!あなたたち全員、私に敵うと思って!!??」

 倒れた人の山。山の上で踊る私。今宵の私は月下美人、と言ったところかしら。
 立ち向かう人々はみんな山になるの。でも私は人の山よりお菓子の山、お菓子の山よりあの方一人の方がいいわ。だってそっちの方が嬉しいんですもの。
 人は殺したいけれど、あの方がどうしてもと言うから殺してあげない。でも殺してもいいの。だって、この戦いが終わったら私たちは結ばれるんですもの。そこに他の人なんているかしら?
 誰も祝ってはくれないの。構わないわ。あの方がいればそれで私はいいの。

 兵士たちは私を殺そうと躍起になっているのだけれど、嫌になっちゃう。お菓子の兵士も虫の兵士もみんなみんな私を殺そうとするの。
 でも私は殺さないわ。あの方がそれを願うもの。あの方が願うことをやってのけると言うのが、妻になる私の役目というもの。将来の夫のために夫の望みを叶えてあげたいじゃない。お菓子も虫もいない世界がいいのだけど。

 ああ、楽しい。楽しいわ!私に食べられるだけのお菓子の兵士、私に潰されるだけの虫の兵士!ああ、ああ!!まるで私たちの結婚パーティーの宴会料理のよう!!
 いいのよ、前夜祭でここまでしなくても。でもやりたいなら止めはしないわ。あなたたちも私たちの結婚を祝福するのね!そうなのね!!!
 ただ舞台が血生臭い王都というのは気に入らないわ。あちこちにお菓子も虫も湧いているし、これでは宴会にならないわ。
 だから私は徹底的にするわ。邪魔するお菓子はこの双槍で突き刺しちゃう。邪魔する虫はこの双槍で突き刺しちゃう。だって、邪魔者はいらないでしょう?ねえ、あなた?

「そこまでだ!カルディナ!!」

 私の名前はあの方以外呼んではいけないわそんな呼び方する人はたとえあの方が願おうとも私は殺さなくてはならない
 それはあの方だけに認められたものよ他の誰かが奪うってことはあの方に歯向かうということあの方に歯向かうということは私たちの結婚を邪魔すると言うこと
 させないさせないさせないさせないさせないさせない!!
 そんなこと、させないわ。

「あらあなた、もしかして前に私に出会ってたりするのかしら?」

 ハゲ男。こいつは虫の兵士ね。だったら手加減はいらないわ。お菓子の兵士だったら四肢切断で済ませようと思ったけど、虫なら死んでも構わないじゃない。私たちのお菓子を食べる虫はどんどん殺さないと。

「カルディナちゃん!!!」

「あら、私の友達かしら?お菓子いわね。シルマリルは西の方でパーティーの参加者の名簿をとっているはずよ?」

「何言ってるのカルディナちゃん………。私だよ、ルーシアだよ!」

 そう言われて気づいたわ。そういえば、そんな名前を聞いたことがあるわ。でもいつかしら。あの方に出会う前のことかしら。あの方に出会ってからは友達はシルマリル以外いないのに。シルマリル以外いらないのに。
 そうだわ。思い出したわ。この子、ルーシア・シークァンスって名前だったと思うわ。たしか、私が騎士だった頃に一緒だった子よ。私は興味なかったけど。
 ああ、なんで思い出せなかったのか考えたけど、あの子がいないのね?ルーシアとルナ。あの子が2人いないと区別できなかったわ。
 そうね、でもルナは私の部下だから、ここにはいないのは当たり前なのだけど。

「思い出したわ。あなたね。でも何の用かしら?私は見ての通り虫を片付けている最中なの。今日は前夜祭だから、また招待状出すわね?ああ、でもいらないわね。だって、私とあの方、シルマリルだけでいいものね」

「どう、したの?おかしいよ、カルディナちゃん………」

 ルーシア、顔が真っ青よ?虫ならしょうがないのかもしれないけど。

「お菓子くなんてないわ?それより何しにきたの?」

「お前を止めにきた、国際軍第一部隊副隊長、カルディナ・アカルディア!!」

「………あなたに訊いてないの。でもそういうことね」

 うざったいわ、このハゲ虫。もう少し静かにしてくれないかしら?私の踊りを邪魔しているのに気づいているのかしら?
 虫に苛立つことはないわね。そうね、あなた。あなたなら、虫を気にせず虫するものね?

「止めちゃダメよ。止めちゃダメ。私が踊っているでしょう?踊り子に踊りをやめろなんて、そんなの無粋でしょう?」

「踊り?こんなに多くの人を、敵味方関係なく殺しまくるこの惨劇を!お前は!踊りと言っているのか!!!??」

「うるさいわ。嫌になっちゃう。殺してないじゃない?あの方のお願いですもの、殺すわけがないわ。でも私はお菓子達に言ってあるのよ?踊りは邪魔しないでって。邪魔したお菓子は食べちゃわないとね?」

「邪魔、だって?味方を、邪魔だと言ったのか貴様!!?やはり解放軍は味方を捨てるような外道の集」

「それ以上は許さないわ」

 さすがの私も怒りましたよええええあの方が作ったものを否定するのは許さないわどんな虫だろうとお菓子だろうとたとえシルマリルだろうとあの方のものを否定するのはいけないことよ
 あの方を否定していいのはあの方だけ私はあの方のあり方を全肯定するのあの方が黒と言ったら黒白と言ったら白ですもの
 でもそう言う話をするとあの方は悲しいそぶりを見せるのだから私も悲しいのあの方の悲しみは私の悲しみだものね

 そうだから許さないわそんな考えを持つ虫を私は許さないわこんな虫は潰さないといけないわね

「踊りを始めましょうか。ハゲ虫だけは、潰しておくわね?」

 槍を虫に突き刺すけど、でも虫ったらとても面倒くさいでしょう?すぐに剣を取り出してその槍を受け止めるの。
 だから回転させて、反対側の槍で突き刺してみるわ。こざかしい虫はすぐに距離をとって私から離れるの。
 この虫はバッタね。ピョンピョン跳ねるんですもの。うざったいたらありゃしない。
 何度も何度も突き刺してみるわ。でも全部虫の顔を掠るだけで、全然当たる気配がないの。確かに私も手加減しているけど。虫に本気を出すなんてことはしたくないじゃない?
 でも、すばしっこいわねこの虫。今までのとは大違い。

「しつこいわしつこいわ!殺したいのに、すばしっこくて殺せないわ!」

「こちとら第二部隊隊長だぞ!!そう簡単にやられるか、よ!!それに、お前らが騎士から外れてずっと考えてきたんだ。何が悪かったかを!!」

「私には関係ないわ」

「もうこれ以上、あんな奴は出さないと!!」

「きゃう!?」

 剣と槍が交わる音はあまり好きではないの。虫は虫らしく大人しく死んで欲しいのに、そうならないの、私は嫌なの。

「ルーシア!!」

「行きます、隊長!!」

 いけない人ね。レイピアひとつ私に突き出すだけで剣と槍の拮抗を壊すだなんて。
 無粋な人は、好きじゃないわ。

「あなたも虫の味方なのね。がっかりだわ」

「私だって、国際軍第二部隊副隊長よ。すぐに隊長を死なれては困るから。私の恩師でもあり、あなたの恩師でもあるのよ?よくもまあそんなに簡単に殺せるわね」

「恩師?何が?」

「あなたの騎士時代、あなたを指導してくれたのはアルマットさんだったじゃない」

「そうだったかしら?ごめんなさいねえ。私、覚えないことにしているの。あの方以外の名前を。あの方以外の記憶を。あの方以外の全てを。だからあなたのことを思い出したのも、不快極まりないの。あの方が嫌だと言ったから殺してはないけど、このままだとあなた達を殺してしまいそうだわ」

「俺は構わない。その覚悟できたからなあ!!」

 やっぱりこの虫は嫌ね。私とルーシアとの話に首を突っ込んでくるもの。しかもルーシアと結託して1回1回ずつ攻撃を交代してくるなんて。ハゲ虫にしては小賢しいわね。
 でも、こんな攻撃くらいなら大丈夫よ。だって、ハゲ虫の攻撃は槍で弾けばいいし、ルーシアのレイピアの突きは避ければいいんですもの。これなら、踊りをしながらでも戦えるわね。
 でも楽しくないわ。前夜祭だもの、少しは楽しまないといけないわね。

「ごめんなさいね、ちょっと本気出すわ。あなた、この力を使うわね?でも許して頂戴?この虫どもがうざったらしいんですもの。あなたの願いを叶えさせるためには必要なことなの」

「はああ!!!」

 そうね、虫は殺したいけど、今はそうするべきじゃないわね。
 ああ、無粋ね。嫌いだわ。私はルーシアと話しているのに。虫だとしても、ルーシアと話していたいのに。さっきから首を突っ込んで、許さないわ。

 さあ、標本にされる準備はいいかしら?

 それは月への舞いよ。月に向かって告げる愛の形。太陽の光は眩しくて残酷ですもの。月の光ほど優しくはないわ。
 だかのよ?月の光は。狂気を生み出すのも、敵を殺すのも、お菓子を食べるのも。月への舞いは、それを告げる愛の唄。それを遣う恋の歌。

「ぐああああああああああああああ!!!!」

「隊長!!!???」

 ああ、楽しい楽しい楽しいわ!!!惨めな虫が楽しいわ!!!虫がいつまでも逃げ切れるとは思わないことね!!!私は虫を殺せるのよ!!!?蝿も、蜂も、虻も、蚊も、イライラする虫を殺せるのよ!!!?
 だから見逃してあげたのに。哀れな人ね。飛んで火に入る夏の虫というやつよ?でも今は夏じゃないわね。今は春だから、春の虫ね?

「うふふふふ、あはははははは!!!どう、どう!!?標本になった気分はどう!!?」

 もうあなたは虫じゃないわ。針に刺さった標本よ?その手足ももぎ取られ、無様に地面を這いつくばりなさい?標本になったことに気づかないでもがく虫のように。

「月の優しさは残酷なのよ?今宵のあなたは指の先のてんとう虫。もう羽は捥いであるから、生かすも殺すも私次第。ケーキの準備はいいかしら?入刀の準備はいいかしら?」

「今の、何?カルディナちゃん、今の何?もしかして、魔法?」

「そうよ?あの方との魔法愛の証よ?せっかくのお祝いだもの。キスは必要でしょう?」

 ああ、でもあの方は魔法を与えるのを怖がっていたわね。それもそうね。あの方の魔法は私だけに捧げられるもの。他の人に見せびらかすのはいけないでしょう?
 でもキス魔法くらいはいいわよね?前夜祭も当日も変わりないものね。
 キスの後は子供を作らないとね?名前は何がいいかしら。あなたの名前と私の名前をひとつづつ取りましょう。頭文字同士をとってきたら、SとKね。ならセカイ、なんて名前がいいわ。いいわね、この名前。私大好きよ。
 あなたと私が入刀するのはケーキセカイですものね!!

「………その魔法で、この山を作ったわけ?倒れた人の山を」

「ダメよ。潰した虫と食べたお菓子に私たちの魔法なんて使っちゃダメよ。参列者だけが魔法キスを見れるの。そうでしょう?」

「さっきから変だよカルディナちゃん……。言ってることがわからない。人を倒すのを踊りだとか、私たちのことを虫だとかお菓子だとか、魔法を愛の証だとか………。それに、アルマットさんのことを覚えていないって、私たちを騎士にしようとしていたじゃない?」

「そうなの?ごめんなさいね。私、騎士になる気はなかったのよ?」

「………え?」

 ああだめよ、ルーシア。あなたは虫だけど、特別な虫。そんなに顔を青くして絶望したらダメよ。あなたのために虫かごを作ってあげるわね。一生そこで暮らせるように、あの方とも話し合ってみるわ。
 餌台も私が負担するし、欲しいオスなら用意するわ。逃してあげてもいいの。だって、私には関係ないし、虫を鑑賞する趣味はないの。

「何で………。だって、わざわざ騎士試験を合格して……」

「きししけん?ああ、あれのことを言っているのね?あれ、合格って言うのね?てっきり私、資格だと思っていたわ」

「資格、て?」

「お父様もお母様もそう言っていたのよ?あれは悪い子を殺すためのものでしょう?だから私、いい子になる資格をとったのでしょう?でも不思議ね。あれ資格じゃなかったのよ?あれは何だったのでしょうね?」

 お父様とお母様は嘘つきね。あれが私に必要なものだなんて嘘を吐いて。あれはハンバーグに添えるパセリよ。あんなものを食べた私が馬鹿みたいだわ。

「でもね、おかげで私はあの方に出会えたのよ?途中でシルマリル と蟻たちに襲われもしたけど、蟻って不思議ね、指先一つで殺せちゃう。あの方の指は神聖なものだから、いけないの。だから強くなったのよ?あの方に何度も魔法を教えて欲しいって言って、あの方に愛を告げて。でもあの方は恥ずかしがり屋だから、愛より魔法を教えたの。でも十分だわ。あの方の魔法でしつこい虫を殺せるのだもの。誰よりも私が強いと思えるのだもの、いいわよねえ」

 あの肩を思い出したら、子宮が疼いちゃった。体が熱ってきちゃう。つい絶頂しようとしてしまったわ。弄っていないのに。口から出そうな涎を指ですくい上げ、口に入れたらもう止まらないの。もうディープキスしているみたい。
 ああ止まらないわ止まらないわ!あの方を思うだけでイきそうになっちゃう。だめよ、まだ前戯も始まっていないのだから。ダメよ、落ち着かないといけないわ。

「く、狂っている……」

「そうよ?狂っているのよ?私。だからあなたもハゲ虫の近くに行ったらダメよ?思わず指で潰しちゃいそうだもの」

「違う。カルディナちゃんのことじゃない。カルディナちゃんが愛している、魔法使いのことよ」

 聞き捨てならないわその言葉でも私は優しい私は月の光だから許してあげる黙って聞くのがいいのでしょう虫の羽音に耳を貸すほど月の光は優しいのですもの私もそうでなくちゃね
 ああでも許せないのは許せないわ殺しはしないし手足は残してあげるけど首は取ってしまおうかしらそっちの方が苦しまないわよね

 でもあなたは、言葉を続けるのよね。

「カルディナちゃんがおかしくなっているのに、何もしない。それどころか、魔法を教えて、ルナちゃんまで引き込んで。それで、戦争まで仕掛けるなんて、私は許せない。カルディナちゃんが愛している人でも、私は」

「そこまでよ」

 ああ、やっぱり私は優しくないのね。許せないもの。あの方の悪口は許せないわ。
 でもルーシア、あなた顔面真っ青よ。いい気味ね。

「あの方はあなた達より優しいわ。あなた達が殺した私達に祈りを捧げたの?私たちが殺したあなた達に祈りを捧げたのでしょう?なんで死んだ私達に祈らないのかしら?」

「……解放軍は犯罪者集団だよ。どんなに義賊ぶっても、結局世界を混乱に貶めたのだから」

「発言権は求めてないわ」

 ああ、ごめんなさいあなた。やっぱり許せないわ。でも、我慢してね?右腕一本で許してあげる。

「ッ!?ああああああああああああ!!!!!???」

 その悲鳴、可愛らしいわ。愛でるのは無理だけど、愛玩具にはできるかもしれないわね。
 あとで手足はくっつけましょう。糸で縫いましょう。何の糸がいいかしら。私たちと同じ赤い糸なんてどうかしら。私たちには糸がいらないほど繋がっているもの、幸せは分け与えないとね?
 ああ、でも赤い糸はシルマリルにあげたいわ。だったら、青の糸。青い鳥は幸せを運ぶものね。青い鳥からとって糸はさぞ幸せに満ちているのでしょう?
 虫に縫うのはいけないことだけど、ルーシアは違うもの。虫はさなぎから孵るでしょう?孵った後で、じっくり可愛がらないと。

「かわいそうね、あなた。祈りは誰に?誰に祈り?月に?太陽に?それとも神に?死んだ祖先達に?でも虫は虫を祈るのよね。お菓子は食べ尽くしちゃうもの」

「祈り、なんて……」

「ええ、私は言ったのよ?虫に祈る必要はないって。でもあの方ったら、それでも祈るのよ?それがあの方の願いなのよ。祈るってことは、ない方がいいものね?でも人間がいなくなるのはいけないことだわ。あの方は生きるのを望んでいるもの。だから、そうね、あなたも生かした方がいいのよねきっと」

 捥いだ右腕を地に捨ててしまいましょう。生きてないもの。いらないわ。あの方は生きているものに慈悲があったけど、生きてないものに慈悲があるとは言ってないもの。
 なんだかルーシアが苦しそうね。りんごジュースをお飲みなさい。あなたの肩から吹き出るジュースはきっと果汁100%なんだわ。
 でも、なんであなたはレイピアを持つのかしら。聞き手の左腕を捥いだ方が良かったのかしら。

「私は、国際軍第二部隊副隊長、ルーシア・シークァンス。この名にかけて、あなたを討ち取るわ、カルディナ・アカルディア。あなたのような狂った人間はいない方がいい」

「まあまあまあ!我がままなのねあなた!いいわ、たっぷり可愛がってあげるわ!魔力増強、強化魔法発動、継続限界突破フル・バースト!!ねえあなた、ダンスはお好き?」

 そう、踊る時はいつも笑顔でね。双槍は杖よ。華麗に大きく魅せないとね。ダンス相手にも気を使わないといけないわ。急なアドリブにも対応しなくちゃいけないのは難しいの。でもどんなレイピアが突かれても、華麗に避けれるの。
 たまに弾かないといけないけど、基本相手のレイピアは避けれるわ。あちらに悪意があっても、それを取り込んで綺麗に観客を沸かせるのが私だもの。
 相手が左腕だけというのも相当面白い展開ね。アンバランスの中にある芸術、それを魅せないとね。
 だけど、ちょっと邪魔ね。だから、蹴飛ばすわ。真上に。
 強化魔法をしているせいかしら、物凄い勢いで屋根に当たったわ。そして落ちてくる。赤い雨が落ちてくるわ。でも味わう時間が惜しい。ダンスを、魅せるの!あの方に!!
 今度は縦に回転して、蹴っちゃって、壁に打ち付けてしまったわ。あなたが悪いのよ?きちんとリハーサル通りにしないとね。
 杖はこうやって使うの。まっすぐと壁に杖が突き刺さったのだけど、相手がいないわ。しゃがんでいたのね。見失いそうになったわ。
 でも、遅いわ。遅いわ遅いわ。私とダンスするには、もう少し早くないと。

「な………っ!?刺さらない!?」

 あら、私にレイピアを突き刺す気?でも残念ね。全身強化しているから、生半可な攻撃じゃ、傷一つつけれないわ。だって、私の体に傷をつけていいのは、あの方だけですもの。

「くっ!!カルディナちゃん!!あなたは覚えているの!?アルマットさんに教えてもらったこと、覚えているの!?」

「ダメよ?ダンスは魅せるものだもの。そんな大声出したらいけないわ」

「ぐっ!!!?」

 ごめんなさいね、でもあなたがいけないのよ?ああでも、腕は残ったのね。指を何本か切り落としただけで、まだ腕はあるのね?
 でもあなたもすばしっこいわ。動けなくした方がいいわね。どうせ玩具にするんですもの、動かない従順なものがいいわ。

 じゃあね、足さん?

「きゃあああああああああ!!!!!!???」

 残念。取れなかったわ。でも太ももに双槍が突き刺さった痕があるのはいいことだわ。脆くなったのね。それに、動きも遅くなったのね。
 なら、足を取る必要もないわね。動けなくするなら、関節を狙えばいいものね。

 じゃあね、膝さん?

「させ、るかあああああああ!!!!!」

 ダメよ。羽が落ちた虫は生き返っちゃだめ。そんなにナイフを口で挟んでもダメ。それで私の足が傷つくと思っているの?
 蹴飛ばしちゃったわ。踏み潰せば良かったけど、もうあれは死ぬわね。文字通り、虫の息だもの。

「隊長!?」

「あとは、お前がやれ………ルーシア……」

 そのまま虫は動かなくなってしまったわ。虫って死ぬときにお腹を見せるものだけど、そもそもひっくり返らないものね。手足がないもの。残念だわ。
 でも、これで、ようやく。

「あはははははははは!!!!!ようやくお邪魔虫も消えたわね!!なら存分に踊り明かそうじゃない!!今宵はあの方との前夜祭!!!遥かな土地まで響かせましょう!!私たちの福音は空の彼方まで!!」

 あとはルーシア、あなただけよ。正直あなたを玩具にするのはあの方はお喜びにはならないと思うわ。私を愛してくださるもの。あなたのような女はいらないと思うわ。
 でも、あの方は忙しいから、慰めて欲しい時にあの方がいなかったら寂しいじゃない?もちろんまだ一回もしていないわよ?挙式してからじゃないと営みはできないものね?

 じゃあ、行くわね。私の魔法はあなたを貫くわよ。

「ぐああああああああああ!!!!!!」

 ああ、その悲鳴、その悲鳴よ!!魔法で治療できたらいいのだけど、両足とも貫いてしまったから、もう叫ばせるのはなしね。これ以上は壊れてしまうもの。壊したらもったいないわ。
 でも、虫達も弱いのね。全員私と踊りたいって言ってたのに、お菓子を独り占めしたいって言ってたのに。虫にあげるお菓子がないから、それでもいいのだけど。

 これで、ようやくね。
 挙式は3人だけでしましょう?あなたと、私と、シルマリル 。ああいう場所って、家族も呼ぶものかしら。でもあなたの家族はいないでしょう?シルマリルの家族は呼ぶのかしら?呼んでもいいわよね?だって、友人の結婚式ですもの。
 私の家族はいらないわ。兄弟姉妹もいなもの。でも両親って呼ぶのかしら。だったら無理ね。だってもう虫になってしまったもの。そもそも虫じゃなくても、虫していると思うわ。
 お菓子な話でしょう?だって潰してしまったもの。しつこくて、いじらしい虫は潰すに限るものね?
 ああ、玩具なら持って行っていいわよね?なら、ルーシアを持っていかなくちゃいけないわ。そうした方が楽しいわ。

「じゃあ、持って帰るわね。手足がないとあなたも不便でしょう?虫は動かないといけないものね。暴れられたら困るし、逃げて欲しくないから、足は足首から先を切り落としましょう!そうした方がいいわ!そうしたら歩けないものね?」

 さあ、レイピアを捨てて頂戴。虫は虫らしく虫かごに入れておかないといけないの。危ないものがあったらすぐに死ぬでしょう?虫って弱いものね。
 あとは隊長ね。あの隊長は私のことを何ともみてないからどうでもいいわ。あの方に惚れているそぶりもないわね。お菓子と一緒、ただ食べられるだけよね。

 踊りは終わりよ。福音を鳴らしましょう?教会の鐘は鳴らさないといけないわ。

 あら、ダメよ。

 それは、ダメよ。

 わ。

「はあ、はあ、はあ………油断したわね。魔法、解けてるわよ」

「…………ダメよ」

 それは、ダメよ。

「ダメよダメよダメよ!!!」

 ダメよ!!私の心は頑丈じゃないのよ!!とくとくジュースは私は飲み干せないわ!!心を貫いたらダメよ!貫くのはあの方だけだもの!!それ以外のに、貫かれたらいけないわ!!

「ダメよダメよダメよダメよダメよダメよダメよ!!!!」

 抜いたらダメよ!!貫かれるのは妥協しましょう。でも抜いたらダメよ!!?そのレイピアから手を離しなさい!!手を、離して!!!

「カルディナ、家族から虐待されて、騎士にされて、そして逃げ込んだ先で狂ったのね。でも安心して。あなたは悪くなかった。あなたを取り囲む環境が悪かったの」

「抜かないで抜かないで抜かないで!!私は、まだ!!」

 玩具は動いたらダメよ!!お菓子は食べられなきゃダメよ!!虫は潰れていないといけないのに!!!

「愛されていないのにいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!」

「………さよなら」

「ダメええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!????????」

 ああ、抜いてしまった!!!!ダメ!!!!私は、私は!!!!

「あいされたかったのにいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃ…………」

 私は、まだ。愛されていないのに。愛されたいのに。

 ああ、非情ね、あなた。ルーシア。

 ああ、残念ね、私。カルディナ。

 あの方は、ここにはいないのだもの。
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