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02・初等科1

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王子に手作り弁当なんて、普通の王族だったら考えられないかもしれないが、グロッシュラーでは普通な事だった。
グロッシュラーは軍事国家なので、王子や国王の妻でも料理を含んだ生活に必要なスキルが必要とされている。
どんな状況でも妻が夫を支えられるように。
マリン達は、当番制となっていて候補生が1人ずつ全員のお弁当を作って来ると決まっている。
今日はマロンの担当だったが、マロンやマリンが弁当を忘れて来るのは何度目かだ。
だからか、カンが良くて気の利くユラは用意をしてくれていたようだ。
「おいし~~!」
「ユラちゃんのお弁当、無駄にならなくて良かったぁ~!」
マロンとマリンは呑気な声を上げ、ウインナーをパクリ。
「アンタ達のお弁当は、無駄になっちゃったけどね。
まあ、本当に作ったら、だけど。」
王子の奥に座ったフロアが、目を座らせて突っ込んで来た。
双子に突っ込みを入れるのは、この中ではフロアだけだ。
「フロアちゃんの意地悪~~!」
「あ、じゃあ、明日持って来るよ~!
本当に作ったって証拠!」
頬を膨らませて抗議の声を上げるマロンとマリンだが、まったく威厳はない。
「明日って、賞味期限考えてよ…。
もういい、アンタ達と話してると、疲れるわ。」
「も~~~~。」
「ぶ~~~~。」
「牛と豚か。」
「ぶっほっ!」
フロアの突っ込みを聞き、メロウ王子は噴き出し、ごほごほとせき込んでしまう。
そこに慌てながらも向かいに座っていたユラがハンカチを王子に差し出していた。
「メロウ王子、すみません、大丈夫ですか?」
フロアはここぞとばかりに、王子の背中をさする。
その様子を、冷めた目で見ているのは、その向かいに座っていたシータ。
「う、うむ。」
ミシーユから水の入ったコップを受け取り、ゆっくりと飲み干し、ふぅと一息付く。
「アンタ達は、ホント騒がしいんだから。
初等科の最高学年になったんだから、もう少し落ち着きなさいよね…。」
王子の背中をまださすっているフロア。
「……。」
フロアの口調がキツイのはいつもの事だが、何となく気まずい空気が僅かに流れる。
「早いね~、後1年で卒業なんて。」
そこに、和やかでゆったりと言葉を掛けて来たのはミシーユ。
彼女は場を和ませるのが、抜群に上手い。
「本当に。」
ミシーユの隣でユラも笑顔で頷く。
その奥に座るシータは無言のまま、2人を見ている。
「卒業したら、わたし達、メロウ王子様と結婚するの~?」
「結婚したら、お城に住むのかなぁ?」
首を傾げるマリンとマロン。
「結婚は、まだまだ先だよ~。
高等科に進んだ後、正式な婚約者として選ばれてからだね。」
双子の発言に苛立つ事もなく、ニッコリと教えてくれるミシーユ。
ユラもその隣で微笑んでいる。
「おい、もう食い終わった!
マリン、マロン、いつもの所、行くぞ!」
ガタリ、とイスを鳴らし、メロウ王子は立ち上がる。
机の上には食い散らかした弁当箱が、蓋も閉めずにそのまま置いてある。
「あっ。」
「ま、まだ。」
マリンとマロンはまだ食べ終わっていない。
慌てながらも、王子の命令は絶対なので、急いで弁当の蓋を閉じて立ち上がる。
「ユラちゃん、後で頂くからっ。」
「ごめんねっ。」
王子に強引に手を引かれながら、マリンとマロンは教室から出た。
それをフロアは悔しそうに唇を噛み締めながら。
ミシーユとユラは苦笑しながら。
シータは冷たい瞳で、見送った。

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