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03・初等科2

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「おい、明け渡せ!」
バンッ
「ひっ、メ、メロウ殿下っ!」
校長室に突然押し入って来られ、そこで書類整理をしていた高齢男性の校長は驚き固まる。
が、いつもの事だ。
今日は来る時間が早かった為、まだ準備をしていなかったのだろう。
「昼が終わるまで、戻って来るなよ。」
メロウ王子はまだマリンとマロンの手を引いたまま、そのまま強引に応接セットのソファに座る。
「そ、そんなに長い時間、まだ婚約前の男女を密室で過ごさせる訳には…。」
汗を飛ばしながらも机の上の書類を慌てて片付けて、立ち上がり王子達の近くまで行く校長。
「何を邪推しているっ!
心配ならば、部屋の前で立っていろ!」
ドカリとテーブルに足を置く王子に、両隣に座っていたマリンとマロンはビクリと小さく飛び跳ねる。
毎度の事だが、分厚い革靴をテーブルに乗せられると、かなり大きな音が立つのが怖いのだ。
「え、2、2時間近く…です、か?」
「どうするかは、お前の好きにしろっ!
早く出て行け!」
ダンッ
「ひっ、分かりましたぁっ…!」
テーブルを靴で鳴らされ、校長は高齢とは思えない素早さで校長室から出て行った。
「………。」
シン・・と辺りは静まり返り、マリンとマロンは恐る恐るメロウ王子の顔を覗き込む。
王子は両足をテーブルに乗せ、腕組みをしてふんぞり返り、まだ機嫌が悪いのか、険しく眉を寄せている。
「メロウ王子…?」
恐る恐るマリンが王子の名を呼ぶと、王子の表情は更に険しくなったが、唇を小さな子供のように尖らせ、幼い表情となった。
「誰もいない時は、そう呼ぶなと言ってるだろっ!」
声を荒げるが、その声も幼い。
「……。」
マリンとマロンは顔を見わせ、小さく頷き合った後、王子に向き直り。
「メロくん、ゴメンね。」
「今日もお勉強頑張って、偉かったね。」
ヨシヨシ
マリンとマロンは両側から王子を包み込むようにそっと抱き、頭を撫でる。
「……、おう…、頑張ってやったぞ…。
お前らも、夫がバカじゃ、イヤだろうっ…。」
頬を染めまんざらでもない顔をしながらも、まだ口調は偉そうだ。
マリンとマロンは何も気にせず、ニコニコと口を開く。
「メロくん、エライエライ。」
「メロくん、かしこい!」
「おう。」
「メロくんは、お顔もステキ。」
「メロくんは、スタイルも良い!」
「もっと。」
「メロくんは、魔法もスゴイ!」
「メロくん、将来は王様だね!」
「もっと。」
「え~…っと、メロンくんは~。」
「メロンくんはぁ。」
「おい、今メロンと言ったか?」
ギロリ
「え?」
「メロン食べたいですか?」
きょとん・・
マリンとマロンは失言してしまった事にすら気付いていない。
「はぁ…、もう良い。
お前らがバカなのは、よ~~~く知っている…。」
疲れたため息を付きながらも、マリンとマロンの腕から抜け出そうとはしないメロウ王子。
「えへへ~、ゴメンなさ~い。」
「メロくんは、おりこうさん~。」
なでなで・よしよし
「……、お前らくらいバカだから…、こうやって……。
………、アイツらは疲れる…、お前らしか、気を許せない。」
独り言のように呟き、マロンにもたれ掛かる。
「…でも、ミシーユちゃんも、ユラちゃんも、と~~っても優しいですよ?」
「フロアちゃんやシータちゃんだって、メロくんの事、好いてますし~。」
「…フロアはともかく、シータは違うだろ…。」
「シータちゃんは、恥ずかしがり屋なだけですって~!」
「アイツだけは好かん!
オレより学力が高い事も、それを鼻に掛けるような高慢な態度もっ!」
ぎゅうううっ
マロンにタックルするかのようにガッシリと抱き着いて来る王子に、マリンとマロンは顔を見合わせ、お手上げと両手を広げる。
「シータちゃんは、エラそうになんてしてませんよ~。」
「メロくんは王子でいっぱい素質持ってるから、大きくなったらグ~~~ンって伸びますよ~!」
「ばあばが教えてくれたんですよ~。」
よしよし・・
「……お前らのばあばは、出来た女のようだな…。」
「はーーいっ!」
「…もしもオレが王になれずとも、妻は2人まで持てる。
だから、お前らも安心してると良い。」
「ん?」
「よく分からないけど、分かりましたぁ~。」
よしよし・なでなで
「………、ほら…、もっと将来の夫となるオレへの賛辞を並び立てるが良い…!」
ガッシリとマロンにしがみついたまま、放つ王子。
これもいつもの事だ。
マリンとマロンはメロウ王子の頭や背中を撫でながら、思いつく限りの誉め言葉を2時間の間、言わされ続けるのだった。

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