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10・替えのきく王子

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「王子達は、それぞれ自分の魔導部隊を持っています。
高等科をSクラスで卒業すれば、王子達の部隊への入隊は夢ではありません。
ですから、それぞれの王子の事を学んでおいて損はありません。
自分を売り込む方を決めておくと良いかもしれません。
王子達は皆、信念の持った者を好みますので。」
(信念―――。)
にっこり微笑んでいるグミーは、自分の夫である第3王子を推したいとは思わないのだろうか…?
そこは講師として、公平に語っていると言うのならば、立派な事だ。

バンッ
と、浸っている空気の中に場違いな音が立ち、皆がそちらに視線を向ける。
机に両手を強く叩きつけて立ち上がっていたのは、第5王子、メロウ・ロ・グロッシュラー。
「コイツらは、将来オレの部隊に配属されるに決まっているだろうっ。
兄上達…、他の王子の事を学ばせるのは、オレに対する嫌がらせかっ…?
いくらお前がクレイン兄上の妃だとしても、不敬であろうがっ!」
烈火のごとく怒鳴り声を上げているメロウ王子の剣幕に、クラス内の女子達は震え上がり、男子達は目を反らす。
このクラスの者達は第5王子がどんな王子が分かっている。
口先ばかりで大した魔力もなく頭脳も平凡、それなのにワガママで癇癪持ちと言う最悪な王子であると言う事を。
「メロウ王子、部隊を持てるのは、王家の成人儀式で一定の魔力と魔法、頭脳を示す必要があります。
その儀式で認定されない王子は廃嫡となりますが、メロウ王子はそれに通ると思ってらっしゃるのですか?」
「!!!」
王家の成人式は高等科卒業後すぐに行われる。
未来予知では、断罪後の王子の行方は分からない。
マリンとマロンを断罪したくせに、廃嫡となっていたとしたら、マリンとマロンも笑えない。
「グミーッ、貴様っ…!!」
あまりの怒りでメロウ王子は握った拳に炎をまとわせ怒りで震わせている。
グミーはその怒りを受け流し、ニッコリ微笑んだまま。
「グロッシュラーに無能な王子は不要です。
現在、王子は第9王子までいて、替えはいくらでもいるのですよ…?」
「なっ…!!」
「それに、講師を呼び捨てにするとは感心しません、王子の内申点は下げさせて頂きます。
王子はSクラスで卒業出来なければ、それだけで廃嫡決定です。
ここで講師に噛みつくのはバカのする事ですよ?」
「ぐっ、うっ…!」
この言葉には、さすがのメロウ王子も参ったのか、言葉を飲み込み拳の炎を消す。
「今まで初等科では特別クラスで好き勝手やって来たようですが、高等科ではきちんと学んで頂きます。
それで成果を得られないような能無しであれば、王族には不要です。
私の言葉1つで貴方はどうとでもなってしまう事、お忘れなきようお願い致します。」
「くっ…!」
屈辱と怒りにぶるぶる震えながらも、メロウ王子は席に着いた。
「皆さんも、忘れないで下さいね。
高等科では年に2回、実力テストがあり、その結果で次年度のクラスが決まります。
来年度のクラスが本来のあなた方の実力となります事、肝に銘じておくように。
では、授業を終わります。」
ペン先を黒板に向け、くるくる回すと、黒板に書かれた文字が消えた。
グミーは小さくお辞儀をして教室を出て行く。
「・・・・。」
教室内の空気は重くなり、休み時間を告げる鐘の音がなるまで、皆項垂れていた。
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