狂喜と愛の巣

夢咲桜

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1章 社交場での出逢い

馬車の中で

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空の色が濃くなり、星が瞬き始めた頃、王宮へ向かう1台の馬車があった。そこに乗っているのは、夫婦と思わしき穏やかな表情をした1組の男女とその2人によく似た年頃の少女だった。少女は頬を赤く染めて、ソワソワと落ち着かなげに馬車の外を眺めている。
「アイリス、今そんなに緊張していたら王宮へ入った時に身が持たないよ?」
「まぁ貴方、今日はこの子の社交界デビューの日ですもの。仕方ありませんわ。」
アイリスと呼ぶ少女を愛おしげに見つめる2人の瞳はどこまでも優しい。
「お父様、王宮ってどんな所ですか?」
期待に目を輝かせたアイリスが無邪気に問う。
「とても豪華で素敵な所だよ。うちなんて比べ物にならないくらいにね。」
父の言葉を聞き、益々期待が膨らんでいくアイリス。
「今日は16歳の男女が一斉に集まるのでしょう?素敵な出会いがあると良いのですけれど。」
「ハハッ、その心配は要らないよアイリス。素敵な出会いなんてそこら中にあるだろうさ。」
「そうね、アイリスはきっと今日集まった誰よりも綺麗よ。殿方が振り向かずには要られない程にね。」
アイリスの言葉に、両親は心配などすることはないと笑い飛ばした。
それもその筈、アイリスの容姿は確かに世の男性が放ってはおかないものだ。社交界の花と呼ばれた母親譲りの紫がかったつやめく銀髪に、深海のように深い青玉の瞳をした彼女はまるで陶器人形ビスクドールのようで、デビュタントに相応しい純白のドレスに身を包んだ姿はとても可憐だ。
「我が娘はどこかの妖精かと見紛う程の美しさだよ。」
「もう、お父様ったら···。····そういえば、国王様はどのような御方なのですか?」
「あぁ、公の場には滅多な事では現れない方だそうで私も噂を聞いただけだが、とても美しい方でいらっしゃるそうだよ。先の皇后様によく似ているらしい。しかも、あの方はとても聡明だそうなんだ。先代の才能を受け継いだのかもな。」
アイリスの暮らす国、クラッシュハイドは周囲の国と比べて比較的豊かな土地柄だ。海の近くにあるというのもあり、昔から漁業や交易が盛んだった。先代の国王、つまり現国王の父親である方は才覚に富んでいて、即位してからどんどん国を豊かにしていったという。
「先代と皇后陛下が御崩御なさったと聞いた時は心配でしたが、どうやら杞憂だったようですね。」
賢王と名高い先代国王が皇后と共に不慮の事故で亡くなり、その当時王太子だった現国王が若くして即位することになった。国王は、現在23歳。その年齢のせいで色々と苦労があるらしい。自分とそう変わりない年齢で、この国を支えていかなくてはいけない彼は一体、どれ程の重りを肩に担いでいるのだろうか。まだ親の庇護下にあるアイリスには到底理解出来るものではない。
アイリスの父親のユヴェール·コンフィリオ子爵は、クラッシュハイドでも辺境の小さな領地を治めるしがない下級貴族だ。決して裕福とは言えない暮らしではあるが、それでもアイリスは惜しみ無く愛情を注いでくれる両親を、領民の事を第一に考える領民想いの両親を心から尊敬している。そんな両親への恩返しの為に、このパーティーでは良縁を見つける必要がある。アイリスの大切なものを共に守ってくれる人が必要なのだ。
(国王陛下はたかだか子爵令嬢にすぎない私の事など目にも留めないでしょうし、私には関係ないお話ね····。)
アイリスはそう思っていた。あの時までは·····。
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