騎士になりたかった少年と宝物と言われた少女

塚本慧

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仮病

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「ごめんなさいね、ビオエラ」
 ビオエラがいるから今の私がいる。
 ヴィオラのことを一番に考え行動してくれるビオエラはヴィオラにとって大切な人だ。
 ビオエラがニコリと笑った。
「私は大丈夫ですよ。何が起こってもどんな時もヴィオラ様には私がついています」

 歓迎パーティーの当日、ヴィオラは体調不良ということで学園も休んだ。今まで熱があっても出席していたのに、ヴィオラとしては歯噛みしたいほど悔しい。
 皆勤賞は就職するときにかなり有利になる。今まで一回も休んだことがなかったのに、と口惜しくてむくれてしまう。
「今日はダンスの時間があったのよね」
 ダンスはバンゲイ国では踊れればいいぐらいのレベルしか習わなかった。
 だがバンパーに来て、授業でとても熱心なダリル先生から厳しくも暖かい指導を受けてダンスが楽しみになったのも本当だ。

「王女たるもの誰もが見ほれるほどの足さばき動き指の先まで神経をとがらせ、首の傾げ方すらも一枚の芸術品のように踊らなければなりません」
 休みの日に呼び出されてレッスンを受けさせてもらったりしている。同級生からは気の毒にという顔で見られるが、ヴィオラとしては特別扱いみたいで嬉しい。
 ダンスは奥が深い。
 上手な方たちはアレンジすら綺麗で華やかだ。そんなレベルにはならなくとも、恥ずかしくないくらいには踊りたいとダリル先生から学んでいる。

「……のに、ドレスは一枚も持っていない。とはダリル先生には言えないわね。これからはドレスを着るようなパーティーにでる予定もありませんとか」
 何人もいるダンスの先生、マナーの先生。その中でもダリル先生だけはダンスもマナーも最高に素晴らしいと評判だ。その代わりとても厳しい。王女であるヴィオラを自分の手によって誰よりも淑女に育て上げようという意欲すら感じられる。
 その厳しさがヴィオラには嬉しい。誰にでも平等に厳しく、自分自身にも厳しい先生だから。信頼できるし、こんな人になりたいと見て接して、いつもそう思う。
「ダリル先生の講義だけは受けたかった。残念だわ」

 コンコンと扉をたたく音がする。
 ビオエラが応対のために出ていき、扉の外から切羽詰まったように何かを話す声が漏れ聞こえてきた。

 もう王太子歓迎パーティーは始まって1時間は過ぎているはずだ。
 王族の挨拶が終わり、ファーストダンスが終わったころだろうか。
 まだまだ歓迎パーティは始まったばかりのはずだ。
 一応のためにベットの中にヴィオラは潜り込んでいる。

 今回は仮病で誤魔化してはいるが、万が一見られてしまい、体調が悪く欠席していた王女は実は元気いっぱいだったなどバンゲイ国の醜聞にしかならない。
 これからパーティがあるたびに熱があるとか具合が悪いとか言い訳をしながら、全てのパーティに参加しないために言い続けるのもいつかは無理が来るだろう。
 近々、仮病以外に欠席する理由を新しく作る必要がある。

「う~ん」
 色々と考えてみたが、力のある人に協力してもらうしかないような気もする。
「そうね。アリストロ殿下は隣国スードリーの王子様だから、あの方に頼むしかないわね。
……将来的にはスードリーで平民になって侍女とか官僚とか無理かしら。
だからといってバンパー国は大きいし侍女とか役人にはしてくれるかもしれないけれど、お姉さまが王妃様でいるとか、同じ王宮で働いていたら何かが起きそうで怖いし」
 リコリス王女が王妃である可能性が高いバンパーやバンゲイ王妃のおひざ元バンゲイではなくスードリーで役人,官僚になりたい。もし役人になれなかったら、身分を隠した形で侍女とかで雇ってくださいってお願いしよう。
「そう言えば。アリストロ殿下って妹君が2人いらっしゃったはず。それにアリストロ様だってお妃さまを迎えたら侍女とか必要になるかも。ともかく行動あるのみよね。じっとしてても何もならないし。ビオエラを連れていくことは了承してもらわなくっちゃ」
 ぶつぶつ呟きながらヴィオラは悩む。

 同じクラスのスードリーのアリストロ殿下。バンパーの皇太子アークライトやバンゲイの兄クロフト王太子に比べるとぐっと鋭さは少なく、甘さすら感じさせる人。非常に頭はいいので、甘さを感じさせるのは雰囲気だけだろうとヴィオラは思っている。
 せっかく同じクラスにいるのだから、今度は王宮侍女として雇ってくださいってお願いしなくちゃ。

 断られてもしつこく食いついて行こう!と枕を抱き込んだ。
 ビオエラが毎日干してくれるからヴィオラの枕はふかふか太陽の匂いだ。ヴィオラは強すぎる香水の匂いが苦手だからビオエラは清潔を心がけてくれている。

「ヴィオラ様、ちょっとよろしいですか。お客様です。‥‥‥仮病は使えません。ワンピースにお着替えになってく ださい」
 後半小さな声で囁くようにビオエラがヴィオラの部屋へ顔をのぞかせる。
 しょうがなくヴィオラは顔をうずめた枕から顔を出した。

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