[完結]ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました

真那月 凜

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21.マリクの笑顔

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マリクが来て3か月が過ぎた
少しずつ慣れてきたのか出されたものをそのまま食べられるようになっていた
口数も徐々に増えてきている
『でもまだ笑った顔を見たことはないのよね』とナターシャさんはたびたび呟いている

「お姉ちゃん」
マリクは私の事をそう呼ぶようになっていた
因みにレイのことはお兄ちゃんと呼んでいる
『おじちゃんでいい』とカルムさんが言いなおさせようと頑張っていたけど無理だったようだ

「どうしたのマリク」
「ミックスジュース飲みたい」
「はーい。ちょっと待ってね」
私が作るのをマリクはじっと見ている

「はいどうぞ」
グラスに入れて渡す

「ありがと」
マリクは受け取って自分の椅子に座って飲み始めた

「残ったのは冷やしとこうね」
「冷やす?」
「昨日レイが買ってきてくれた魔道具よ」
私は残ったミックスジュースをピッチャーに入れるとレイが買ってきてくれた小さめの冷蔵庫のような魔道具にしまう

「この中に入れておけば冷たいまま置いておけるの。こっちはお水ね」
もう一つのピッチャーを指して言う

「こっちの棚にグラスを入れておくから、マリクが飲みたいと思った時に好きなだけ飲んでいいわよ。グラスに入れるときはこの台を使ってね」
マリクの高さに合わせて用意した小さな作業台に触れて言う

「いつでも?」
「そう。いつでも。でもグラスに入れたときに無くなっちゃったら教えてくれる?」
「どうして?」
「無くなっちゃったら次飲みたいときに飲めないでしょう?その時は次のを用意したいからね」
「わかった。なくなったら言う」
飲めないという言葉に素直に頷いた

「ただいまー」
買物に行っていたナターシャさんが帰ってきた

「おかえりママ」
マリクは椅子から飛び降りてナターシャさんの方に走っていく

「マリクただいま」
ナターシャさんの服を掴んだままキッチンに戻ってくる

「ナターシャさんありがとー」
「これくらい気にしないで。私も体は動かしたいから」
ナターシャさんにとって買物は運動の一環らしい
少し前まで1日おきに依頼を受けていたことを考えると納得するものがある
ちなみにナターシャさんが町まで行く手段は自分の足で基本走っているそうだ
私には絶対無理だと思うけど…

「野菜と…ついでに見つけたから狩ってきた」
そう言ってバッグから取り出したのは5匹分のフォレストドッグの肉だ
しかもちゃんと捌いた後のものである
普通に通っているだけなら1匹も会わずに終わることの方が多い
なのに5匹を仕留めたということは…
まぁ、そういう事よねと、考えるのを放棄した

「さすが」
そう言いながらインベントリにしまっていく
少し硬めのこの肉はシチューにするととてもおいしく頂ける
「せっかくだから今日はクリームシチューにしましょうか?」
「いいわね。春とはいえまだ肌寒いから体も暖まりそう」
ナターシャさんが二つ返事で賛成してくれたので今日のメインメニューは決定した

「あら、ミックスジュース?」
マリクが飲んでいるのを見て尋ねる

「ママも飲む?」
「ええ。欲しいわね。のどかわいちゃったから」
「じゃぁ淹れる」
ナターシャさんが答えるとマリクは棚に向かいグラスを取り出した
そして魔道具の冷蔵庫からミックスジュースの入ったピッチャーを取り出す

「あら?」
ナターシャさんが驚きながら私を見た
その目は『一体何が?』と言っているようだ

「昨日レイが買ってきてくれたの。冷蔵庫…冷たいまま保管できる魔道具よ」
説明している間にもマリクは準備を進めている
グラスに注ぎ、ピッチャーは冷蔵庫に戻す

「はい」
マリクはグラスをナターシャさんに差し出した

「ありがとうマリク」
笑顔で受け取り口に運ぶ

「冷たくておいしいわ。マリクが入れてくれたから余計かしら?」
ナターシャさんが言った時マリクが嬉しそうに笑った
愛らしい目を奪われるような笑顔だ
私とナターシャさんは思わず顔を見合わせた

「マリクあなた今初めて笑ってくれた?」
ナターシャさんは喜びのあまりマリクを抱きしめる

「ママ?」
何が起きているのかわからずマリクが戸惑っているのが分かる

「マリクが笑顔を見せてくれて嬉しいんだって」
「ママ嬉しいの僕も嬉しい」
私が説明するとマリクは嬉しそうにそう言った

「ふふ…私も嬉しいわ」
一度笑顔を見せるようになったマリクはこれまでが嘘のように笑顔を見せる
その後はカルムさんとレイが戻ってくるまでナターシャさんがマリクから離れなかった

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