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「志帆!」
「睦美おはよ~」
駅前で待ち合わせていた睦美に笑顔で返す

「何か不思議だよね」
「え?」
睦美の言葉に首をかしげる
「何が不思議?」
背後から声がした

「芳也君・・・脅かさないでよ」
振り向くと芳也と琉稀が立っていた
「まぁまぁ、で、何が不思議って?」
「うん。この4人で旅行行くこと?半年前には考えられなかったもん」
睦美の言葉に4人顔を見合わせる

「確かに俺と芳也は別で出会ってるからなぁ」
琉稀が言う
「そうだね。でも私こういう偶然好きだな~」
「お前らしいよ。それより時間」
琉稀は志帆の荷物を持って動き出す

「え?琉稀私の荷物・・・」
「お前はこれもってろ」
「え?」
琉稀に渡されたのは小さなペーパーバッグだった
「何?」
「後であけろよ」
「う・・・うん」
今一状況が飲み込めないまま歩き出す

「睦美も行くぞ」
芳也も睦美の荷物を持って歩き出した
「あ、アリガト」
「どういたしまして?」
「もう・・・またそうやってからかう・・・」
「いいじゃん。ほら行くぞ」
芳也に促されて睦美も歩き出した

電車に乗り込むと4人は2人づつ向かい合って座った
しばらくしゃべっていたものの琉稀は眠ってしまった
「あれ、寝ちゃった?」
志帆は琉稀の顔を覗き込んで言う

「や~ん。琉稀さん寝顔までキレイ」
睦美がからかうように言いながらカメラを取り出した
シャッターを押そうとしたときターゲットである琉稀がファインダーから消えた

「「え?」」

志帆と睦美が同時に声を上げる
「くっ・・・」
芳也が一人笑い出す
琉稀は志帆の方に倒れてきたのだ
肩に程よい重みを感じて志帆が苦笑する

「寝不足なのかな?」
「だろうな」
「?」
「芳也君何か知ってるの?」
睦美が尋ねた

「志帆ちゃんさっき琉稀からもらったの開けてみ?」
「え?あ、うん」
志帆は睦美にさっきのペーパーバッグを取ってもらって開けてみる
「・・・」
「かわい~」
中から出てきたのはシンプルでそれでいて落ち着いた存在感のあるアクセサリーのセットだった

ピアス・ネックレスにブレスレット
セットとしての共通のデザインの中にそれぞれの個性がちゃんとある

「誕生日なんだろ?今日」
「え?」
「あ~そうだよね。志帆誕生日だ。おめでと~」
芳也と睦美に言われて初めて自分の誕生日を思い出す

「琉稀何にも言ってなかったのに・・・」
「そういう奴だろ」
「・・・うん」
志帆の目から涙がこぼれた

「・・・琉稀が大事にしたがる理由がよくわかるよ」
芳也が言う
「そんな志帆ちゃんにとっておきの裏話をプレゼントしよう」
「え~何なに?」
睦美が身を乗り出す

「それ、琉稀が自分でデザインから仕上げまでしたんだよ」
「嘘・・・?」
「本当。結局今朝方までかかったみたいだからもう少しそのまま寝させてやって」
笑いながら言う芳也に志帆は再びアクセサリーに見入っていた

「すごいなぁ。芳也君私もそういうの欲しい」
「俺には無理だって。センスねぇから」
苦笑しながら言う
二人が仲良くしゃべってるのを横目に志帆は琉稀のことを考えていた

琉稀に愁のことを打ち明けてからは愁の事を考えることはほとんどなくなった
ふと気づくと琉稀に支えられていた
琉稀の存在そのものが今では自分の心に安らぎを与えてくれる
ここ数日毎日会っていたにもかかわらずプレゼントの事など気づきもしなかった
そんな琉稀の優しさや大きさが今の志帆にとってなにより嬉しかった
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