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「そろそろ着くな」
アナウンスを聞いて芳也が言った

「琉稀」
志帆は琉稀の肩を軽くゆする
「ん・・・」
まだ眠そうな琉稀の目が志帆を捕らえる

「あ・・・悪い。重かっただろ?」
「大丈夫。もうすぐ着くよ?」
「マジで?俺そんなに寝てたのか・・・志帆退屈だっただろ?」
「そうでもないよ?芳也さんから面白い話聞けたし」
「面白い話?」
「そ。面白い話」
「?」
琉稀は芳也を見た

「俺はもう言わないぞ」
「何なんだよ~」
「眠ってた琉稀には秘密」
志帆は茶化すように言うと微笑んだ

「・・・まぁいいけどなぁ」
琉稀はこういうときしつこく食い下がる事はしない

「着いたみたいだぞ」
芳也が荷物を持って出口に向かう
3人もその後に続いた

駅から出ると旅館のバスが止まっていた
自分たちから名乗りバスに乗り込むとのどかな道を抜けて温泉街に入った

「すごい。湯気が・・・」
あたり一面が蒸気であふれている
「早く温泉つかりたいね」
「うん」
志帆と睦美は外を見てはしゃいでいた

そんな二人を見ながら琉稀と芳也は苦笑しながら話をする
「元気だよな」
「びっくりするくらいにな」
「でもま、ああやって笑ってるほうがいいな」
芳也は志帆を見て言った
「あぁ」
琉稀は深くうなづく

「最近やっと夜うなされなくなったみたいでさ」
「うなされてたのか?」
「泊まりに来たときとかにな。あいつ自身は気づいてないみたいだから言ってないけど」
「・・・」
「『愁目を開けて』ってすがる様な声で何度も言ってたんだ。多分事故の日の夢」
「・・・」
「それが出なくなったって事はあいつの中で少しずつ思い出になりつつあるって事だからほっとした」
「・・・そっか。相変わらず心の広い男だよお前は」
「?」
「おまえ自身はつらくねぇの?」
芳也は尋ねた

「愁が他人だったら許せないだろうな。でも俺自身愁の死を受け入れられてなかったから逆に救われた感じのがでかいかも。俺の弟みたいなヤツだったからさ」
「ふ~ん。そんなもんかね」
芳也はわかったようなわからないようなそんな顔をした

「俺としてはお前のほうが不思議だよ」
「俺?」
「お前ずっと女を見下してただろ」
「あ~・・・」
思い当たる節があるのか芳也の目が泳ぐ

「常にとっかえひっかえで本気になった事なんてなかったじゃねぇか。1週間以上続いたことないだろ?」
「確かになぁ・・・けど睦美は真っ直ぐなんだ」
「真っ直ぐ?」
「言葉の裏がないし気持ちをストレートにぶつけてくるんだ。おかげでしょっぱなからペース乱れまくり」
笑いながら言う芳也に琉稀も笑い出す

「だってよ、『怖くないのか?』って聞いたらなんて言ったと思う?」
「さぁ?」
「今までなら『そこが魅力』みたいな言葉が返ってきたのにさあいつ『怖いよ』ってきっぱり言いやがる」
「マジ?」
「あぁ。しかも『でも気になるの。どうしてかなぁ』・・・って俺が聞きてぇよって感じでさ」
芳也はそのときの事を思い出しながら笑い続けていた

「何笑ってんの?」
睦美が芳也の背後から抱きついて尋ねた
「何でもねぇよ」
「本当に~?」
「あぁ。それより何で普段に増して甘えてんだ?」
「だって嬉しいんだもん」
「嬉しい?」
「うん。芳也君と旅行できるのが嬉しい」
琉稀は睦美のその言葉に芳也の言った意味がわかった気がした

テレもせず真っ直ぐに喜びを伝える
一見簡単なようでなかなか出来ないことである
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