やがてまた愛と知る

愛早さくら

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第2章

2-9・彼と過ごす、日常⑨

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 それに小さく笑顔で返して、向かうのは掲示板の方。
 ここを利用する冒険者はどうも昼頃に来る人が多いみたいだから、朝の時間は人が少ない。
 テーブルセットにも誰もいないことが多いのだけれど……見渡して、そこにいた予想通りの人物に、俺は気付けば弾んだ声を上げていた。

「アーディさん!」

 実は建物に近づいた時からわかっていた。なにせアーディさんの魔力の気配はとても独特だし、強い・・んだ。
 近くにいて、気付かないでいることの方が難しいぐらい。
 俺の声に導かれるようにアーディさんに気付いたルーシーが瞬間、驚いたように目を見開いたのを少し不思議に思いながらも、きっとアーディさんの存在感の大きさに驚いたのだろうとそう思い直した。

「やぁ、ティーシャ。久しぶりだね」
「はい、お久しぶりです! 偶然ですね、こちらにいらっしゃるなんて」
「うん、近くまで来たからね。そう言えば君がここに滞在していると聞いていたなと思って、足を伸ばしてみたんだ」
「え、僕に会いにわざわざ?」
「わざわざってほどでもないよ。それより、彼が?」

 ぱたぱたと走り寄って挨拶を交わす。アーディさんは相変わらずとってもキレイに微笑んで、俺と柔らかな声で会話してくれた。
 続けて、俺についてきていた側にいるルーシーを示されて頷いた。

「ええ、ルーシーです。俺がいつも一緒にいる」
「噂は聞いているよ。初めまして」

 アーディさんに話しかけられてルーシーがなぜだか緊張している。
 ルーシーはあまり物怖じしないタイプだと思っていたから、少し意外だなと俺は思った。
 やっぱりS級冒険者ともなると、ルーシーの中でも別格なのだろう。

「は、はじめまし、て……まさかこのような所でお会いできるとは」

 もしかしてルーシーは実はアーディさんに憧れていたりしたんだろうか。
 不思議に思っている俺の目の前で、アーディさんの笑みが濃くなった。

「そんなに緊張しないで。今は・・君と同じ。ただの冒険者だよ」

 アーディさんの言葉に、ルーシーはぎこちなく頷いている。
 俺はやはり少し不思議に思いながら、でもそこでようやく、アーディさんが一人であることに気が付いた。

「あれ? 今日はソーマさん、一緒じゃないんですね」

 一緒にいることが多いのに。
 俺の言葉に、アーディさんは頷いた。

「ああ、まだ宿にいるよ。僕は一足早く様子を見に来たんだ」
「そうなんですね」

 特に大きな理由があってのことではないらしいと頷いた。

「とは言え、ここへは立ち寄っただけで……でも2、3日はいるつもりなんだ。良ければ一緒に依頼でも受ける? 僕達が一緒なら、少し難しいものでも大丈夫だと思うよ」
「え、でも……」

 続けて誘いかけられて戸惑う。ちらと隣にいるルーシーの様子を窺うと、ルーシーも俺と同じよう、戸惑っているようだった。

「とは言っても、受けれるのは1つか2つぐらいだし、あんまり深く考えなくていいよこういうのはタイミングもあるから、次にいつ会えるかわからないしね。いい機会だと思うといいよ」

 俺が遠慮していると思ったのだろう、後押しされて、どうしようと、こちらを見ていたルーシーと視線で会話した。
 ややあってルーシーが小さく頷く。
 どうやら受けることにしたみたいだ。
 俺も別にどうしても嫌ってわけじゃない。

「なら、お言葉に甘えます」
「うん、じゃ、さっそく依頼を選ぼうか」

 承諾を返したルーシーにアーディさんは頷いて立ち上がった。
 そうして連れ立って以来の貼っていある掲示板まで向かう。
 アーディさんが一緒にいる間中、どうしてかルーシーは緊張したままだった。
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