45 / 49
43・希望
しおりを挟む行為の後、ぐったりと臥せる俺を、いつもと違ってグローディはゆっくり休ませることなく、一瞬部屋を出たかと思うと赤ん坊を抱えて戻ってきて、力の入らない俺の腕に抱かせた。
ほにゃほにゃと泣いている。
お腹が空いているのだろうか。ならまた、指を与えればいいのか?
ゆると指先を赤ん坊の口元へと寄せた俺を、だけど何故かグローディが止めた。
「待ってください、レシア様」
そうして俺を抱え起こし、俺の腕ごと赤ん坊を支えて、赤ん坊の口を、裸のままの俺の胸元へと持っていく。
え?
「グローディ……?」
俺は男だから母乳などでないのだが。
「大丈夫ですよ、レシア様。指でもよいと言えばよいのですが、こちらの方が効率がいいようなのです」
グローディの言葉を裏付けるように赤ん坊は俺の吸い付きにくそうな乳首をはむとくわえ、ちゅくちゅくと懸命に吸い始めた。
「え、え、ぁ、ぁっ……」
胸から、先程指先を吸わせた時と同じ感覚がする。
自分の中から何かがさらさらと流れ出ていくようなそれだ。
くらりと眩暈がした。だが、先程と違って、頭痛がするということまではない。
赤ん坊は必死で、そのさまを見ていると、何とも言えない愛しさが込み上げてきた。
「んっ……」
慣れない何かを吸い出される感触に耐えながら、赤ん坊を見た。
かわいい。俺の子供。
いや、違う、レシアの子供だ。でも俺が産んだ。なら、この子は。
混乱する。
だって俺はレシアだ。実感が湧かなくてもなんでも、今は俺がレシア。記憶もある。でも俺はレシアにはなれない。
俺は俺でしかなく、レシアを求められても困るのだ。なら、この子は。
レシアを知らない、この子は。
他の子供達とは違う。
この子は、レシアとグローディの間に出来て、つまりレシアの腹に宿ったのだけれども、俺が産んだからレシアを知らないで育つのだ。
俺をレシアとして育つ。
そういう意味では年少のスピとミハリムの二人もまだ小さいので育つにつれ、元のレシアのことなど忘れていくだろう。直に俺に馴染む、というか、すでに馴染んでくれている。
他の子供達も、多少の違和感は覚えているようだが、そこまで拒否感など抱いていはいないようで……――シェスから聞くレシアの日常を思えば、まぁ、わからなくもない。
なんというか、とにかくレシアにはグローディがべったりで、子供達に構うというよりはグローディに構う時間の方が多かったのだそうだ。元々子供たちの世話は使用人が中心になって行っている。子供たちと触れ合うとはいっても、それほど濃く長時間構うこともなく、レシア自身そうやって育ってきたので、それが当たり前で、逆に俺になってからの方が、子供達とはよく触れ合っているとのこと。
子供達からすると、大好きな母親がより自分たちに構ってくれるようになった程度の認識だろうと教えてくれた。
あれでよく構っている方だとは、今までどれほど子供達と距離があったのか。レシアの記憶を探ると、そもそも貴族とはそういうものではあるようなのだが。
「? 母上はちゃんと、私たち全員を愛して下さっていますよ。今も以前も」
そう、微笑みながら言われても。どうりでリルセスなどは俺が頭を撫でたりすると、慣れてない風にはにかむわけである。
そんな俺だけを母としてこの子は育つのだ。
よく、わからなかった。
俺が今感じているのは何なのだろうか。安堵? それとも。罪悪感は変わらずにある。だが、それが少しだけ薄れているようにも思えた。
そう言えばこの子は。
グローディの方を仰ぎ見ると、彼はにこと柔らかく、慈しみを込めて微笑んでくれた。
いつも通り、その眼差しは俺のことが愛しいのだと言葉にせずとも伝えてくる。
「どうしました? レシア様」
「ああ、いや、この子……」
「この子がなんです? 元気で順調ですよ? ああ、もうお腹もくちくなったみたいですね。何か気になることでもありますか? 性別? それとも名前?」
俺の疑問を先回りしていくつか挙げてくれたので、もう一度、すでに俺の胸元から口を離してうつらうつらし始めている赤ん坊を見下ろした。
可愛いってことだけしかわからない。顔は……やっぱり、グローディにより似ている、だろうか。産毛のように生えている髪の色は、どうもグローディよりは薄そうだ。
目は俺と同じ濃い緑。
「うーん、両方、かな……」
性別も、名前も。特に名前は、もしや俺が決めなければならないのあろうか。全く何も思いつかない。
「性別は女の子です。私たちの子供は男の子の方が多いので、少し華やかになりますね」
なるほど、女の子なのか。華やかになると言うが、今いる6人の子供たちのうち2人は女の子だし、それでなくとも充分に華やかだと思う。
だって全員、顔がすこぶるいい。レシア自身の顔が少女めいているせいか、それとも皆まだ幼いからか、そこまで雄々しい子もいない。グローディも美形だし。
「名前は……実は母が考えてくれたものがあるのですが、レシア様さえお嫌でなければ、それでいかがでしょうか?」
ばっと、勢い良くグローディの方を振り仰いだ。
「え、ティアリィさん、が?」
正直な所、助かった、と思う。
どうすればいいのだろうかと今さっき途方に暮れたところだったので、候補があるのなら聞きたい。
「ええ、母が。エシュトゥリア。古い言葉で希望を意味します。この子があなたの希望になるようにと。母なりにレシア様の沈んだ様子を気にかけて下さっていたのでしょう」
名前とその意味とを聞いて、胸がいっぱいになった。ティアリィさんの気遣いが嬉しい。
涙ぐむ俺を、グローディがそっと包み込んでくれる。
「お嫌でなければこれで良いですか?」
確かめられて、頷いた。
なんだか俺は今、自分が少し、受け入れられたような気持ちになっていて、いや、そもそも初めから誰も俺を拒絶なんてしていなくて。罪悪感に打ちのめされていたのは、俺一人。
グローディから注がれる眼差しは最初から変わらずに優しくて。俺を求めてくれていて。
俺は少しだけレシアの気持ちが。俺に、馴染んだようにも思えたのだった。
34
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる