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1・幼少期〜学園入学まで
1-10・異界人の女性①
しおりを挟むあの塔へは、何かの事情でティアリィが王宮に泊まる度に彼の手を引いて連れて行った。
ティアリィも、あの場所は気に入ってくれていると思う。いつも他の何物も目に入らないとばかり見入っているから。隣にいる僕になんて構わずに。
それでもよかった。
一面の星空に浮かぶティアリィがキレイで。キラキラと瞬く瞳が可愛くて。それを間近で見られるだけで僕は。
とはいえ、ティアリィが王宮に泊まった回数など決して多くはない。せいぜいが片手の指に余るほど、両手の指の数ほどではなく。
もうじき僕とティアリィは帝立学園に入学する。そうしたらティアリィが王宮に来る頻度なんて、今よりもっとずっと低くなってしまうだろう。ともすれば魔術師塔に方にこそ、足しげく通ってくれるかもしれないが、そこに僕はいないのだ。
もっとも、学園内で彼から離れるつもりなど、僕は今から微塵もないのだが。
そんな風に、もうじき始まる学園生活に期待と不安で胸を膨らませていた、そんな時期。
彼女が保護されたのは、学園への入学を3ヶ月後に控えた頃のことだった。
「カナタ、アツコ?」
耳慣れない響きに首を傾げる。今朝方、王宮の裏手にある森の中ほどで、見回りの兵士が野獣に襲われている一人の女性を助けたのだが、その女性がどうやら異界人らしいという報告は僕にも早々に上がってきていた。
今のはその女性の名前らしい。
カナタ、アツコ、ねぇ?
23歳だという彼女は、ごくごく普通の女性であるのだとか。
保有する魔力も平民程度、黒に近いほど暗い緑色の髪に、やはり濃い茶色の瞳。顔の造作や体つきも本当にごくごく平均的で。やや平坦に思える顔つきから、異国人は想定するかもしれないが、見た目だけなら異界からの迷い人だとまでは思えない女性だと聞いている。
保護した時は、ひどく恐慌をきたしていたようなのに、たったの数時間で名前を聞き出せるまでの落ち着きは取り戻したのだろう。そう思えば順応性が少々高いだろうか。
「どういたしましょうか、殿下」
一連の報告を持ってきた侍従が、最後に問いかけてきて、僕は首を傾げる。
なぜ僕に訊くんだ?
「両陛下方はなんと?」
「殿下にお任せしたいとのことです」
「へぇ?」
僕と同じ報告を受けているはずの両親は、どうやら彼女のことをまだたった12歳の僕に丸投げすることにしたらしい。これも彼らなりの教育の一環だろうか。
まぁいい。妙に疲れた気分で首を一つ横に振る。
僕に任せるというのなら任されよう。ひとまずは本人に会う必要があるだろうか。名前が聞き出せる程度には、本人も落ち着いているようだが少しばかり気持ちの整理や自体の把握など、もう少し時間を置いた方がいいような気もした。
一日か、二日か。
この世界に転生者は千人に一人ぐらいの割合で存在したが、流石に転移者は少ないのだ。せいぜいが数年に一度発見される程度で。僕も実際に会うのは彼女が初めてとなる。
「彼女は今、何処に?」
「西棟にある貴賓室に留まって頂いております。世話係は彼女を保護した見回りの兵士にお願いしました」
「侍女や女官は付けなかったの?」
女性なら、同じ女性の方がいいのでは? それとも、その見回りの兵士は女性なのだろうか。
「いえ、人が多いと落ち着かないとのことで、最低限の関わりにとどめることになっているそうです。しかし全く一人きりにしてしまうわけにもいかず、彼女が現状で一番気を許しているように見えた見回りの兵士に、世話を頼むことになったのだとか」
「なるほど。そういう事情なら、仕方がないね。せめて彼女が不便を感じないように気を付けてあげて」
おそらく彼女は元の世界でも、人に傅かれることになれるような立場にいなかったのだろう。
ならばこそなおさら、すぐに会いに行くのはよくないだろうか。かといってあまり引き延ばしても。
「うーん、彼女の様子は、出来るだけ細かく報告を上げるようにしてくれるかな?」
何があってもなくても。
「それと……」
「あの、陛下が」
いくつかの指示をと開きかけた口を、躊躇いがちに遮って、侍従が控えめに声を上げた。
本来なら無礼にもなる態度だが、僕よりも優先されるべき陛下に関することのようだから、仕方なくそうしたのだろう。
「陛下が、どうかした?」
僕に任せると、言ったのではなかっただろうか。つい先ほど、侍従本人がそう言っていたのに。
「いえ、殿下に、ジルサ公爵家の公子様にご助力を願うのもよいのではないかとの提案も、共にするようにと」
お伝えするのが遅くなり申し訳ございません。
先程初めに、陛下の考えを伝えた時、一緒に伝えるべきだったと反省する様子を見せる侍従を、僕は一瞬ぽかんと口を開けて見てしまう。
ジルサ公爵家の公子、とは、つまりティアリィのことだ。異界人の女性について、ティアリィと二人で受け持てとでも?
はは。
小さく笑う。
なるほどこれは両親なりの、僕への入学祝か何かなのかもしれない。
異界人の女性に関することを僕に任せるなんて言う、ちょっとした無茶振りと同時に、ティアリィとより同じ時間が過ごしやすいような機会をくれるという話なのだろう。
僕のティアリィへの気持ちなんて、ティアリィ本人以外は、皆知っていることだから。
なんてことだろう。これはとんだご褒美だなぁ。
ティアリィに、助力。なら彼女に会うのも、ティアリィと一緒にした方がいいだろう。
今も落ち着いてはいるようだが、余計にある程度時間を置いた方がいいとも考え直す。さっき考えていたよりも少しだけ長めに。でも、遅すぎてもいけないから……――。
「わかった。なら、彼女に会うのは3日後にしよう。その時にはティアリィにも同席してもらうよう……そちらの手配は、このまま君に頼んでもいいのかな?」
とはいえ、明日はティアリィが王宮に上がってくる日だから、僕自身が会う予定もあるのだけれど。その時にも一言僕からも話はしておくとして。
「はい、お任せください」
請け負ってくれるという侍従にそのまま頼んだ。
この時の僕はまだ知らない。
件の女性カナタアツコが、ティアリィの持つ、もはやあやふやとなってしまった記憶の補間をしてくれる存在であることを。
何よりも僕たちにとって、生涯に渡る良き相談相手となることを。
知らないまま、その異界人に。ティアリィと共に、3日後に会うこととなったのである。
3
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