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1・幼少期〜学園入学まで
1-11・異界人の女性②
しおりを挟む彼の女性の元へ行く前にティアリィと合流した。2日前、ティアリィが王宮に上がってきた際、現状わかる範囲で彼女については伝えてあるので、ティアリィも心得たもの。正面扉の近くで待っていた僕に小さく頷く。
僕らが今からしようとしているのは、彼女に対する現状への詳細な説明と彼女も交えた今後の相談だ。彼女のような迷い人と呼ばれる転移者が、元の世界へと帰れた例は今の所、存在しない。帰れない以上、彼女はこの世界で生きていくしかないのだが、それら全てを彼女がすんなり呑み込んでくれればいいと僕もティアリィも思っている。同時に難しいだろうとも。
実際に彼女に会うと、それらはいい意味で裏切られることになるのだが、それはともかく。
彼女が保護されてから今日で3日。なら、ある程度は落ち着いているはずだった。報告でも、ひどく取り乱したりだとかいうことは、本当にはじめのはじめの時以来ないと聞いている。
この王宮に入って来られている時点で、おそらく人格に問題はない。他の結界も、どれかに引っかかっていないようであるし。
ティアリィは少し緊張しているようだった。
僕も同じで少し緊張している。何せ僕もティアリィも、迷い人に会うのは初めてなのだ。数年前に保護された迷い人は結局数日で王宮にいられなくなったようで、僕が会う機会は最後まで持てなかった。それはティアリィも同じこと。二人共が今より更に子供で、子供にそんな人物と会う機会があるはずもない。いくら幼いなりに僕たち二人共が、魔法、魔術に秀でていたとしても。
ちなみに今回ティアリィに助力を頼むきっかけとした名目は、彼自身がこの国でも有数の、転移や空間に関する魔法魔術に精通する者だったからだ。加えて結界に関しても、彼の右に出る者は早々おらず。その血筋も踏まえて、この国全体を覆う守護結界の張り直しを彼は数年前に成功させてさえいる。
この国全体とこの王都全体、そして王宮全体に重ね掛けされている守護結界は、張れる場所が決まっているのだ。この王宮の中心地の地下にある結界場と呼ばれるそこに入るには、まず、ある程度の濃い王族の血が必要となる。それに加えて結界場自体にも何処よりも精度の高い守護結界が張られていて、思想その他が精査された。
正直な話、今、この国でその結界場に入れるのは前皇帝である祖父と僕、そしてティアリィの三人だけだ。現皇帝である父も入れない。
本人が決して自覚しないティアリィの特殊性は、こういった部分でも発揮されている。
だからこそティアリィに助力を請うことは何も不自然なことではなかった。
実際は恐らく、僕へのご褒美でしかなかったとしても。
彼女に割り当てられた部屋は西棟の貴賓室。その中でも中心地にほど近い場所らしい。
余程、彼女の精神は安定しているのだろう。なら、会ったとしてもおそらく滅多なことなど起こらない。
「緊張してる?」
「当たり前ですよ」
僕から一歩だけ下がった位置、ほとんど隣と言ってもいい場所を歩くティアリィに、からかうように声をかけたのは、これからおそらくティアリィと、会う頻度がこれまでよりも上がるだろうことが嬉しかったから。それを誤魔化すためだった。
僕の問いに、むっとしたように返すティアリィの態度は、やはり気を許した者に対するそれだ。
さらと流れる、少し癖のある銀の髪の煌めきが、キレイ。なんでこんな何でもない様子でも、彼はこんなにも美しいのだろうと、僕は内心で陶然としながらも顔にはそれを出さず、程なくして件の貴賓室の前へと到着する。
扉前にいた護衛官が、僕達の姿を認めて深く礼の姿勢を取った。
「ああ、いいよ、楽にして。彼女は中に?」
時間はもうじき昼に差し掛かろうとしているぐらいの、午前の遅い時間。彼女はこの3日間、必要最低限以上に王宮内をうろつくなどということもしていないと聞いているから、中にいるだろうとは思いつつも確かめると、姿勢を戻した護衛官がこくりと頷いた。
「今ぐらいの時間だとおそらく、世話係に指名した兵士と歓談して居る頃だろうと」
「へぇ、その兵士とだいぶ打ち解けたのかな?」
いい傾向だ。呟く僕に、護衛官も同意する。
「おとなしく、落ち着いた女性です。私はこちらに控えておりますが、おそらくは何も問題は起こらないかと」
「そう聞いて安心したよ。さて、じゃあ行こうか、ティアリィ」
首肯して扉を開けるよう促しつつ、ティアリィの方を振り返った。
ティアリィも心得たとばかり、やはり少し緊張した面持ちで小さく首を縦に振る。
長い睫毛の影が、頬に。キレイだなと思いながら、扉へと向き直った。
果たして、件の女性と初めて見え。
僕達三人が互いに互いをしかと認めた次の瞬間。彼女が発した言葉は、僕の予想を大きく超えていたけれど。
「え?! ティアリィ・ジルサ?! ここってゲームの世界なの?!」
うん? 今なんて言った?
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