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しおりを挟む口を噤んでいながらも不満そうなままの母は、今、俺を見送りに来てくれていて、その場には父も、兄や姉たちもいた。
勿論他にも護衛や侍従、侍女、女官など、共にルティルへと向かってくれる者たちも数多くいる。ただし彼らのほとんどは、一定の期間が過ぎた後は帰国してしまうこととなっているのだが。
そのまま、あちらでもで仕え続けてくれる予定の者は、ほんの数人しか許されていなかった。
これもまた、母の懸念材料の一つなのだろう。
向かうのは馬車だ。
まずは国家間転移施設を使用し、ルティルの隣国となるシャルア公国へと転移する。
ルティルには国家間転移施設は設置されていないので、その先は馬を走らせるより他にない。
母が、やはり心配して、先に国家間転移施設を設置しようかと打診したそうなのだが、あくまでもまずは候補でしかなく、王妃になると確定していないのだからと断られたのだそうだ。
これもまた、母の懸念材料の一つとなってしまったのだが、俺としては、ならもし万が一王妃となったなら、その時に設置すればいいだろうと考えている。
そもそも、目的は断ることなのである。王妃とならなかったなら、帰ってくればいいだけ、なのだから。特に俺は転移魔術も苦手ではないので、俺一人ならすぐにも帰国できるだろうと思われた。
そして母は、こんな場だというのにまだ、考え直さないか、などと言ってくる。外交などを踏まえると、そんなわけにもいかないことぐらい、母にもわかっているだろうに。
母に返した、「負けた気がする」だとか、「強制力などない」というのも事実だった。俺がルティルへ向かうと決めた理由に含まれているそれらを返してもなお、不満そうなままの母に、俺は溜め息を禁じ得なかった。
と、流石に見兼ねたのだろう、父がそっと母に寄り添い声をかける。
「ティアリィ」
名を呼んで引き寄せる父の腕の中に大人しく収まった母は、どこか縋るように父を見て、けれど父の変わらない、いつも通りの笑顔に何を見たのか、諦めたように肩から力を抜いた。
やるせないと言わんばかりの萎れた様子は、どうにも心苦しくなるばかりなのだけれど、仕方がない。
「母さん」
声をかけた俺に、向き直った母は、やはり納得しきれていない様子ではあったけれど。ややあって、それでも口を開く。
「……気を付けて。何かあれば、すぐに帰ってくるんだぞ」
そう、念を押してくるのに、俺は苦笑して。
「わかってるって。じゃぁ、行ってくるから」
肩を竦め、馬車へと向かった。国家間転移施設を使用した転移は、馬車ごと可能なので、この先馬車から降りるのは、1番初めの中継地に到着した時となることだろう。
父や、兄、姉たちともそれぞれ別れを惜しみながら乗り込んだ馬車の窓越し、何処までもこちらを気にかける母の眼差しに、俺は仕方ないなと、力ない笑みで返す。
やがて静かに動き出した馬車の中で、母の心配症が移ったのか、俺の胸に渦巻いていたのは不安だった。
ああ、上手くやり過ごして、断れればいいけれど。
内心の呟きは声に出さないまま、俺はナウラティスを出てルティルへと向かう。
良く晴れた天気のいい、ある朝のことだった。
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