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0・プロローグ・すべての始まり
しおりを挟むその時、俺は全くわからなかった。
だってついさっきまで、家にいたはずなんだ。
うちの家は共働きだから、父さんも母さんも帰ってくるのは同じぐらいの時間で、どうしても俺は学校の後の児童クラブも終わった後、父さんと母さんが返ってくるまでの数時間、家で一人で過ごさなければならなかった。
二人とも職場が遠いから、どうしても少し遅くなるんだ。俺が小学校に入るまでは、母さんがちょっと早く帰ってきてたんだけど、小学校に入ってからはすっかり今のような時間になってしまった。
でも、俺ももう小学三年生。もうじき四年生になる。一年生の時からだから、こんなのとっくに慣れっこだ。
それは、父さんも母さんもいたらいたでいろいろ言ってきて煩いから、いないのは静かでいいと思うぐらい。
だから、今日も家で一人でいた。
だらだらとリビングのソファに寝っ転がって、テレビをつけながらも見ずに漫画を読んでいて、そして。
パチと、瞬き一つ。気が付くとそこは、俺の家のリビングではなかった。
俺が寝っ転がっていたのはソファではなく、よくわからない、これは……藁? のようなものの上、手に持っていたはずのマンガもない。
「え?」
ガバッと起き上がってきょろきょろと辺りを見回した。
外だ。
否、真っ暗でよくわからないんだけど、多分、外だと思う。見える範囲で壁のようなものは何処にもなかった。
それどころか、遠く、灯りのようなものが見えて、その傍らにある影は……なんだろう? 家?
「え?」
わけがわからない。
どれぐらいそうやって呆然としていたんだろう。俺は何が何だかわからないまま、とりあえずと灯りを目指すことにした。
素足に踏みしめた感触は多分、土で、靴など当然なく、家に着いた時に靴下も脱いでしまっていて。
足が、痛くなりそうだな、なんて、どうでも良さそうなことを思った。
思いながら、でも、どうしてか、灯りを目指して歩き続ける。
段々と近づくと、灯りの近くに見えた影は、やはり家か何かだったようだとわかる。
見たことがないつくりの家、少なくとも日本ではまず見ない、ヨーロッパかどこかならありそうなその家のような物のすぐ近くまで来た時だった。
バタン、何の前触れもなく扉が開く。
びくっと俺は体を震わせた。
え、何、いったい。
そこからいったい何が出てくるのか、いや、家なんだから人だろう、そうに違いない。思っている間にぬぼっと現れたのは、予想に違わず人間の男性のようで。
「ああ? 誰だ、お前」
日本人には見えなかった。
というか、灯りがあるはいえ、それほど明るいわけじゃないからはっきりとはわからないけど、髪の色が、緑っぽく見える。とても濃い色で、黒っぽいけど。
緑の髪?
顔立ちは外国人っぽい。でも、今話した言葉は多分日本語だ。だって、何を言ったのかわかったから。俺、日本語しかわからないし。
俺んちの父さんより、年上に見えるおじさん。
そのおじさんは、まじまじと俺を見て、次いでめんどくさそうに顔をしかめた。
「なんだ、迷い人か」
迷い人? それはいったい。
そんな思考は、おじさんの舌打ちに遮られる。
「ったく、しゃーねーなー、一晩なら置いてやるよ、家に入れ」
だが、おじさんは親切な人だったのか何なのか、たった今出てきたばかりの家の中へと俺を招いた。
俺はわけがわからないまま、素直にそれに従う。
……――これが、俺がこの異世界へと、どうしてか、迷い込んでしまった時の話。
おじさんは普通の人で、特別親切というわけではなかったけれど、悪い人ではなく、
「目の前でガキに死なれちゃ目覚めが悪いだろうが」
なんて、最低限の道徳心に則って、俺を一晩だけ泊めてくれ、でも翌日には、孤児院へと俺を連れて行った。
だって俺は迷い人で、つまり、異世界人。当然、この世界に両親はおらず、つまり孤児になる。
その後の苦労は割愛するけど、とにかく俺はそれから、この世界で生きていくことになったんだ。
それは、俺が、たった9歳の時のことだった。
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