異世界から来た黒騎士は、大国の皇帝に望まれる

2・子供と青年

　次の瞬間、青年と目が合った。
　やたらキレイな青年だと俺は一瞬見惚れた。だって多分、こんなにキレイな人間初めて見たんだ。
　さっき子供を見た時も、泣き顔までキレイな子供だなとは思ったけれど、この青年の方が上だ。多分、この子供以上に魔力が多いんだと思う。
　この世界にいると、どうも魔力に惹かれる傾向があるらしく、顔の造作はもとより、似た顔をしていても、魔力が多い方がより美しく見えるみたいだったから。
　青年は俺を認めて、見る見るうちに目を見開いた。

「トゥール！」

　また、さっきと同じ名を呼んでこちらに突進してくる。
　え？
　それは予想以上の速さで、戦闘には慣れているはずの俺が一瞬、対応できず戸惑った。その一瞬で、青年はひったくるようにして俺の腕の中にいた子供を奪っていった。
　え？
　戸惑う俺に構わず、青年がぎゅっと子供を抱きしめる。

「トゥール！ よかった、無事で……心配したんだよ？」

　青年の声は少し震えていて、よほど心配していたのだろうと察した。
　泣くばかりの子供もまた、驚いていたようなのだけれど、青年のことを認識すると、とたん震える腕を伸ばして、しがみつき始める。

「にぃたまぁ……！」

　うぇーんと泣き声が物凄く大きくなった。
　おっと。小さな子供の泣き声というのはすさまじい。が、ここは魔の森だ。
　さっき確認した時には近くに魔獣の気配はなかったのだが、こんな大声なんて出したら、遠くにいる彼らまで呼び寄せてしまう。
　ぎゅっと眉根を寄せて、警戒を強めながらどうしたものかと思案し始めた俺の様子を、察したわけでもないのだろうに青年はキョロと辺りを見回して、次の瞬間には、その場の空気が何か変わっていることに俺は気付いた。
　結界、か。
　青年が改めて俺を見る。
　澄んだ紫の瞳。
　まるで宝石みたいだ。
　美形って言えばいいのか、非常にキレイな青年だった。
　女性的な所などはなく、しっかりと男性で、だけど美しい。身長は多分俺と同じぐらい。いや、俺より少しだけ高いかもしれない。結構、長身だ。
　でも体つきはどちらかというと細身に見える。少なくとも、筋肉がたくさんついている、だなんてタイプでは間違ってもないようだった。
　そんな青年が、形のいい唇を開いた。

「突然すまない。君がこの子を助けてくれたと思っていいのかな？」

　ちらと、青年の視線が、近くにあった魔獣の死骸に向けられる。
　確かに、それを倒したのは俺で、助けた、と解釈して問題ないのだと思う。俺は曖昧に頷いた。

「通りかかったら泣き声が聞こえたんだ。流石に様子ぐらい見に来るだろ」

　心持ち通りすがりを、強調してみる。
　別に何かを疑われている、という雰囲気も感じなかったけれど、念の為、だ。
　なにせ、このキレイな青年の服装は、どう見ても庶民のそれとはかけ離れていたのだから。
　貴族。
　そんな存在に、おかしな言いがかりでもつけられてはたまらない。
　俺がそう思ったのは、これまでの経験上、立場だとか身分だとかがある人間は、印象の悪い者が多かったからだった。