5 / 62
4・見知らぬ場所
しおりを挟む目を開けると、そこは俺がこれまで全く見たこともないような場所だった。
そもそも、瞬きを俺は今、しただろうか。いや、それは流石にしたとは思うけれど。
「ここは……」
呆然と呟く俺の腕を、掴んだままだった青年が、ひどく近い場所でにっこりと笑っている。
「僕の家だよ」
「は?!」
「なんてね」
「は?!」
ははは。
驚く俺がそれほどまでにおかしかったのか、青年はおかしそうに笑っている。そうしてようやく手を放してくれた。
よいしょと子供を抱え直して。
からかわれた。
の、だろう、多分。と、言うかどういうことだ、それで結局ここは何処なのか。まさか本当に青年の家なのか?
きょろと辺りを見回すと、やたらと白が目立つ広い空間。だが、レリーフ?とでもいいのだろうか、なんだかよくわからない細かい彫刻などが壁や柱に品良くくっついている。とは言え、それらも壁を邪魔しない淡い色。
それ以外でも、目に見える調度品全てが、カーテンの一つに至るまで、それもこれも高級感にあふれていた。
王宮とか、宮殿とか。そういう種類の何かにしか見えない。
え、本当にここはいったい。
戸惑う俺を、青年が非常に面白そうに見ていることに気付く。
子供はすっかり泣き止んで、否、泣き疲れたのかどうも青年の腕の中で眠ってしまっているようだった。
気付いた青年が子供を見下ろしてふふと柔らかく笑う。
さっきの俺をからかっていたのだろうそれよりよほどキレイな笑みだ。
まるで愛しくて堪らないと眼差しで語るかのような。親が子供を見るかのような眼差し。
だが、先程、子供は確か、にいたま、と青年を呼んでいた気がする。にいたま、つまり兄様、だろう、ということは兄だ。
兄弟。別に何も不自然ではない。少し年は離れているなとは思うけれども、顔立ちなどは非常によく似ている。それに、どうもこの世界では、親子ほど年の離れた兄弟など珍しくもないようだったし。特に、庶民はともかく、貴族などには多いらしい。
それにしてはむしろ親子だと言われた方がしっくりくるな、とは思うけれども。
思わず見惚れていた俺に気付いたのか、青年はその柔らかい笑みのまま俺を見た。
やっぱり何処までもキレイで。俺は戸惑う。
いや、だからそもそも、ここはいったい。それにこの青年は。
「君は随分と素直な性質のようだ。いや、恩人に対してすまなかった、ここが家というのも、あながち嘘じゃないんだ」
説明するような、あるいは、俺を取りなすような? 青年の言葉に俺はきゅっと眉根を寄せる。どういう意味だろうか。
どう見ても王宮とか宮殿とかにしか見えないこの場所が、家で、それが嘘ではない? と、言うことはこの青年はつまり……。
嫌な予感にますます顔をしかめていく俺の予想は、次の瞬間には答えを得ることになった。なぜなら。
「陛下っ!」
と、何処からか現れた騎士のような立派な装いの者たちが、目の前の青年に向かって、そう呼び掛けたからだった。
6
あなたにおすすめの小説
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!
鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。
この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。
界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。
そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる