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6・応接室と敬語
しおりを挟む「ひとまずどこかで落ち着こう。こちらへ。お茶でも用意させるよ」
言いながら青年が歩き出す。その傍ら、ちらと何処かへ視線を投げていたので、その先を追ったら、部屋の隅に何人か多分、使用人だろうと思われる人達が立っていた。
全然気付かなかった。彼らは初めからこの場所にいたのだろうか。多分、いたのだろう。
王宮だとか宮殿だとかで、かつ、陛下の側。誰もいない、なんてことがあるとは思えない。
俺は諦めて促されるままに青年の後についていく。
だって、俺にはもうわかっている。ここで抵抗したり誇示したりすることの方がよくないし、きっと意味なんてないんだろうってことが。
なら、ついていくしかないじゃないか。
幸いにして青年に、何か俺に危害を加えようだとか思っていそうな気配など微塵もなかった。ならきっと大丈夫なのだろう。
むしろどうしてだろう。非常に好意的なように感じられるのだけれど。さっきの、弟だとかいう子供を助けたからだろうか。どうもそれだけとは思えない。
だってあんな場面、多分、俺なんて怪しいことこの上なかっただろうし。
あの時、子供は抱え上げたってひどく泣いたままで、それだけを見たら、人攫いか何かに見られてたっておかしくない。なのに。
「どうしたの? こっちだよ」
知らず、歩みが遅くなっていた俺を振り返って、青年がまた促す。
俺は少し足早に青年に追いついた。
さっきの場所から廊下に出て、少し歩いた先、一つの扉の前で立ち止まった。躊躇いなく扉を開いて。
「ここは応接室の一つなんだ。さぁ、入って。狭めの部屋だから、君もあんまり気負わずに済むと思うよ」
青年の言葉通り、促されるままに足を踏み入れた部屋の中は、なるほど、王宮だか宮殿だかにある割には、こじんまりとした一室ではあるようだった。
とは言え、充分に広くて、思わず眉根が寄ってしまったのだけれども。
なにせここに来るまで、廊下でも目にしていた調度品全部が、この部屋の中の物含めて、どう見ても高級品ばかりなのだ。部屋のだいたい中央に設置されているソファも机も、ひと目見るだけで上質だとわかるって一体どういうことなのか。決して華美というわけではない、むしろ控えめでシンプルでさえある。なのに恐ろしく品がいい。どれもこれも物凄く高そうだ。
いくら部屋の広さがだだっ広くなかったとしても、腐ってもここは王宮だか宮殿だかだってことなんだろう。
「あれ? この部屋でもダメ? うーん、此処より狭い部屋ってもうないんだけど……兵士の詰所とかの方がよかったかなぁ……」
確かに、そちらの方が俺の気は楽だったかもしれないが、仮にもこの青年は陛下であったはず。そんな存在が、ほいほい兵士の詰所に行こうとするっていうのはどうなんだ。来られた兵士の方だって、そんなのたまったものではないだろう。
だから俺はふるり、首を横に振った。
「いや、ここでいい……です」
語尾を付け足したのは、タメ口は多分ダメだと咄嗟に思い至ったから。そんな風にぎこちなくなってしまった俺の語尾に青年が笑う。
「あっはっは。いいよいいよ、気にしないで楽に話して。ほら、僕だって気にしていないだろう?」
にこり、笑った笑顔たとても眩しい。確かに、青年の口調は初めから一貫して非常に気安いものだった。だが、俺がそうするのと青年がそうするのでは、まったく意味が違ってくると思う。とは言え、敬語が苦手なのは確かなので、控えめに首肯しておいた。
なんか、従者とかそういう人に睨まれたりしないかなと内心でびくびくしながら。
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