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9・花のよう
しおりを挟むそれはそれとして、いずれにせよ、皇帝なんて地位にいる人間が、少しばかり有名だからと言って、冒険者のことなど知っていることこそ不思議だ。
特にナウラティスは、冒険者やら傭兵やらの仕事がないということでも有名で、俺自身、おそらく仕事などないだろうから、最悪の場合、素通りするだけのつもりだった。
勿論、ナウラティスにだって冒険者ギルドのようなものはあるし、冒険者そのものは存在している。ただ、彼らが請け負える依頼が極端に少ないのだそうだ。
あるとしても、国外へと出る際の護衛だとか、あとは魔の森近くでの魔獣の討伐ぐらいのもの。それだって後者は国から派遣されてくる兵士などで事足りることの方が多いらしいと聞いている。
そもそも、国そのものへ入国できる人間が極端に少ないことでも有名で。
思想防壁に守られた思想統一が成された国。広大な国土全てを覆うこの思想防壁こそが多くの人間の侵入を拒んでいるのだそうだ。故にナウラティスに住む人々は、入国できたというだけで、どのような国、立場の存在をも受け入れる。
入国さえできれば、幸福が約束されている国。俺はこの国について、そんな風にも聞いていた。
そんな国の皇帝が、冒険者のことなどを知っている。不思議に思わないはずがない。
冒険者度など、関りがなさそうなのにもかかわらず。
「ははは。険しい顔をしているね。僕が君のことを知っていたことが、そんなに不思議かい?」
この男は読心術か何かでも使えるのだろうか。それとも、俺が顔に出やすいだけなのか。これまでそんなことは言われたことがないのだが、心情をぴたりと言い当てられて、俺はますますアーディへの不審を募らせた。
会話を交わせば交わすほど、どうにもおかしな男だとしか思えない。
見た目は非常に美しいのだが。怪しさで全てが台無しだ。
緊張を解かない俺に、アーディは困ったように肩を竦めた。
「いい加減に警戒を解いてくれないか? 他意がないのは本当なんだ。君は弟を助けてくれた。だからその礼をしたい。ただそれだけだ」
「大したことはしていない。ただ、通りがかっただけだ」
「それでも、だ。言っただろう? 何もしないわけにもいかないって」
礼などいい。こちらは固辞しているというのに、どうしてかアーディは食い下がってくる。ますます不審だ。
こちらは本当に通りすがりに、魔獣を1体、倒した。本当に、ただそれだけだったのに。
「あの子は今の所、僕の後継として最有力候補なんだ。それだったら納得できるかい?」
皇帝の後継。つまり、立場としては皇太子のようなもの。それならば確かに、大切にされていてもおかしくはない。だけど。
「最後にそんなことを付け足されたら、納得できるものも出来なくなる」
まるで俺が納得できるように、わざわざ理由を作り出したかのようで。
指摘するとアーディは一瞬きょとんと眼を瞬かせて。次いで、本当におかしくて堪らないという顔で笑いだした。
それはまるで太陽のような、花のような笑顔だった。
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