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16・きっかけ
しおりを挟むいつもの夜だった。
いつものように他愛無い会話を楽しんでいた。
その、はずだった。
それがどうしてあんなことになったのか。
どんな話の流れだったのか。それはすでに定かではないが、確か、互いの恋愛的なことの話になったのだ。
アーディは経験がないのだと言った。
興味がなくて恋人もいたことがないとは聞いていたが、全く何の経験もなかっただなんて。
「うーん……全く経験がない、というと語弊があるんだけど、僕自身が実際に誰かと触れ合ったことがないのは本当だね」
よくわからない話だった。語弊があるということは、経験のようなものそのものはあるのだろうか。だが、誰とも触れ合ったことがないとも言っている。
頭の横で疑問符を飛ばす俺に構わず、アーディはにっこりと笑って。
「いずれにせよ、未経験であることは間違いないよ。機会がなかったわけじゃないけど、どうしてだろうね。誰かに触れたり触れられたりと考えると、どうしても何故か抵抗があって、誰かとそんな風になることが出来なかったんだ」
むしろいっそ、避けてさえ来たのだという。
意外だった。
だってアーディはキレイだ。
俺はアーディほどキレイな人間を見たことがない。人格も、見た目も、能力も地位も。何もかもに優れているのに、そんな経験が全くないだなんて。
「モテそうなのに意外だ」
正直に呟く俺にアーディは笑った。
「あはは。モテるのと経験があるのは違うだろう?」
にやと、悪い顔をするのは俺をからかっているからだろうか。
「モテるのは否定しないんだな」
むっとして返す俺に、アーディはひょいと肩を竦めて。
「そりゃぁね。そんなの、僕がモテないって言った方が空々しいじゃないか。しかも明確に嘘だしね」
そう告げる姿に嫌味はなく、それらがただの事実であることが伝わってきた。
つまり、モテはするのだろう。だけどこれまで経験を持たなかった。否、敢えてそれらを避けてきた。
興味がない。たったそれだけで、そんな全てを、避け続けられるものなのだろうか。気になった。だけど。
「そういう君はどうなのさ。噂に名高い黒騎士くん?」
そう、水を向けられて、今度は俺自身のことを振り返る。
俺もまた、経験がない。
「俺みたいな魔力なしに、構う奴なんているわけないだろ」
「そう? そんなこと言ったって、これまで好意を寄せてくれる人の一人や二人はいたんじゃない?」
勿論、俺だって全く機会に恵まれなかったわけでも、好意を寄せられたことがないわけでもない。だが。
「そりゃ、確かにゼロってわけじゃない。でも……」
この世界で魔力なしは、おそらくはアーディが思う以上に、相手にも自分にもとても大きな障害として立ちはだかるのだ。ましてや俺は冒険者で。
「そういうときって、無防備になるだろ? むしろある程度は無防備にならなきゃ、そんなこと出来ないじゃないか」
誰かとそういう行為に及ぼうとしたことがないわけじゃなかった。ただ、どうしても緊張が解けず、上手く進めることが出来なかったのだ。
雄としての欲望が全くないわけではない。だが、どれだけ思い返しても、それほど強い衝動など覚えたことがなく、多分俺はもともと淡白な性質なのではないかとしか思えなかった。
「絶対にやりたいっていう風に思ったこともないし」
だからそんな経験がないまま今まで来ている。
俺ももう25歳。否、まだ25歳、だろうか。枯れているとは思いたくないのだけれど。
俺の言葉に、アーディは素直に感心する様子を見せていた。
「ふーん。そんなもんなんだねぇ」
それは何処か、全く何も知らない子供のようでさえあった。
どうしてだろうか。俺はどきりとした。覚えた胸の高鳴りに戸惑う。そんな俺に対して、剰えアーディは。
「ねぇ、ならさ、試してみない?」
そんなことを言い出したのだ。
「え?」
驚き聞き返す俺にアーディはにっこり笑ってこう言った。
「僕と。試してみようよ。ね?」
とても華やかに。でも何処か照れ臭そうに。そんなアーディの様子は、何故だろうか。俺の興奮を煽るのに、充分なものだったのである。
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