異世界から来た黒騎士は、大国の皇帝に望まれる

愛早さくら

文字の大きさ
20 / 62

19・溺れる前に

しおりを挟む

 人とはこれほどまでに一度に欲望を吐き出せるものなのか。
 終わった後の俺の感想はそれだ。
 いつの間に移動したのか。あまり記憶は定かではないが、そう言えば最中に、アーディに誘導されたような気がする。
 始めた時は確か、ソファの上だったはず。
 だが、今は二人、裸のまま、寝台に横になっていたようだった。
 何度、吐き出したのかもわからないぐらいにアーディの中へと欲望を注いで、アーディも幾度も果てていた。
 互いの体液でドロドロになっていた体は、しかし今は汚れている様子もなく、いつの間に、誰がと、少し気持ち悪くなる。
 魔法か何かだろうか。それとも、使用人が処理でもしたのか。流石は大帝国の王宮に勤める使用人だ。全く気付かなかった。
 今も周囲には人の気配がない。
 だが、本当に誰もいないのかどうかの判断が、今の俺には出来そうもなく、このあまりに平和すぎる王宮に滞在して、すっかり気を抜いてしまっているようだと自省した。
 しっかりしなくては。
 あんな行為にあんなにも没頭してしまったのもそうだし、何かの気配には常に敏くいなくては、冒険者など務まらない。
 気を引き締める必要があるだろう。と、言うよりはおそらく俺は可能な限り早くこの国を出た方がいい。
 何故なら。
 傍らで眠るアーディを見る。
 受け身がよほど負担だったのだろうか、きっと疲れ切っているのだろう、すうすうと寝息を立てるアーディに、起きる様子は全くない。
 俺が今多少隣で身じろいでも、きっとアーディは一向に気付かないだろう。
 寝姿まで美しい。
 窓から射し込む薄い月明かりに縁どられ、真白い肌が艶めかしく、夜に浮かび上がるようだ。
 なんてキレイなんだろう。
 このキレイな存在が、先程まで確かに、俺の腕の中で啼いていたのだ。
 淫蕩に体をくねらせ、体の奥深くまで、俺の欲望を受け入れて。時には自分から腰を振ってさえいた。
 気持ちよくて堪らなかった。アーディも快楽を感じてくれていたようだった。
 でなければきっと、あんな甘い声で、何度も何度も俺を呼んだりなんてしないはずだ。
 経験がないと言っていたけれど、本当だろうかと疑ってしまいそうになる艶めかしさ、だが動作の端々は逐一、躊躇いと物慣れなさにあふれていて、正しくアーディにこう言った経験がないことを示していた。
 同じように俺自身も初めてで。
 性行為というものが、まさかこんなにも気持ちがいいものだったなんて。これに夢中になって我を忘れてしまう者たちの気持ちが、ようやく少しわかったような気がした。だが。

「でも。……――アーディ以外は、嫌だな」

 小さく呟く。
 あまりに美しすぎた所為だろうか。アーディの体に溺れる、目くるめくような快楽を知って。どうして他に目を向けられるというのだろう。
 予感があった。
 俺はきっとこの存在に、容易く溺れてしまうのだろうという、そんな予感だ。
 だから。

「早く、此処を去らなければ」

 美しすぎるこの存在に、絡め取られ身動きが取れなくなる前に。俺が冒険者でいられるうちに。

「だって、アーディ。お前には俺じゃ、駄目だろう?」

 だって彼はこの大帝国の皇帝なのだから。
 呟く俺の言葉に、応えるものは何もなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

一夜限りで終わらない

ジャム
BL
ある会社員が会社の飲み会で酔っ払った帰りに行きずりでホテルに行ってしまった相手は温厚で優しい白熊獣人 でも、その正体は・・・

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

処理中です...