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21・お守り
しおりを挟む俺がナウラティスを、否、王宮を出るというその日。大変に名残惜しい様子で見送りに出てきたアーディは、一つの魔道具を俺に渡してきた。
「これはね、お守りなんだ。君の身に危険が及ばないようにと僕が魔術を込めてある。君に張った結界の源と思ってくれていい」
アーディは当たり前のようにそんなことを言ってきたが、つまりアーディは俺の知らない間に、俺自身に結界を張っていたのだそうだ。
そんな勝手なことをいつの間に、とは思ったが、これはきっとアーディの善意なのだろうと思うと、拒否することもできず、俺は差し出された魔道具を受け取った。
なんでも、俺に対してアーディの張った結界は、ナウラティスで広く使用されている守護結界で、国を覆っているものと同じなのだという。
ただし、俺の普段の生活の妨げとならないように、効果はごくごく弱めてあるのだとか。
有名な話だ。悪意や害意を弾くのだというそれ。
ナウラティスの外では、むしろそれに抵触しないことの方が難しいのだそうで、だから、接触そのものを弾くようには出来ていないと聞いて、俺は少し安心した。
その代わりに、物理的に、あるいは魔法などにより害されることについては弾いてくれるらしい。
悪意や害意に関しても、そういう効果は皆無ではないので、それらを持っている人間は、近づけないということはなくとも、なんとなく近づきたくないとは思うのではないかとのこと、それぐらいならばいいかと頷いた。
アーディは非常に詳しく説明してくれ、理解を示した俺にほっと息を吐いてほわと、柔らかく微笑んだ。
「よかった。嫌がられたらどうしようかと思っていたんだ」
そうしてどこか眩しそうに俺を見る。
そんなアーディの様子に、とくり、俺の胸が高鳴った。
自覚した俺は眉根を寄せる。まずい。これはきっと良くない兆候だ。やはり、離れることにして正解だった。
だって、こんな些細な笑顔さえ、これほどまでに眩しく見えるだなんて。そうやって笑うアーディを、かわいく思うだなんて。
これは本当にやはり良くないと思うのだ。
「とにかく、それを肌身離さず持っていて。君を守ってくれる、僕と君をつなぐ魔道具だよ」
にこり、笑ったアーディは、何度もそれを念押しして、俺はその度に頷いて。
そうしてお互いに名残を惜しみながら、ようやく俺はナウラティスの王宮を、後にすることが出来たのだった。
芽生え始めたアーディへと向かう心の欠片を。大切に胸に抱きながら、きっとこの魔道具を、その思いの象徴のように大事にするのだろうと、自分でもそう予想していた。
その魔道具を渡された本当の意味を、知らないままに。
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