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57・それぞれの答え①
しおりを挟む山越えはその後はとくに何事もなく進んだ。
盗賊などに襲われるのもあれだけで、他とは遭遇せず、俺と護衛役の男の仕事は警戒程度。獣などは少々除ける必要があったがそれだけ。それ以上がなく済んだのは、幸運というより他にない。
アーディなどは少し、つまらなさそうにしていたぐらいだった。
否、それはそれとして、そのつまらなささえ楽しんではいたようなのだけれど。
商団の者たちも、あれっきり、アーディを疑ったりすることはなく、むしろ頼りにさえしているようで、
「今のところ特に怪しい気配はないよ」
と伝えてくれるアーディに、
「君がそういうのならきっと問題ないのだろうね」
などと安堵した様子を見せるほどだった。
元々そこまで日数を要する山越えではなく、ほんの数日で国境まで辿り着き、特に問題もなくデアミノイスに入国した。
アーディも事前に冒険者登録は済ませていたので、特に国境で何かを疑われるようなこともない。
冒険者協会で発行されている登録証は、大抵の国で身分証として通用するものだからだ。
冒険者登録には一応基準があるのだが、アーディは当たり前のようにその基準を満たしていて、おかげで彼は、彼本来の身分を明かすことなく身分証を手に入れていたのである。
山さえ越えられればあとはもとより同行している護衛の男だけでなんとかなるということで、俺が違受けた依頼はそこまで。国境を越えて一番初めの町で商団とは別れ、またアーディと二人に戻る。
だけど何となく、あの護衛依頼を受ける前とは、俺の気持ちは変わっていた。
「また、二人っきりだね」
そんな風に笑うアーディにドギマギする。
だけどそれは決して嫌な感情ではない。
ああ、アーディと、はじめの話はどうなっていただろうか。
俺はアーディと二人、並んで歩きながらそんなことを考えていた。
そろそろ、提示していた一ヶ月になる。
もともと俺は、アーディが同行することそのものについて、特に何か不都合があるわけではなかった。
ただ、アーディ自身の立場や容姿から、面倒なことになるのではないかと危惧していただけで、アーディと行動を共にすること自体が嫌なわけではない。
だからアーディ自身が提示した一ヶ月も、俺というよりはアーディ自身の、確認という認識が強かった。
アーディが俺と共にある生活に対応できるか否かという話だ。
アーディが実際にこの一ヶ月弱をどう感じていたのか、それは俺にはわからない。だけど。
楽しんでいるように見えた。
それだけは確かなことだった。
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