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58・それぞれの答え②
しおりを挟む商団と別れた町でそのまま一泊して、次の町を目指すのは翌日にする。
まだ陽が高く、おそらくこのまま次の町ぐらいまでなら今日中に着けるのではないかとは思ったのだけれど、アーディが一度、国に戻ると言ったので、余裕をもって、彼を待つことにしたからだった。
流石に数日戻っていないので、きっと仕事が溜まっているだろうとアーディが心配そうな顔をしながら、しかしアーディは、俺にはそのまま進んでいてもいいとも告げてきた。
国境付近のこの町は小さく、冒険者協会の支部もない。
商団の者も、すぐに次へと向かったぐらいで、この町にとどまった所で、何もないと言ってよかった。
長閑な田舎町。
国境が近いので、宿は辛うじてあるもののそれだけ。
あとあると言えば、宿に付随した酒場ぐらいで、他には観光できるところも何もない。
むしろ余程でない限り、ここに留まるより先へ進む者の方が多い、それぐらいには長閑な町だった。
いっそ村に近い、それぐらいの規模の町である。
そんな場所でこれから明日の朝まで。
いくら俺でも時間を持て余すのではないかとアーディは危惧してくれたのだろう。
だが、これまでそんなことはいくらでもあって、何もなくともやることを見つけることぐらいはそれほど苦ではないし、高々半日やそこらである。
それこそ、宿で休んでいたっていい。
アーディ曰く、俺が多少先へ進んだところで、彼ならすぐに見つけられるという。
「一応、ね。まだ精度はそれほどではないけど、君の近くへは転移できるんだ。今更だけど、ほら、それ」
そう言って指し示されたのはナウラティスから出る際に差し出されたお守りだ。
アーディと俺とをつなぐ物だと言っていた。
勿論、俺だって元々、本当にただのお守りだとは思っていなかったのだけれど、どうやらアーディ曰く、アーディに俺の位置を知らせるような機能が付いたものであったらしい。本当に真実、俺とアーディを繋いでいたというわけだ。
「ごめんね、君に何も言わずに」
謝罪の言葉を口にしながら、おそらく全く悪いとは思っていないだろうアーディの様子に、俺は首を横に振った。
別に嫌でもないし、疎ましく思ったりだとかもしていない。
むしろ、このお守りを俺が持つことによって、アーディにも利点があったのだと知ってほっとしたぐらいだ。……――俺の位置を知ることが出来るということが、アーディの利点となることそのものについては思う所がないわけではないが、それも別に不快とは思わない。
だから別に俺が多少移動していても問題ないのだというアーディに、そもそも急ぐ旅でもなし、たまにはゆっくりすると告げ、渋るアーディを見送った。
まさか俺は思ってもみなかったのだ。翌朝になってもアーディが戻らないだなんて。
「アーディ……」
俺が、ぽつり、呟いた俺自身の声に、どうしようもない寂しさが混じっていることを自覚したのは、その更に翌日のことだった。
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