104 / 141
27-3
しおりを挟む一瞬、考える。
このまま進んでいいのか否か。
恐ろしい、そう思う自分がいた。だけど。
(えぇい、ままよっ)
躊躇していたって埒が明かない。
止まってしまっていた足を再び動かしだす。
侍従や護衛達は戸惑いながら、だけど何処か鬼気迫るような俺の雰囲気ゆえか止めてきたりしなかった。
こんな時に、俺に話しかけられるのなんてきっとシェラぐらい。
だからこその専属侍従なのだけれど、そのシェラも今はいないのだ。
これだけ歩くのはいつぶりだろうか。
広々とした庭をただひたすら突っ切っていく。
どれだけ止まらず歩き続けたことだろう。
これほどまでに動いたのは、ルニアとなってから初めてではないかと思う程。
流石に疲労を感じざるを得ない。
だけど、目指しているのは更にその先で、ようやく目の前に庭の区切りとも言える渡り廊下のようになっている場所が見え始めた。
衛兵が見える場所で二人、見えない場所で更に数人立っているのがわかる。
気配がした。
警戒も露わにこちらへと注視している。
ここは夜会などがあったおり、招待客などが立ち入ることのできる中庭……――つまり、場合によっては外部のものも出入りできる場所と、その更に奥に位置する、王宮勤めの官吏やそこで暮らす王族などのみが使用する庭との境目で、通常、特別に発行される許可証などがないと通れなくなっていて、衛兵たちはそれを確認する役目も担っている。
とは言え、それはあくまでも中庭から更に奥に行く場合のこと。
奥の庭を使用する官吏などもこの渡り廊下のようになっている場所は基本的には通らず、王宮内を通ることが一般的で、それはつまり官吏などが中庭へ出る場合であっても許可証が必要だからこそなのだが、中庭からの場合よりは確認が甘くなるようではあった。
許可証の種類も違うと聞いている。
いずれにせよ俺は今、そんなものなど持っておらず、だけど必要ないことを知っていた。
王宮内で王族が立ち入れない場所など、余程の場所でもなければ基本どこにもない。
それこそ、それぞれの私室ぐらいのものだろう。
それだって、部屋の持ち主の許可さえあれば立ち入れる。
このような庭などは当然、その限りではなく。
そのまま通り過ぎようとした俺に、流石に衛兵が声をかけてきた。
「お立ち止まり下さい、王太子妃殿下。本日、こちらにいらっしゃるという連絡は受けておりませんが」
何も言わず通すわけにはいかないという所なのだろう。
俺が婚姻式からこちら、ほとんど部屋に閉じこもって静養に努めていることは、城に勤めている者ならば、知らぬ者などいない事実だからなのだから。
不審に思うのも当然のこと。
だが、彼らに俺を止める権利などは微塵もない。
「構うな。気になるのならラティにでも誰にでも好きに報告しろ」
おそらく、彼らからすればはじめて見るのだろう俺の様子に、衛兵たちが顔を見合わせて戸惑っているのが伝わってくる。
それは俺に着いてきていた侍従や護衛達も同じで、何事かを視線で交わし合った彼らは、しかし、今の俺は止められないとそう判断したようだった。
「かしこまりました。でしたらご報告を上げさせて頂きます。それとは別に更に数人、お付けさせて頂きたいのですが……」
護衛を増やしたいということなのだろう、あるいはそれがここを通す条件なのか、特に止めるようなものでもなかったので、俺は鷹揚に頷いた。
そしてようやく渡り廊下を抜けて中庭へと進んでいく。
今日は特に行事などが予定されていない所為か、この先にも人の気配などは、どうやら感じられないようだった。
35
あなたにおすすめの小説
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!
華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる