【完結】気がつけば推しと婚姻済みでかつ既に妊娠中だったけど前世腐男子だったので傍観者になりたい

愛早さくら

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37・夢とすべて

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 夢を見た。

(ああ、これは……)

 見た瞬間に理解する。
 前世の夢だった。
 前に見た夢とは違う、俺は小説の内容を疑似体験しているわけではない、とは言え、それがどんな状況なのかだとかはよくわからなくて、多分自室だと思われるベッドの上、俺は小説を読んでいるだけの夢。
 文庫サイズの本、鮮やかで明るい色に彩られた美麗なイラストの描かれた表紙と同じ絵柄の挿絵。
 そこで目にする人物キャラクターは見覚えのある者ばかり。
 今、夢ではない現実で。
 俺の周りにいる人間しかいなかった。

(そりゃそうだ。挿絵にしろ表紙にしろ、だってメインキャラしか出て来ない)

 特にこう言う小説の挿絵はそう数も多くないし、他のキャラが出てくる確率は低くて。
 それでなくとも俺はどうやら他のキャラになんて微塵も興味を持っていないようなのだ。
 主人公と、ヒーロー、そして悪役……つまりシェラとラティ、ルニアだけにしか。
 楽しそうに、わくわくしながら小説を読み進めている。
 これはいつのことだろう。
 巻数が多い小説ではなかった。
 というよりは前後編だ。
 多分一冊に納まらなかったのだろう、1冊ずつはそれぞれ、分厚い小説というわけでもない。
 よくある、ありふれたと言ってしまってもいいようなBL小説。
 でも俺はこれが好きで。
 多分、絵が大変に好みだったというのもあると思う。
 主人公シェラの相手役となるラティが特にかっこよかったのだ。
 数えるほどしかない表紙絵や挿絵を、いつも舐めるようにして見ていた。
 コミカライズはしていなかったから小説だけ。
 人気のある話だったのかどうかすらも知らない。
 ただ、俺は好きだったのだ。
 だから内容なんてわかり切っているのに何度となく読み返していた。
 何度も、何度も、何度も。
 ワクワクと、ドキドキと、ああ、好きだなぁ! なんて思いながら。
 時にシェラを応援しながら。先の展開なんてわかってるのにハラハラしながら。
 ……――あるいはルニアのことを。かわいそうにな、なんて憐れんで。
 それで。
 ああ、それで。



 他のことはわからなかった。
 本を読んでいるというただそれだけの夢。
 相変わらず、これが前世だとはわかるのに、自分の名前だとか家族に関してだとか仕事だとか、あるいはこの夢がいったいいつのことなのかだとか。
 年齢も、状況も何もわからない。
 休日とかかな? とも思うけれど、仕事が終わった後の夜かもしれない。
 ただ好きな本を読んでいる、それだけの夢。
 ただ、それだけの夢だった。
 でもわかる、わかってしまう。
 それが全てなのだ。
 きっと、これが全部。
 俺が今世に引き継いだ大切なこと。
 否、俺の現状がおかしくなっている理由。
 シェラに、わけのわからない慕わしさを感じてしまうのは何故なのかということ。
 前世で好きだったこの小説の記憶があるから。
 きっと、ただそれだけ。
 たったそれだけが、今まで生きてきたルニアを打ちのめしてしまった、おかしくしてしまった。
 ああ、本当にただ、それだけで。
 この夢を見たことに意味があるような気がした。
 でももしかしたら意味なんて……――ほんの少しだって、ないのかもしれなかった。
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