【完結】子供が欲しい俺と、心配するアイツの攻防

愛早さくら

文字の大きさ
11 / 11

11

しおりを挟む

 結論から言うと子供は出来なかった。
 否、作ろうと思えば作れただろう。けれど、それが叶わなかったのはつまり俺の問題で。
 欲しいと、そう、願っていたはずなのに、同時にどこかで躊躇してしまっていたのだろう。あるいはそんなことにまで意識が回せないぐらい、フィムに夢中になってしまっていただけなのか。
 初めての性行為は、気持ちいいだとかなんだとかいう次元を飛び越えて、ただひたすらに凄くて。
 胎の中、というか、俺の尻に、フィムの、めちゃめちゃでかいアレが入っていたのは間違いないし、長いこと揺さぶられて、何度も魔力を注がれた。
 いつの間にか意識がなくなって、そのまま寝て、起きて今も。俺の体の奥の方では、フィムの魔力が濃く渦巻いている。
 これをこのままこねたら、子供になることはわかっていた。
 けれど、なんだかそれが惜しくて、もったいなくて。
 まだ、俺だけで堪能していたくて、だから、今となっては子供を作るのは、せめてあと数回、フィムと仲良く過ごしてからでいいと思っている。
 それを一にするかは、フィムとも相談したいとも。
 フィムのあれは信じられないぐらいに大きいし、俺は小さいままだし、けれどケガをしたりだとかは、どうやらしていないようだった。
 多分フィムが執拗に、それはもうこれでもかというぐらいに、時間と手間をかけて、俺と蕩けさせてくれたからなのだろう。
 衝撃は、どうしようもなく大変なものだったけれど、それだけで、今も、痛いだとか言うことはない。
 ただ、違和感はひどいし、全身が重怠く、特に下腹部は熱を持って、いまだにじくじくと疼いているように感じられる。
 とは言え、それは痛みではなく、違和感だ。
 まだお尻に何か挟まっているような感覚が残っているのは、大きすぎるフィムを受け入れた弊害なのだろう。
 フィムと俺の体格差で、初めて性行為に挑んだにしては、体の状態は決して悪くなんてなく、それはつまりどれだけフィムが俺のことを気にかけてくれていたのかという証明のようで。何より、

「多分、全部は入ってなかったしな……」

 正直、記憶は定かではないが、間違いないだろう。
 流石に、フィムの全てを受け入れていたら、今よりもっと大きな違和感を抱かずにはいられなかっただろうから。
 特に胎の中は、今、疼いている部分より更に奥まで、熱が広がっていたはずだ。
 フィムに、気遣われている、それはつまりどれだけフィムが俺に心を傾けてくれているのかの証のようで。
 ふわふわと、心が満たされていくようだった。
 今、俺はフィムの愛に満ちている。
 体の隅々、腹の奥まで。
 それが、なんだかくすぐったくて、愛しくて。
 くすくすと知らず、笑いがこぼれた。
 今、俺はこれまで感じたことがないほど、満ち足りている。

「ん……アーシャ? ……起きたの?」

 そんな俺に、気付かないわけがなかったのだろう、すぐ隣で眠っていたはずのフィムから声がかかった。
 起こすつもりはなかったので、少しだけ申し訳なくなる。
 ただ、俺は目が覚めて、改めて昨夜の、否、たった数時間前の行為を思い出して、幸せに浸っていただけなのだから。

「うん、ほんの今、さっきね。ごめん、起こしちゃったな」

 そりゃ、隣でぶつぶつ呟いたり、くすくす笑ったりしていたら起こさないはずがない。
 好意で疲弊しているのは、フィムも同じはずだから余計に。
 フィムは、改めて俺に向き直って、じっと注意深く俺を見て。
 ややあってから、どこか、安心したように微笑んだ。

「どこかも、辛い所とかはなさそうでよかった」

 どうやら俺の不調を確かめようとしていたらしい。
 俺は頷く。

「うん。大丈夫。そりゃ、違和感とかはあるし、万全、とまではいかないけどさ。でも、なんか、あの……初めてで、あんな。凄いことしたのに、思ってたより全然平気だ」

 前世で。例えば、1人で遊ぶために色々な道具を使った時には苦労した。
 特に初めて、尻に何かを入れた時なんて、なかなか入らなくて痛くて。
 その後だって、腹の違和感はひどかったし、それに近いものは確かに今も感じているけど、でも。
 今は、その時とは比べ物にならないぐらい、体の調子としては、悪くなかった。
 もっとひどい状態になる覚悟もしていたのに、そんなことは全くなくて。
 愛されている、大事にされているのだと感じられた。
 そうしたら、なんだか胸がくすぐったくなって。
 今も、フィムは俺を気にかけてくれている。
 それが嬉しい。

「フィムが、ずっと俺を気遣ってくれてたからだろ? ありがとう、フィム」

 フィムは初め、行為自体も止めようとしていた。
 ねだったのは俺だ、なのに。
 ずっと、俺を大事にしてくれているままだった。
 だから今はこんなにも満ちて。

「子供はさ、結局、まだ作ってないんだけどさ、でも……」

 子供の作り方はわかっているのだ。
 今、腹に溜まっているフィムの魔力を練って、望めばいい。
 それできっと子供になるだろう。けど。

「今は、そこまで焦らなくていいかな、って思ってる」

 もう少しこのまま、子供にはせず、フィムの魔力を俺だけで抱えていたいと。
 俺だけのものにしておきたいと。

「急に、ねだってごめんな?」

 もっと、大事にしたってよかった、俺たちの初めてを、俺の我が儘で押し切った。
 今更、ちょっとだけ申し訳なくなってきた俺に、フィムは微笑んで。

「いいよ。構わない。アーシャ、今なんだか満足そうな顔してるし、俺がそんな顔させられたんなら、それでいい」

 アーシャが欲しかったのは俺の方も、だしね。
 なんて、どこか悪戯っぽく俺の耳元で囁いてくる。
 それもまた、くすぐったくて。
 俺はやっぱりくすくすと笑った。

「なぁ、なぁ、フィム、フィム」

 幼子みたいに名を呼んだ。

「俺、フィムでよかった。前世を思い出して、目の前にいたのがフィムでさ。それで、俺の婚約者がフィムでよかった」

 幸福にくすくすと笑いながら囁き返す。
 ベッドの中で向かい合って、抱き合って。
 この場所には今、幸いだけが満ちていた。
 でも、なんて言ってみたのは、この場所があまりに満ち足りすぎていたからだろう。
 もともとフィムにねだった、一番初めの希望も決して嘘や偽りなんかではなかったから。

「もうちょっとしたら、やっぱり子供、作ろうな」

 子供を持ちたい気持ちは、やはり俺の中にあるままなので。
 そうしたらフィムは一瞬、きょとと目を瞬かせたかと思うと、次の瞬間には噴き出して。
 ひとしきりくすくすと笑ってから小さく笑んだ。

「いいよ。でもそれはせめて、アーシャがもう少し大きくなれてからね」

 条件付きの了承に、俺が小さく口を尖らせたのは、半分はただのポーズ。
 フィムの意見に、概ね俺も同意ではあるから。けれど。

「んもう、待ち切れないって言ってるのにさ。でも、それまでにもいっぱい『仲よく』しような」

 こういうこと・・・・・・も、もっとしよう。
 そうしたらフィムの気持ちも変わるかもしれないし、なんて。そもそも、子供は俺の意思一つですぐにも作れるというのに、作りもせず、口先だけでそうねだる俺を、フィムはいったいどう受け止めたのだろう。
 きっと悪くは思っていないと思う、だって、俺を抱きしめるフィムの腕に力が込められたから。
 ああ、フィム。
 幸福に酔って、最愛と抱き合いながら俺は笑った。
 これは本当に只の戯れ。
 どうやらもう少しだけ、子供が欲しい俺と、心配するフィムのやり取りは、続けられそうだ、そう思ったのは、そのやり取り自体が、フィムと俺の気持ちの交感みたいに感じられ仕方なくて。
 そこにはただ、愛しさだけが満ちていた。




Fine.
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。 公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。 そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。 アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。 その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。 そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。 義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。 そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。 完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日投稿だけど時間は不定期   【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。  次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。    巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。

アルファの双子王子に溺愛されて、蕩けるオメガの僕

めがねあざらし
BL
王太子アルセインの婚約者であるΩ・セイルは、 その弟であるシリオンとも関係を持っている──自称“ビッチ”だ。 「どちらも選べない」そう思っている彼は、まだ知らない。 最初から、選ばされてなどいなかったことを。 αの本能で、一人のΩを愛し、支配し、共有しながら、 彼を、甘く蕩けさせる双子の王子たち。 「愛してるよ」 「君は、僕たちのもの」 ※書きたいところを書いただけの短編です(^O^)

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...