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第1章
1-2・発端。つまり理由②
しおりを挟む新しい俺の立場はあくまでも正妃である。
で、あるならば当然、婚姻式も行われることとなった。
流石に前王妃の喪が明けてからの予定で、俺はそれに先んじてニアディスレ王宮へと入ることになり、その際、まるでパレードさながらの派手な入宮となったのはやはり、これが正式な輿入れであり、そうすることがつまり、俺の生家となるリモヌツ公爵家、ひいてはリセデオ王家の威光を示すこととなるからに他ならなかった。
俺とニアディスレの国王ルスフォルとの婚姻が正式な物であり、何ら後ろ暗いことのない、誰からであっても、祝福されるに足るとなっているからこそ。
加えて一部ではありつつも、俺の実母の生家となる、ナウラティス王家からも護衛が寄越されたのは俺が決して、ニアディスレで弱い立場にならないための気遣いなのだろう。
王族、あるいは高位貴族からの輿入れとするならば、何らおかしなことではない。
街道を進むと、国民は概ねこの度の婚姻を好意的に受け止めているらしく、歓迎の声に包まれた。
リセデオ王家が用意した馬車の中で。俺はそれらをどうしても複雑な気分で眺めることとなった。
感情というのはままならない。
理解はしているのだ。
今の俺の立場なら、これは決しておかしなことではないのだと。
むしろこうであらなければいけないことも。俺はちゃんと理解している。
ただどうしても、10年前の記憶が拭い去れないだけなのだ。
10年前。あの日々の中で、俺は。
カタン、微かな音を立てて馬車が止まったのは当たり前だがニアディスレの王宮の中だった。
俺の歓待を示す為なのだろう、王宮の主だった高官はもとより、国王本人までもが出迎えに出てきてくれていて、10年ぶりに見るその姿に、ツキリ、俺の胸が痛みを訴えた。
変わらない。否、少し大人としての落ち着きが増しているだろうか。
今年30歳となるはずの若き国王は艶やかな紫色の短い髪を、しっかりと後ろへと撫でつけた姿で、琥珀色の瞳は笑みもせず、こちらを見つめていた。
ルスフォル。
相変わらずの美丈夫っぷりだ。
もっとも、どの国の王族、あるいは貴族であっても、平民よりも魔力が多いのが普通で、魔力が多ければ多いほど、実際の造作以上に美しく感じ、惹かれるのが一般的だった。
とは言え、ルスフォルは造作自体も非常に整ってはいるのだけれども。
俺のどちらかと言わずとも女性めいた容姿とは似ても似つかない、雄々しく逞しい印象を受ける美形だ。
初めて出会った時にぽやんと見惚れてしまったのが懐かしい。
あの時から、俺の目には非常に魅力的に見えたものだけれど、それは今も変わらないらしい。
何故なら俺の胸は痛みと同時に、誤魔化しようもない高ぶりも確かに今、感じているのだから。
御者が馬車の扉を開けるのを待っていたかのようにルスフォルが一歩前に出て、俺に向かって手を差し出し、エスコートさながら、馬車を降りるのを手伝おうとしてくれる。
ルスフォルから、こんな対応を受けるのは初めてだった。
しくしくと胸が痛む。
だが俺はそんなこと顔には一切出さずに行儀よく大人しく、差し出された手に手を重ね、ルスフォルからの補助を受け入れて見せた。
高位貴族の息子らしい態度で、だ。
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